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柄谷行人『世界史の構造』ノート2

2.交換様式のタイプ

商品交換(交換様式C)と異なるタイプの交換がある

①交換様式A:贈与ーーお返し
商品交換(交換様式C)が始まるのは共同体と共同体の間←マルクス

個人が交換しているのではなく、家族・部族の代表として交換している
互酬は、世帯内での共同寄託(再分配)と区別される
たとえば数世帯いる狩猟採集民のバンドでは、獲物の共同寄託が行われ、平等に再分配される
これに対して互酬は、外のバンドや世帯に恒常的に友好関係を形成しようと行われる

互酬を通して、より大きな共同体を成層的に形成する

②交換様式B:継続的な略取→再分配
共同体が別の共同体を継続的に略取しようとする場合、相手にも与える(見返り)必要がある

つまり

支配共同体は、服従する被支配共同体を他の侵略者から保護して、灌漑などの公共事業によって育成する

国家の原型
国家の本質は暴力の独占にある←マックス・ウェーバー
国家は、服従に対して保護を与える=交換

未開社会の再分配(首長による互酬的な強制による共同寄託)と、国家による再分配(継続的な略取のための再分配)は異質である。

国家は首長制の延長にあるのではなく、略取→再分配という交換様式Bに基づいている

③交換様式C:商品交換

相互の合意に基づく。贈与によって拘束したり、暴力によって強奪されたものではない。
商品交換は、互いに他を自由な存在として認識した時に成立する。

各個人を、贈与原理に基づく一時的な共同体の拘束から独立させる。
都市は、そのような個人が作ったアソシエーションによって形成される。
(二次的な共同体ではあるが、一次的な共同体とは異なる)

商品交換において重要なのは、相互の自由を前提するにもかかわらず、相互の平等を保証するものではない。

商品交換は、生産物やサービスが直接交換される、、、わけではなく、実際は、貨幣と商品の交換として行われる。
その場合、貨幣と商品、またはその所有者の立場は異なる。貨幣を持つ者は、暴力的強制に訴えることなく、他人の生産物を取得して、他人を働かせることができる。

それゆえ

貨幣を持つ者と商品を持つ者、あるいは債権者と債務者は平等ではない。

貨幣を持つ者は、商品交換を通して貨幣を蓄積しようとする。←貨幣の自己増殖としての運動としての、資本の活動である。

資本の蓄積は、他者を物理的に強制させることによるのではなく、合意に基づく交換を通してなされる。
それは、異なる価値体系での交換から得られる差額(剰余価値)によって可能となる。

貧富の差を生み、交換様式Bによる「身分」とは異なる「階級」(相互に結びつくこともある)を生み出す。

④交換様式D=X
B(国家)を否定し、Cの階級分裂を超えてAを高次元で回復するもの。
自由で同時に相互的な交換様式。
A、B、Cのように実在するものではない。B、Cによって抑圧され互酬性の契機を想像的に回復しようとするものである。
したがってそれは最初、宗教的な運動として現れる。

道徳的な領域は、経済的な領域とは別に考えられているが、それは交換様式と無縁ではない。
ニーチェ は、罪の意識は債務感情に由来すると述べた。彼は交換様式Aから生じる負い目であることを見なかったが、交換様式Cが浸透した現代では、負い目は金で返せる。罪の意識が薄れる。
道徳的・宗教的なものは、一定の交換様式と深くつながっている。

したがって

経済的下部構造を、生産様式としてではなく交換様式として見るならば、道徳性を経済的下部構造から説明できる。

交換様式Aは、富や権力を独占できない。国家社会では、交換様式Aは従属的な地位におかれ、そこでは交換様式Bが支配的となる。その下で、交換様式Cも発展するが従属的である。
交換様式Cは資本制社会において支配的となる。
交換様式Aは抑圧されるが、消滅することはない。「抑圧されたものの回帰」←フロイトとして回復する。これが交換様式D
原始キリスト教などにおける共産主義

社会主義は根本的に交換様式Aを高次元において回復する。


実際の社会構成は、これらの複合体である。

交換様式Cがドミナントとなる資本制社会は、資本制生産によって規定される。
資本制生産を特徴づけるものは、分業と協業や機械の使用といった形態ではない、人間が商品化されるのではなく、人間の労働力が商品化される社会。
それには土地の商品化を含め、社会全体に商品交換が浸透しないと生じない。

マルクス主義者は国家やネーションをイデオロギー的上部構造とみなしてきた。しかし、国家やネーションが資本主義的な経済的構造に還元されない自立性を持つのは、「相対的に自立性を持つイデオロギー的上部構造」としてあるからではなく、それらが、それぞれ異なる経済的下部構造、すなわち、異なる交換様式に根ざしているからだ。
『資本論』は商品交換が形成する世界だけをを解明しようとした。それは、他の交換様式が形成する世界、つまり国家やネーションをカッコに入れることによってなされた。



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