『イライザのために』/『ワードウォーズー言語は戦争する』

 1963年生まれの宇月原晴明は早稲田大学在学中同年の重松清と共に第八次『早稲田文学』の編集に携わり 、卒業後80年代から90年代にかけては本名の永原孝道名義で『現代詩手帖』を中心に現代詩作家/評論家として活動していた。この時期の代表的な仕事が、詩集『イライザのために』と評論集『ワードウォーズ』である。

 『イライザのために』は、1994年七月堂刊。近代において詩的言語と大量殺戮が強く結びついてしまったというテーマをサイバーパンク的なモチーフと組み合わせたSF詩集。「石(金属)と身体の合一」(→アルトー、バール信仰)、「星への帰還」(→グノーシス主義)など後年の小説に通じるイメージを其処彼処に見出すことができる。

 『ワードウォーズ』は同人誌に89年から90年にかけて連載され、一部書下ろしを追加し1995年に沖積社から刊行された。柄谷行人の「教える―学ぶ」モデルによる他者論を批判 、「殺す―殺される」関係に他者とのコミュニケ―ションの臨界と詩的言語の発生を主張し、シェイクスピア、ランボーと並んで後に小説に登場する信長やヒトラーが批評されている。80年代の狂騒的な雰囲気に色濃く影響を受けたハイテンションな文体で単体で読んでもいま一つぴんと来ないところがあるが、宇月原の小説を一通り読んでから取り組むと、通底する問題意識や共通するモチーフを発見できるだろう。


※1 重松との交流はその後も続き、ファンタジーノベル大賞応募のきっかけは『エイジ』で山本周五郎賞を受賞した重松に「何とか置いてけぼりにされないように気合を入れるため」(「和洋折衷のフルコース・ディナー」、一三頁)だったと回顧している。なお、その後宇月原が『安徳天皇漂海記』で山本賞を受賞した際、審査員の一人は重松だった。
※2 柄谷行人『探究Ⅰ』、講談社学術文庫、一九九二年。

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