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柄谷行人『世界史の構造』ノート3

3.権力のタイプ

さまざまな交換様式から生じるさまざまな権力について考える。
権力とは、一定の共同規範を通して、他人を自分の意志に従わせる力である。

3つの共同規範

①共同体の法。
掟。明文化されることもほとんどないし罰則もないが、破れば村八分か追放。

②国家の法。
共同体の間、あるいは多数の共同体を含む社会における法。掟が通用しない空間における共同規範。

③国際法
国家間における法。②が通用しない空間における共同規範。

共同規範が権力をもたらすのではないが、共同規範は一定の権力なしでは機能しない。
権力は暴力にもとづくと考えられているが、それは②の場合だけである。たとえば①では、暴力と異質な強制力が働く場合がある。これを贈与による権力と呼ぶことにする。
マルセル・モースは自己破滅的な贈与であるポトラッチに関して次のように述べている。

●要点●
与えるということで優越性を示す。もらってお返しをしない、できないということは従属を示す。

交換されるものの中には…贈与を流通させ、受け取らせ、返礼させるある種の力が存在する。→ハウ

互酬交換に一種の権力が付随する。

共同体の一員であることは、すでに生まれながらに共同体から贈与されている。
各員はそれに返済する義務を負う。共同体が各人を拘束する力は、そのような贈与の力。

国家は、実際には、ある共同体が暴力を持って他の共同体を支配することで成立する。
それが一時的でなく恒常的であるためには、この支配を、共同体を越えた、つまり支配者あるいは支配共同体自身かそれに従うような共同規範にもとづくようにしなければならない。国家はその時に存在する。国家の権力は暴力に裏づけられているとはいえ、つねに法を介してあらわれる。

②国家の法を強いる力も、一種の交換に根ざしている。ホッブスは国家の根底に「恐怖に強要された契約」を見た。それによって「一方は生命を得て、他方は金または労働を得るという契約」である。
国家の権力は暴力的強制だけではなく、(自発的な)同意によって成立している。→一種の交換様式

③の場合はどうか。国家間の交易、交易の現実から生まれてきた法「自然法」。交易を支えるのは共同体や国家の力ではない。商品交換の中から生じてきた力。貨幣の力だ。

商品交換は共同体と共同体との間に発生した。そこで成立したのは一般等価物(貨幣)による交換である。これは「商品世界の共同作業(マルクス)」である。=商品の間の社会契約。

このことに国家は関与していない。実際には国家と法がなければ商品交換は成り立たない。契約が履行されることはない。しかし、国家は貨幣がもつような力をもたらすことはできない。
貨幣は国家によって鋳造されるが、それが通用するのは国家の力によってではなく、商品(所有者)たちの世界の間で形成された力。
国家あるいは帝国がおこなうのは貨幣の金属量の保証だけ。一方、貨幣の力は国家や帝国の範囲を越えて及ぶことができる。

商品交換は自由な合意にもとづく交換であり、共同体や国家とは違うがゆえに、異なる支配が生まれてくる。

貨幣の力は、貨幣(所有者)が商品(所有者)に対して持つ権利にある。
貨幣はいつどこででもどんな商品とも交換できる質権を持つ。ゆえに、商品と違って貨幣は蓄積することができる。富の蓄積は生産物の備蓄ではなく、貨幣の蓄積として始まった。
他方、商品は貨幣と交換されなければ多くの場合商品ではなくなる、廃棄される。
商品は交換されるか分からないから、貨幣を持つ者が圧倒的な優位に立つ。

貨幣を蓄積しようとする欲望とその活動、つまり資本が発生する。

貨幣の力は、他者を物理的・心理的な強制ではなく、同意にもとづく交換によって使役することができる。
暴力にもとづく身分支配とは違った種類の階級支配をもたらす。

この3つの力はどんな社会構成体においても結合されて存在する。

交換様式D=Xに対応する第4の力。神の力。人間の願望や自由意志を越えた至上命令。

すべて酒とレコードと本に使わせていただきます。