う

「う」うちの話をします。

「うち」というのは静岡県の伊豆にある実家のこと。夏に体調を崩して戻ってきて、かれこれ2ヶ月半。体調自体はかなりよくなったので、ここ数日はちょこちょこ外に出るようにしている。散歩程度のやつ。

うちの裏には川がある。森……とまではいかないかな、林もある。カブトムシがいっぱい来るところ。田んぼもある。

昨日、そのあたりをふらふらしていたら、川の向こう側にある家から、近所のおばさんが出てきた。目があったので挨拶を交わした。数年ぶりに。知らないうちに、おばさんはかわいいおばあちゃんになっていた。

そのままふらふらしていると、緑色と茶色のあいだの色をした、ヘビのような縄、のようなヘビを踏みかけた。踏む直前でそいつがするすると動いたので、田舎によく落ちているヘビのような縄ではなく、本物のヘビだったと気づいた。素早かった。久しぶりにちょっと怯えた。

そいつが川の方に這っていったので、少し距離をあけてじっと見ていた。体長30センチくらいあったし、突然の出会いだったので怖かったのだけど、よく見るとかわいい顔をしている。小学生のとき、カナヘビ(トカゲのような生き物)をめちゃくちゃ可愛がっている男の子が頭にカナヘビを乗せていたのを思い出した。わたしも頭に乗せられたことがある。少しくすぐったいけど、噛んだりしないしかわいいやつだなと思った。

家自体の話をしよう。外壁があせたピンクのような、変わった色の二階建て一軒家だ。改築した部分は色が違ったりする。裏から見ないと見えないんだけど、濃い青。

庭にはキンモクセイの木が2本あって、すこし離れたところには栗の木がいくつかある。渋柿だけど、柿の木もある。家の裏には、今は雑草だらけになっている小さい畑がある。

こういうのは何も特別なことじゃなくて、田舎だから大体みんな一軒家だし、なんなら家の近くに倉庫も持ってる。その倉庫を離れみたいに改築して、家はお嫁さん夫婦、離れはおばあちゃん夫婦が住んでるところも多い。うちもそう。

家の中は雑然としている。基本的に畳の部屋で、ふすまもあるし障子もあるし。フローリングはほぼ廊下だけ。縁側はないけど、縁側的なところはある。

置いてあるものに統一感がない。おしゃれな暮らしには程遠く、食器も不揃い。いろんなものが古いし、あまり人を呼ぶようなところではないと思う。テレビがふたつにトイレがみっつ。よくわからないシールやマグネットが冷蔵庫に貼られている。冷蔵庫はみっつある。なんというか、いわゆる「おばあちゃんち」を想像してもらうといいのかもしれない。

田舎は娯楽が少ない。昔教わっていたピアノの先生は、「ここには文化がないのよね」と微笑んでいた。けして嫌味でもなんでもなく。何十年もここで暮らしている人なのに、都会らしさ、そして上品さを失わない先生だ。お姫様みたい。

たしかに、東京と比べるならば、ないも同然だ。ここは人々の生活の場だけど、遊びの場ではない。娯楽はテレビとゲーム、通じていればインターネットくらい。このあたりは電波も弱い。

多分だけど、通販番組の利用者は田舎の人が多いと思う。そうやって新しいものを取り入れる以外にない、おじいちゃんやおばあちゃんがたくさんいる。

東京への憧れはなかった。流行り物に関心はなかったし、以前行ったときの空気のまずさが強く印象に残っていたから。インターネットで楽しむ方法を小学生のときに覚えていたので、別にどこに住んでもその楽しさは味わえるし、と思っていた。

それでも東京の大学に進んで、1年寮で暮らして、そのあとは一人暮らしをした。一人暮らしは向いてないなあと思った。ひとりで何かをするのは好きだけど、人がいる中でひとりというのが好きなんだなと気づいた。

知らない人といっぱい会って、行ってみたいと思えば2時間以内で行けるところが増えて、できるようになったことや好きなものが増えた。東京は便利なところだ、と思う。毎日どこかで何かが起きていて、電車はたくさんあるし、人も多いし、見知らぬ人と適当に関わることもできる。好奇心を刺激するものがいっぱいある。

静岡しか知らなかったところから、東京に住んで。2週間くらいずつだけど、京都と岩手にも住んだ。

いま実家に帰って思うのは、一番落ち着くのはここだなあということ。それはもちろん一緒に暮らす人によるところも大きい。岩手のシェアハウスもよかった。そんなに立派ではないにしても、一軒家に住んでいたわたしにとって、都会のワンルームは狭すぎるらしい。気がつかなかったけど。

田舎vs都会の構図はよく見かけるけれど、結局はその人に合うか合わないかだと思う。田舎とひとくちに言っても、数キロ違うだけで全然コミュニティの雰囲気は違うし、田舎度合いも違う。都会にだって同じことが言えるだろう。

いろんなところに住んでみて初めて、うちの良さがわかった。自分が心地よいと感じる環境もわかった。比較対象がないと良さも悪さも見つけづらいということを実感した。

次に引っ越すなら、畳があるところがいいかなあと思っています。タタミスキ。

(時間わすれた、2068字)

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