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垣根帝督は「ヒーロー」になり得たか

はじめまして、シャントというものです。今回初めてnoteでこうした記事を書かせていただきます。以後お見知りおきください。

突然ですが、現在放映中の「とある科学の超電磁砲T」皆さんご覧になっていますでしょうか。本編中では上条当麻や第七位である削板軍覇も参戦したり、白井黒子と食蜂操祈が共闘したりとますます盛り上がりを見せてきました。是非ともご覧ください(宣伝)。

さて今回は超電磁砲の話ではなく、最近発売したスピンオフ作品「とある科学の未現物質」の主人公垣根帝督についてとあるシリーズに存在する「ヒーロー」という性質に注目しながら考察していこうと思います。

ここから先は旧約、新約、創約の禁書目録やその他スピンオフ作品のネタバレを多数含みます。ご注意ください。

「ヒーロー」とは

そもそも「ヒーロー」とはなんなのか。
新約7巻での「人的資源」計画によるとヒーローとは

・突発的、偶発的に出現する不確定因子
・学園都市の中核を担う先端技術開発計画(各作品で描かれる異常な実験)の阻害要因となりえる
・通常戦力や手段で撃破するのが難しく、圧倒的不利を一手で覆す特異性を持つ

とされており、ヒーローの出現に伴い、庇護されるような弱者(物語におけるヒロイン)も現れると書かれている。たしかに新入生事件(新約1巻)や一端覧祭(新約6巻)など学園都市内で起こった事件を見ていると庇護対象を守るためにヒーローが立ち向かうという構図が出来上がっている。

また、旧約19巻内で一方通行を叩きのめしたエイワスはその後のアレイスタ-との会話でこう述べている。

「一口にヒーローと言っても、様々な分類がある。
 …誰に教えられなくても、自身の内から湧く感情に従って真っ直ぐに進もうとする者
 …過去に大きな過ちを犯し、その罪に苦悩しながらも正しい道を歩もうとする者
 …誰にも選ばれず、資質らしいものを何一つ持っていなくても、たった一人の大切な者のためにヒーローになれる者
 そのいずれもが、何度叩きのめされても自分の足で立ち上がるような者達だ」

ここで語られている特徴はそれぞれ順番に上条当麻、一方通行、浜面仕上に該当しており、彼らの視点で進むロシア編ではそれぞれ上条当麻はインデックスを、一方通行は打ち止めを、浜面は滝壺を救うため行動している。これはまさしくヒーローとその庇護対象つまりヒロインの関係である。

つまり、逆境を乗り越えられるだけの可能性守るべき対象を持つものがとあるシリーズの世界ではヒーローと呼ばれるのだと考えられる。(メタ的な言い回しをするとヒーロー性とは単なる主人公補正であるとも言える。)

垣根帝督のヒーロー性

本題に移ろう。とある科学の未現物質の帯には「闇に堕ちた英雄――垣根帝督の物語が、いま明かされる。」とあり、垣根帝督を英雄(ヒーロー)と呼称している。おそらくここでのヒーローは一般的な意味でのヒーローだと思うが、私はスピンオフ作品内での垣根帝督が禁書の世界におけるヒーロー性をまさしく獲得していたと考える。

まずは禁書本編での垣根帝督について振り返りたい。垣根提督が初登場したのは暗部抗争編が展開された旧約15巻である。旧約15巻を通しての彼の行動原理は「アレイスターとの直接交渉権を得る」というもので自身がアレイスターの進めるプランの中核に君臨するために第一候補(メインプラン)である一方通行と交戦した。
一方通行との戦いの中で垣根は

「結局テメエは俺と同じだ。誰も守れやしない。」

という発言をしている。これは垣根にとどめを刺そうとしたが駆け付けた黄泉川の言葉で殺害を思いとどまった一方通行に対してぶつけたものである。この言葉からは垣根帝督が過去に学園都市の「悲劇」の一つに触れ、自分の大切な人を守れなかったという事実をうかがわせる。ここから垣根帝督に何らかの庇護対象がいたことがわかる。

垣根はその後「黒翼」を解放し暴走した一方通行に為すすべなく敗北した。こうして垣根帝督は事実上死亡したことになった。(読んだ当初は第二位ほどの人物をあっけなく死亡させた鎌池和馬やべえなと思った)

では、ここからスピンオフ「とある科学の未現物質」について考えていこう。時系列的には旧約15巻よりもさらに前であることがわかっており、物語としては垣根が前述した行動原理を基にして第一位である一方通行の演算パターンを手に入れるために「暗闇の五月計画」の被験者である杠林檎に接近したところから始まる。序盤こそ杠林檎を第一位の演算パターンを入手するための存在という認識しかしていなかった垣根であったが、次第に彼女を守るため戦いに身を投じていった。

このスピンオフから見えたものは杠林檎という守るべき存在を持った垣根帝督の善性である。新約で復活した垣根帝督は完全なオリジナルではないので一旦おいておくとして、今まで読者が知ることができたオリジナルの垣根帝督というのは旧約15巻での活躍が大きな割合を占めていた。(超電磁砲にも少しだけ登場している。)今回のスピンオフで垣根帝督のヒーローとしての側面が描かれたことで、前述した旧約15巻でのセリフがより悲劇的にかつより彼の悔しさが強く伝わるように聞こえるのではないだろうか。この部分に関してはスピンオフを読んだ方は共感してくれることだろうと思っている。

「新約」での垣根帝督について

ここまで新約以前の垣根帝督について話してきたが、この記事では新約で復活を遂げた垣根帝督にも触れておきたい。

未現物質で自分の体を補って復活したということなので厳密には彼の人格は以前の垣根帝督とは異なっている。「未現物質に以前の垣根帝督に近い人格が宿っている」と言った方が近いだろう。

ここで新約6巻、一方通行と多層陸橋の最下層で対峙した際の地の文を見ていただきたい。

 暴走した一方通行の攻撃をまともに浴びてなお命を繋ぎ止め、地下に潜って自由を取り戻すための方法をひたすらに模索し、実際にこうして、肉体の復元や臓器の製造という一方通行にもできない『新しい可能性』を掴む事までできて。
 そこまでやって、なお。
 垣根帝督という怪物は守りたいと思える誰かを見つけられなかった。
 もしも。
 たった一つでもそれを見つける事ができていたら。
 惨めでも、無様でも、もっと広く世界を眺めてそれを手に入れようとしていたら。
 学園都市第二位の怪物が振るう圧倒的で禍々しい『暴力』から、一字を消した『力』獲得できたかもしれなかったのに。

一方通行に破れ復活するまでの期間に垣根帝督は守りたいと思える誰かを見つけられず、単なる『暴力』としてでしか自分の能力を扱えない存在になってしまった。打ち止めやその周辺の人々という守るべき対象がいる一方通行との対比となっている場面だが、先に述べた、ヒーロー性を所持していた垣根帝督の像との対比もできる。つまり、守りたいと思うものを手に入れてさえいれば垣根帝督は再びヒーロー性を持つことができ、もしかしたら新約6巻での彼の行動も木原から命令を受けるようなところから始まったりせずに一方通行らと共闘していた可能性も見えてくるのではないか。そのように思える。

その後、新約6巻内では自らが生み出した兵器であるはずのカブトムシ05に全システム権限を簒奪され、元々の垣根の内面にあった善意・良心が集まった個体であるカブトムシ05が新たな『垣根帝督』として未元物質全体を統御するマスター個体となって『垣根帝督』という存在は善人化することとなった。(この垣根を便宜上白垣根と呼ぶこととする。)

この白垣根は続く新約7巻でも登場する。フレメア=セイヴェルンのランドセルのキーホルダーとして彼女を見守る保護者のようなポジションについており、人的資源計画に巻き込まれたフレメアを救うため、居合わせた上条当麻と共闘した。

こうして考えると新約の中だけでも

守りたいものを見つけられなかった垣根帝督(未現体)

守るべきものを見つけた垣根帝督(白垣根)

という対比が成り立っていることがわかり、善人化した白垣根のヒーロー性が強調されているように思える。

新約8巻でも垣根帝督の人格がグレムリンによって意図せず復活するが今回の垣根帝督のヒーロー性に関してはあまり関係がないので割愛させていただく。

おわりに

今回「とある科学の未現物質」の内容に触発されてこのような記事を書きましたが、垣根帝督という人物像についてもう一度見直す良い機会になりました。白垣根も新約での出番は中盤以降ほとんどなく、創約に突入した今再登場が待たれるキャラクターの一人かなと思います。また、オリジナルの垣根帝督の「悲劇」についても結局わからずじまいとなってしまったので、また別の媒体で描かれて欲しいなあという気持ちです。あと、とあるifも白垣根実装して欲しい。

なんだか雑な締めになってしまいましたが、感想・意見等ありましたら待ってます。是非「とある科学の未現物質」読んでね。

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