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中国知財 最高人民法院による「人民法院の独占禁止と不正競争防止典型案例」 案例6~10

2021年9月27日に発表された「人民法院の独占禁止と不正競争防止典型案例」10件のうちの、後半5件を紹介します。不正競争では、ネットビジネスの発展に伴い、これぞブラックビジネス、と呼べるような行為もあります。

デジタル社会の進展に伴い、物理的な「模倣品」の時代から、以下で紹介するような悪質ネットビジネスの取締りが、企業にとって今後より重要になってくるかもしれません。


案例6:「wechat group制御」不正競争紛争案
——データ権益の不正競争保護

【案号】(2019)浙8601民初1987号

【案件概要】

本案例では、被告企業が開発する制御ソフトウェアが、Xposedプラグインを利用して該ソフトウェアの「個人ID」機能モジュールを、原告企業の個人wechat製品と結びつけ、該制御ソフトウェアを購入したwechatユーザへ、個人wechatプラットフォーム上でビジネスマーケティング、ビジネスマネジメント活動の展開を助ける機能を提供した(ようするに、本来個人ユースを想定したwechatアプリ上で使える、マーケティングツールを提供した)。

杭州鉄路運輸法院は、ネットワークプラットフォームにおけるデータは、データ資源全体が、单一のデータ個体と分けられて、各ネットワークプラットフォーマーが享有するのはそれぞれ異なるデータ権益である、両被告の関連被疑行為は、wechat製品のデータセキュリティに危害を与え、関連法律規定及びビジネス道徳に違反するので、不正競争行為となると認定した。杭州鉄路運輸法院は、両被告が直ちに係争不正競争行為を停止し、共同で両原告の経済損失及び合理的な支出合計260万元を賠償することを命じた。

【典型意義】

本案は、全国初のwechatデータ権益認定に関する案件である。データはデジタル経済のキー生産要素として既に市場の激烈な競争となる重要資源であり、データ権益の権利帰属、権利境界及びデータスクレイピング行為の不正当性はどのように判断されなければならないか、社会の広い注目を集めている。本案判決は、各方の利益を両立バランスさせ、データ権益の司法保護に理性的な分析基礎を提供し、データ権利帰属規則、完善なデジタル経済法律制度の構築に参考となる司法例証を提供した。また、データ独占防止について、デジタル経済イノベーション発展の促進にとっても積極的な意義がある。

案例7:数推公司、谭某不正競争紛争案
——ネットワーククリックファーム行為の不正競争認定

【案号】(2019)渝05民初3618号

【案件概要】

本案では、被告が設立したサイトでユーザの注文を受け付け、注文を譲渡又は再委託して、ネットワーク技術手段を用いて原告企業のサイト及び製品サービス内容情報のクリック数、ページビュー数、閲覧数を不正に高くし、また、宣伝によって、注文と再委託の間の差額を取得した(ようするに、有償でクリック数や閲覧数を稼がせる「クリックファーム」サービスを提供した)。

重慶市第五中級人民法院は審理を経て、数推公司、谭某が有償でクリックファームサービスを提供する行為は不正競争となり、数推公司と谭某が連帯して両原告の経済損失及び合理的な支出合計120万元を賠償するよう判決した。

【典型意義】

本案は、ネットワークブラック産業を取り締まる典型案例であり、インターネット事業者が有償で提供するクリックファームサービスの行為は、誠実信用の原則とビジネス道徳に違反し、合法事業者、ユーザと消費者の権益に損害を与え、正常な競争秩序を乱すため、不正競争防止法によって規制されなければならないことを明確にした。本案では、不正競争防止法第12条に規定される「その他」不正競争行為について有益な検討を行い、インターネットブラック産業に関する類似の案件に関する審理について裁判ガイドラインを提供した。

案例8:「水道会社」市場支配的地位濫用紛争案
——公用企業による独占行為の認定

【案号】(2018)桂01民初1190号

【案件概要】

本案では、個人消費者が、永福県の水道会社による「個人ユーザ水道取付工程施工協議」の締結に同意せず、自ら水道メータを購入し、施工サービス代金を返金することを要求した。水道会社は返金せず、水道サービスを提供しなかった。
広西チワン族自治区南寧市中級人民法院は審理を経て、永福県水道会社は永福県所轄地域範囲内の都市公共水道サービスについて市場支配的地位を有し、永福県水道会社が該過程において吴某某に他の所から供水設備材料と取付サービスを購入する選択権を与えておらず、これにより永福県水道会社は、ユーザの水道利用申請時に水道設備取付を購入するという方式でバンドル取引行為を実施しており、該契約は無効と認定されなければならない、と判断した。広西チワン族自治区南寧市中級人民法院は、永福県水道会社が吴某某に取付費を返金し、利息を支払い、経済損失及び合理的な支出を賠償するよう命じた。

【典型意義】

本案は、公用企業独占行為の認定に関する。水道、電気、ガス供給企業のような各種の公用企業は、初期取付時にバンドルで初期設置費用、設備費を徴収することがある。本案では、公用企業の市場支配的地位及び市場支配的地位を濫用する行為の認定基準を明確にし、同種の案件について参考意義を有する。本案はまた、公用企業の規範的経営のために、明確な行為ガイドラインを提供し、公用企業がサービスを提供するときにその市場支配的地位を濫用し、市場競争に損害を与えることを避けるのに有効である。

案例9:「タイル協会」独占紛争案
——水平独占協定実施者の損害賠償請求権の認定

【案号】(2020)最高法知民终1382号

【案件概要】

本案では、被告タイル協会が契約を締結することにより、原告のタイル企業にタイル生産を停止させ、タイル供給量を減少させることにより、タイル価格の上昇を実現し、不当利益を得た。原告は、独占利益の分け前を要求して提訴した。

最高人民法院二審は、該案の核心的問題は、原告张某某が該案の水平独占協定の実施者の一人として、該独占協定のその他実施者にそのいわゆる経済損失を賠償することを要求する権利を有するかどうかである、と判断した。法院は、水平独占協定実施者への損害賠償の主張は、実質的に独占利益の分け前を要求することであることを考慮して、損害賠償を認めた一審判決を取消し、原告张某某の全ての訴訟請求を却下した。

【典型意義】

水平独占協定実施者がその他実施者に対しその水平独占協定の実施により受けた損失の賠償支払いを要求することは、実質的には水平独占協定実施者間の独占利益について新たな分配を要求することである。本案では、独占民事救済の主旨と方針を説明し、損害賠償救済を請求する者は、その行為が正当合法でなければならないという基本原則を明確にし、水平独占協定実施者がその他実施者にいわゆる損失である独占利益の分け前の賠償を要求することの本質を示しており、水平独占行為の取り締まり、公平競争秩序の保護、業界協会の良性発展のガイドにとって、重要意義を有する。

案例10:シーズビル市場支配的地位濫用紛争案
——涉外標準必須特許独占紛争管轄権の确定

【案号】(2020)最高法知民辖终392号

【案件概要】

OPPO広東移動通信有限公司(以下、OPPO公司というとOPPO広東移動通信有限公司深セン分公司(以下、OPPO深セン分公司という)はグローバルのスマート端末製造メーカ及びモバイルインターネットサービスベンダーであり、両者は共同で広州知識産権法院へ提訴し、シーズビル国際有限公司及びその子公司シーズビル香港有限公司(以下、シーズビル方という)が無線通信分野の関連標準必須特許を有し、市場支配的地位を有し、標準必須特許の許諾交渉中に公平、合理的及び非差別(FRAND)の原則に違反し、不公平に高額ライセンス料を徴取する等市場支配的地位を濫用する行為を実施し、さらに、同一の専利について異なる国家で提訴し、OPPO公司、OPPO深セン分公司の経営行為に悪影響と経済損失を与えた、と主張した。シーズビル方は、管轄異議申立てを提出し、広州知識産権法院が該案の管轄権を有することを証明する証拠が不足している、シーズビル方は既に標準必須特許許諾問題についてイギリス法院に提訴しており、本案はイギリス法院で審理されなければならないと主張した。広州知識産権法院はシーズビル方の管轄異議申立てを却下した。シーズビル方はこれを不服として上訴した。最高人民法院二審は、標準必須特許許諾市場の特殊性を考慮して、シーズビル国際有限公司が既にその他国家で専利侵害訴訟を提起していることを組み合わせて、OPPO公司等が国内関連市場の競争に関与するのに直接的、実質的、明らかな競争排除・制限効果を与えるかもしれず、OPPO公司の住所地の広東省東莞市は、本案権利侵害の結果発生地として、広州知識産権法院が本案について管轄権を有することができると判断した。

【典型意義】

本案は標準必須特許に関係する市場支配的地位を濫用する独占紛争管轄問題に関する。案件は、双方主体によるグローバルの異なる司法管轄区で平行する標準必要専利侵害紛争が、我が国法院の独占紛争を管轄することに対する影響に関し、また、独占紛争の関連案件事実が国外で発生しており、法院不便の原則を適用すべきかどうかという問題にも関する。本案では、独占禁止法第2条に規定する域外適用原則を根拠として、独占紛争の域外管轄問題について検討を行い、国際標準必須特許の独占紛争案件の管轄規則を明確にし、人民法院が法により積極的に涉外独占禁止案件に対する司法管轄権を行使することについて、司法職能作用を充分に発揮し、公平競争の市場環境を保護したことは、典型意義と促進作用を有する。

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