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K-POP男性アイドルを好きになったら「音楽」が認識できるようになった

つい先日、急に「(とくに歌付きの)音楽」というもののことを認識できるようになった。

小学生のときにはピアノを習っていたし(両手で同時に違うことをするのは練習してもかなり苦手だとわかった)、中学では吹奏楽部に入っていたので、音楽と無縁な生活をしていたわけではない。絶対音感ほどではないが、音感も比較的あるほうだと思う。

それでも、1つのまとまりとしての「音楽」総体のことをあまりよくわかっていなかったのは、自分の性質が関係しているのかもしれない。

性質というのは、例えば、わたしは耳からの情報に対しておそらく鋭敏で、音そのものに対する快/不快が強めに存在しているようだ。

黒板を引っ掻く音が不快、のような感覚は多くの人に共有されていると思うが、わたしの場合は人の声などについてもそれらがはっきりと存在しており、その音が示す内容――その音を用いて発された言葉の意味など――よりも先に、音としての快/不快がまず判定される。

そのため、歌付きの音楽が流れていても、「歌詞を含めてその音楽そのものがどうであるか」ということを感じる前に、「音楽の中で鳴っている音が自分にとってどうであるか」という点に、無意識のうちに集中するようになっている。

音楽のほとんどは常に動き続けるものなので、音楽が意識にあがっている間、わたしは「快/不快の判定」に終始しており、歌詞の認識の優先度は著しく低かったのだと思う。

さらに、瞬間・個別をよく見るのは得意だが全体を見るのは不得意で、物事の連なりを捉えることが苦手という性質もわたしにはある(あらゆる歴史の学習が苦手だ)。

本当に人が音楽をそのように認識することがありうるのかはわからないが、先述した音への鋭敏さと瞬間で区切って物事を捉える性質から、わたしの場合は音楽を個々の音として細かく捉えていたのだと思う。

これを支えそうな例として、わたしには頻繁に生じる「歌えるが、歌詞としては記憶していない」というものがある。

童謡チューリップの冒頭なら「さ」と[ド]、「い」と[レ]、「た」と[ミ]がそれぞれ結びついて記憶されているものの、言葉「さいた」としては認識しておらず、どちらかといえば音[ドレミ]のほうを強く認識しているので、「さいた」と歌いながらも「さいた」と言っていることには気づかずにいられるのだ(伝わるのかなこれ……)。

好きだと感じる日本語の曲の歌詞を意識的に聞いたとき、ことごとく失恋している内容で爆笑した経験があるが、これはおそらく短調を構成する音や、人が悲しげに歌うときに現れる音が好きだということなのだろう。

このように、これまで音楽については単体の音の集合としての認識が強く、音楽というまとまりでの認識ができない、ましてや歌詞の意味理解はほぼまったくできないという状態だったのだが、このたびNU’EST(以下ニュイ)というK-POPの男性アイドルグループを好きになったことで、突然(歌付きの)音楽への理解が進んだ。

2020年の2月、GYAO!で配信されていた韓国のアイドルオーディション番組「PRODUCE101」のシーズン2(2017年放映)を見た際に、一番気になった候補者がニュイのリーダー・JRだった。

番組をすべて見終わった後、もっとこの人を見たい! と最近の曲を調べてみると、ずいぶんかわいらしく、MVに映る他のメンバーも番組内での印象とはずいぶん違う(※1)。

最初はそのギャップに驚き、こんなにかわいい表情もする人たちだったんだ!? と思うのみだったが、何度も見ているうちに、このグループのメンバー全員の声が好きかもしれないと気がついた。

複数人の中でこの人が好き、ということはしばしばあるが、それぞれ違うタイプの声を持つ全員の音が好きということはこれまでになかったような気がする。

ニュイというグループに俄然興味が湧き、過去のMVやステージ動画をたくさん見ていくと同時に、YouTubeの公式チャンネルにアップされている企画動画やビハインド(舞台裏)動画も見るようになった。

曲に関して言えば、とくにオーディション番組参加前に出された5枚目のミニアルバム「CANVAS」から直近までの彼らの曲は、メインボーカルの1人であるミニョン不在のNU’EST W(以下ニュブル)期を含め、歌詞の意味や背景を理解していない状態でも、音としてかなり好きなものが多いとわかった(※2)。

そして、同時に見ていたビハインドや企画動画、ファンによるメンバー紹介動画や文章を通じて、だんだんとそれぞれのメンバーの情報が蓄積されるうちに(※3)、彼らは5人で活動することをとても大事にしていて、お互いをとても大切に思っていそうだ、と感じるようになる。

ということは、あのオーディション番組に出場したこと、また、1人だけがそこからデビューして残りの4人で活動していたことは、彼らにとって本当に重大なことだったのでは……? と思い、すぐにオーディション番組を見返すと、1周目ではよくわからなかった編集の意図がかなりはっきりと理解できるようになっていた。

強く印象に残っているのは、「デビュー経験のある人が番組に参加するのはずるい」と言われてきたニュイのリーダーであるJRが、自分の気持ちを書いたラップを披露するステージ部分の編集だ。

ステージに立つ恐怖を感じながらも、最後かもしれないチャンスに覚悟をもって向かい、自分を信じてくれる人たちに対し「心配するな」と言うJRのラップの合間には、それを見ているニュイのメンバーが映る。

オーディション参加者にとっての「自分を信じてくれる人」としてすぐに想定されるのは、挑戦を見守る家族や自分に投票してくれる人、あるいは一緒にステージに立つメンバーではないかと思うが、ここでは映像編集も相まって、ニュイの他のメンバーこそがJRにとってのそれにあたるように思われたし、このラップは彼らへ意志を表明するために書かれた面があるのではないか、とすら思えた。

この体験が、歌詞やそのグループの背景を認識することで、音楽への解釈、ひいてはそれを聴くという体験そのものが大きく変わるということに気づくきっかけになったのかもしれない。

オーディション番組(2周目)を最後まで見た後は、スタイリングも好みなものが多いニュブル期のステージ動画を多く見ていた。

5人でいることを望む(ように見える)彼らが4人のニュブルとして表現する、切ないが弱々しくはない、強いなにかの存在を感じさせるような音の中で歌われている歌詞が気になり調べてみると、とくに歌番組で披露しているような曲は「今ここにはいない誰かを思う」歌詞が多いとわかる。

ニュイのこれまでを一切知らなければ、単に「愛していた元恋人」を思う歌であると考えたかもしれないが、わずかでも知った今となっては不在のミニョンのことをイメージせずにいられなかった。

このような体験を経て、ニュイの歌詞がもつ繊細さや言い回し、そしてそれらがもたらす意味や印象まで含めて「曲」であること、またその曲の形成にはベクホを中心にメンバーが関わっていることが曲を聴く際に意識されるようになり、いいと思った曲ほど歌詞が気になるようになっていった。

わたしは韓国語を学んだことがなく、歌詞を知りたければ誰かが訳したものを探して読むしかない。そのような、音楽を聞き流して快/不快を判断するのとは違う、はっきりと能動的な関わり方をしたのもほぼ初めてだったように思う(※4)。

ニュイの曲を知っていくと同時に、K-POPについても興味を持ち始めた。

spotifyなどでK-POP関連のプレイリストを聴いてみると、他のアーティストの曲にも好きな雰囲気の曲はいくつも見つかることから、どうやら自分の好みはK-POP(特に男性アーティスト)のメインストリームから外れていないようだ。

それならばもっとK-POP内で好きな曲やアーティストを見つけてみたいという欲が出てきたときに、音楽のより細かいジャンル分けが手がかりになるだろうと考えた。

これまで、作業用に音楽を流す際には、しばしばインストのジャズやR&Bのプレイリストを選んでいたものの、自分ではほとんどなにも判別できない。

そこで、自分が好きだと思う曲はどんなジャンルにあたるのか、音源発売時のレビューなどを探して読んではそのジャンルの特徴を調べ、具体例として挙げられている曲を聴いてみる……などのことをしていった。

その結果、おそらく自分が好きなのは、まさにニュイの曲によく見られるような、Future BassやR&Bの要素が含まれている音楽だろうと見当がつく。

そして、その結論に至るまでに、音楽を音一つひとつよりは大きく、しかし大枠の印象よりは小さい単位の、さまざまな切り取り方――テンポ、特徴的なリズム、AメロBメロ等での曲調の変化、使われている機材など――で認識するという方法が、少しずつではあるが理解できるようになっていった。

わたしはこのようにして、音楽には「個々の音」以上のさまざまな見方があるということを、実感を伴って理解できるようになった。

自分でも、まさかアイドルを好きになったことで「音楽」が認識できるようになるとは……と驚いている。

音楽に限らず、もともと作品と制作者を切り離して作品を楽しむほうだったので、おそらくこれからも基本的にはそのような楽しみ方をするのだろう。しかし、新たな捉え方を複数手に入れられたのはとても嬉しいことだ。ありがとうニュイ……。

※1 オーディション番組には、怪我をしていたアロン以外のニュイの全てのメンバー(ミニョン、ベクホ 、レン、JR)が参加していたが、番組内での主な扱いは「デビュー済みだがあまりうまくいかず、今後を賭けてこの番組に挑戦するグループ」といったもので、真面目な様子やシリアスな表情が流れることが多かったように思う。
とくに「Let's Love」はキャラクターブランドSpoonzとのコラボ曲のため、かわいさにかなり振り切っており、ニュイのMVの中では例外と言えそうだ。

※2 オーディション番組の結果、上位11位に入ったミニョンはWanna Oneというグループとしてデビューし、1年半ほど活動。その間、ニュイはミニョン以外の4人のメンバーでニュブルとして活動していた。

※3 そもそも韓国人男性をたくさん見るのが初めてというレベルだったこともあり、なかなか名前と顔が一致せず、もちろん各事務所やグループについての知識もなかったため、オーディション番組を1周した段階では、誰がニュイのメンバーなのかすらほぼ把握できていなかった。

※4 歌詞をわざわざ確認した曲に中村佳穂さんの曲「そのいのち」があるのだが、あの曲は言葉そのものの意味以上にそれこそ音の力強さから意味を感じられるような不思議な歌詞なので、例外にあたるだろう。

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