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メッセージに関するネタバレ感想

メッセージ観た直後の感想ツイートはこんな感じです。

「「メッセージ」観てきた。科学的にして詩的かつ小説ならではの感動があった原作の魅力を些かも損なうことなく、映画ならではの感動を体験させてくれた、ヴィルヌーヴの集大成とも言える傑作でした。確実に語りたくなるような映画だからネタバレ踏む前に観に行った方がいいと思うよ。」

「メッセージはブラッフォード・ヤングの撮影が凄く良かった。色調抑えつつ全体的に緑が印象的で。広大な緑の平原に例の巨大な宇宙船がヌーっと現れるあの高揚感と不安感はちょっと劇場じゃないと味わえないと思う。あとボーダーラインに続いてヨハン・ヨハンソンの重低音ドローンが効いてた。」


-以下超絶ネタバレが含まれるので注意-


先ず映画「メッセージ」と原作「あなたの人生の物語」との相違について。やはりフェルマーの原理に関する言及が省略されている点は大きいと思う。

フェルマーの原理を要約すれば、「光が水中に入る際、その角度は大気中と水中では異なっている、つまりは、光は目的地に到達するのに距離ではなく時間が最短となるルートを取るために(意図的に?)角度を変えている」というもの。さらに言えば、光は予めゴールを把握した上で「最適な」ルートを逆算して、そこから出発している、というもの。

ヘプタポッドという存在にとって時間とは、(光がそうであるように)始まりの時点で既に結果が分かっている=時間の概念が過去→現在→未来という風に直線的に続いているのではなく、並列的或いは円環的なものであると認識されている。
そしてヘプタポッドの言語を理解することにより、人類においても時間の概念を円環的に捉えることが可能になるという、これがヘプタポッドからの「贈り物」。
その「贈り物」が映画「メッセージ」ではフェルマーの原理のくだり抜きに描かれるんで、あたかも「贈り物」=「予知能力」のように思ってしまいそうになるけど、よく観ればそうではなく、ルイーズの娘のハンナ(綴りがHANNAHと前後から読んでも同じなのもポイント)が見ているはずのないヘプタポッドを粘土で作ったり、或いは父と母がヘプタポッドとコンタクトを取ってる姿を絵に描いていることからもハンナは自ら知りようのない過去を見ているということが分かる。また、本作自体がハンナの死から始まるという円環的な構造を持っているのも示唆的。

映画「メッセージ」は、ヘプタポッドからの「贈り物」によりルイーズだけでなく、人類全体が能力を得て新たなステージへと「到達(Arrival)」する、というタイトルに帰結する。そして人類全体というマクロな視点と交差させるようにミクロな視点でルイーズのハンナに対する「あなたの人生の物語(Story of Your Life)」が語られる。
原作にあった二つの話が交互に語られ最後に一つに溶け合うという小説ならではの絶妙な構成が、映画ではまた別の切り口で語られて、これには唸った。そして何よりビジュアルと音響が素晴らしかった。その素晴らしさは言語化してもしょうがなく、また、実際に本作を観れば誰もが感動するものと信じて疑わない。

何かと「分断」と言われる世の中にあって、本作でヴィルヌーヴが投げかけたメッセージはもしかしたらあまりに楽観的と捉えられるかもしれない。しかしフィクションの中くらいは楽観的であってもいいじゃないかと俺は思うのであり、終盤は感動で涙が止まらなかった。

最後に、繰り言のようになるが、映画「メッセージ」と小説「あなたの人生の物語」はどちらが先でもいいんで、両方を鑑賞すべきだと思う。映画ならではの、小説ならではの、何よりSFならではの感動が味わえる稀有な作品だと思うので。