ドラマ「ブラック・ミラー」について
現在、Netflixで全3シーズン配信中の「ブラック・ミラー」は、もともと2011年12月から英国の公共放送局であるチャンネル4で放送が始まった1話完結のオムニバス形式のドラマです。
シーズン1が2011年12月放送の全3話。
シーズン2が2013年2月放送の全3話+クリスマス・スペシャルとして2014年12月に放送された1話。
シーズン2までがチャンネル4放送分で、シーズン3からはNetflixオリジナルドラマとして、2016年10月から配信されています。
なお、シーズン4も2017年中にNetflixで配信される予定です。
オムニバス形式のドラマなので、どのシーズン、どのエピソードから観ても楽しめるようになっています。
そして、(一部例外はありますが)如何にも英国産ドラマらしいブラックな味わいがあると共に、何らかのSF的設定がなされているという共通点があります。
特にSF設定に関しては、往々にしてネット・SNSが発達した現代と地続きになっているような状況が描かれた上で、「こうあって当然」と認識している常識や現実感が揺さぶられ、結果、これらが未来に起こり得る、或いは、既に現在進行形で起こっているのではないか?等と考えさせられ、この辺りが本作のショーランナー兼ほぼ全ての脚本を手掛けているCharlie Brookerの真骨頂であると言えるのではないでしょうか。
また、Charlie Brookerは本作について「それぞれのエピソードは異なるキャスト、異なる設定、異なる現実ですが、私たちが不器用であるならば、それらのエピソードは私たちの今の生き方、そして私たちが生きるであろう10分後を表している」と話しているそうです。
以下、各エピソードの感想は、基本的にツイートしたものを貼り付けたものです。
また、参考までにシーズン1のエピソード1を標準とする★★★として、あくまで個人的な好みとして★を加減しました。☆はプラスアルファ程度です。
○シーズン1
エピソード1「国家/The National Anthem」
監督:Otto Bathurst 脚本 :Charlie Brooker
出演: Rory Kinnear、Lindsay Duncan、 Donald Sumpter ほか
★★★
40分強の中によくこれだけ詰め込められる。
SNS時代の劇場型犯行の中で首相が強いられるギリギリの決断すらエンタメとして消化される、このブラックさは如何にも英国産のドラマらしい。
演出はもうちょっとユーモア効かせた方が好みではあるけど面白かった。
エピソード2「1500万メリット/Fifteen Million Merits」
監督: Euros Lyn 脚本: Charlie Brooker、Konnie Huq
出演: Daniel Kaluuya、Jessica Brown Findlay、Rupert Everett ほか
★★★☆
EP1とはまた雰囲気ガラッと変わってディストピアSF。凄く面白かった。
設定はカイジの地下施設を思いっきり緩くして一日外出券を使ってオーディション番組を受けると言えば分かり易いか(分かり難い)。そしてやっぱりブラックなんだよなぁ。美術や劇伴も良かった。
エピソード3「人生の軌跡のすべて/The Entire History of You」
監督:Brian Welsh 脚本:Jesse Armstrong
出演:Toby Kebbell、Jodie Whittaker、Tom Cullen ほか
★★★★
これも面白かった。
記憶が全てデータ化・可視化される世界観での痴話喧嘩。これが、何かある度に写真や動画を撮りSNSで可視化・共有化する現代とも繋がってくるような怖さが感じられるってとこがまたSFとして優れてる証左。抑えた色調の撮影も良かった。
○シーズン2
エピソード1「すっと側にいて/Be Right Back」
監督:Owen Harris 脚本:Charlie Brooker
出演: Hayley Atwell、Domhnall Gleeson、Claire Keelan ほか
★★★★☆
ネット上の残滓をかき集め人格形成するという実験的なテーマもこう描かれると痛切。her公開よりこちらの放送が先なのは驚き。
今や大人気のドーナル・グリーソンとヘイリー・アトウェル主演でドーナルはエクス・マキナと立場逆転してるのも面白かった。撮影も美しい。
エピソード2「シロクマ/White Bear」
監督:Carl Tibbetts 脚本:Charlie Brooker
出演:Lenora Crichlow、Michael Smiley、Tuppence Middleton ほか
★★★
目覚めたら記憶を失い、得体の知れない殺人鬼に追われるという不条理サスペンス…と思いきや意外な方向へ。
これまで観たEPに比べ、現在と地続きになってるようなSF設定の面白さはやや希薄。フィンチャーの某映画を更にブラックにしたような後味。嫌いじゃないけどね。
エピソード3「時のクマ ウォルドー/The Waldo Moment」
監督:Bryn Higgins 脚本: Charlie Brooker
出演:Daniel Rigby、Chloe Pirrie、Jason Flemyng ほか
★★
舞台は現代か?アニメのキャラが選挙に立候補し、ひたすら他の候補者を罵倒するうちに高い得票率を得ていくという、敵失ばかりが注目を浴びる衆愚政治の皮肉として、決して絵空事とも言えないブラックさ。ただオチはもう一捻りして欲しかったかな。
エピソード4「ホワイト・クリスマス/White Christmas」
監督:Carl Tibbetts 脚本:Charlie Brooker
出演:Jon Hamm、Rafe Spall、Oona Chaplin ほか
★★★★★
電脳化が義務付けられた世界観で二人の男が回顧する罪は各々で独立した話にしても充分なほど面白い。ただし相互の話が絡み合うオチはそれまで自分が現実だと思っていた事が足元から崩れてくようなスリル。ここまでのベストEPだと思う。大人気のジョン・ハムもハマり役。
シーズン3
エピソード1「ランク社会/Nosedive」
監督:Joe Wright 脚本: Charlie Brooker、Rashida Jones、Mike Schur
出演: Bryce Dallas Howard、Alice Eve、Cherry Jones ほか
★★★★★
めちゃくちゃ面白かった。人から付与されるポイントが可視化され、ポイントにより受けられるサービスまで異なる格差社会は現代SNS社会を更に先鋭化させたようなディストピア。終盤は恐怖に戦慄しながら泣け、幸福の定義を再度考えさせられる。監督は何とジョー・ライト。
エピソード2「拡張現実ゲーム/Playtest」
監督:Dan Trachtenberg 脚本:Charlie Brooker
出演: Wyatt Russell、Hannah John-Kamen、Wunmi Mosaku ほか
★★★
VRを更に先鋭化させたゲーム開発のプレイヤーとしてのバイトをするという内容ですが、インセプションとか観た後ではオチもちょっと弱いか。ホラーっぽい演出では冴えた部分もあるなと思ってたら、監督が10クローバーフィールド・レーンのダン・トラクテンバーグだった。
エピソード3「秘密/Shut Up and Dance」
監督:James Watkins 脚本:William Bridges、Charlie Brooker
出演:Alex Lawther、Jerome Flynn、Susannah Doyle ほか
★★★
性的嗜好を盗撮され、それをダシに見知らぬ人からメールで脅迫され続けるという話自体よりも緊迫感ある演出と演技で持ってかれる。本シリーズ屈指の後味の悪さで(ウエストワールドでも印象的だった)Exit music (for a film)が更に拍車をかける。
エピソード4「サン・ジュニペロ/San Junipero」
監督:Owen Harris 脚本:Charlie Brooker
出演:Gugu Mbatha-Raw、Mackenzie Davis、Denise Burse ほか
★★★★★
これは傑作。80年代を舞台にしたLGBT青春ものと思わせていて…流石にそれでは終わらない。BM版シンデレラとも言えるロマンチックさに「どう生き、どう死ぬか」という深いテーマが絡んでくる。時代の再現度も高く、美術、衣装、選曲は完璧。主演二人も良かった。
エピソード5「虫けら掃討作戦/Men Against Fire」
監督:Jakob Verbruggen 脚本:Charlie Brooker
出演:Malachi Kirby、Madeline Brewer、Sarah Snook ほか
★★★★
体裁としてはパンデミックな戦争もので、これまでで最もハードな印象。ただし一番怖ろしいのは認識していた世界が崩れてく瞬間。全ての虐殺行為はここで描かれる操作が何らかの形で行われてきたのでは?等とも考えさせられる。HoCのダグことM・ケリーもド迫力。
音楽はポーティスヘッドのジェフ・バーロウ&ベン・ソールズベリーの「エクス・マキナ」コンビ。
エピソード6「殺意の追跡/Hated in the Nation」
監督:James Hawes 脚本:Charlie Brooker
出演: Kelly Macdonald、Faye Marsay、Benedict Wong ほか
★★★★☆
ベテランと新人の女性刑事が追うのは近未来型連続殺人事件で、現代SNS社会が内包する危険性と地続きになったような怖ろしさは本作ならでは。尺が90分あってクオリティも映画並み。70年代~80年代にかけて多数制作されたパニック映画ヘのオマージュ感も良し。