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中国知財 判例解説 ITシステム特許の権利侵害事件における最高人民法院の新判断(ルータの製造行為が、ルータが提供するサービス方法専利の実施であると判断された案例)

中国のITシステム特許に関する侵害認定について、非常に斬新で興味深い考え方が最高人民法院から示されました。ここではその概要を簡単に紹介します。

案件番号は(2019)最高法知民终147号、判決日は2019年12月6日です。

状況としては、以下のようにポータルサイトにアクセスする方法について、権利者が、その方法を実質的に提供している「ルータ製品」に対して、ルータ製品の製造行為が、ポータルサイトにアクセスする「方法専利」の実施であるとして、侵害訴訟を提起しました。

このようなシステム特許については、システムに関係する主体が端末製造者、ルータ製品製造者、端末操作を行うユーザと多岐に渡るため、「複数の主体による特許の実施」、つまりは誰が実施していることになるのか、という問題があります。

最高人民法院民事判决书(2019)最高法知民终147号

最高人民法院は、侵害認定において、以下のような、これまでにない斬新な考え方を示しました。

「ネットワーク通信分野方法の専利侵害判定については、被疑侵害行為者が、生産経営目的で、専利方法の実質的内容を被疑侵害製品に固定化し、該行為又は行為の結果が、専利請求項の技術特徴が全面カバーされるのに、代替できない実質的な作用を生じ、つまり、エンドユーザが正常に該被疑侵害製品を使用するとき自然に該専利方法過程を再現できる場合、被疑侵害行為者は該専利方法を実施し、専利権者の権利を侵害したと認定しなければならない。」

つまり、複数存在する主体を意識せずに、端末製造者が、専利方法の実質的な内容を製品に固定化し、方法の実施に代替できない実質的な作用を生じているなら、「製品を製造する」ことが、「方法専利の実施」である!としたのです。

これ以前のネットワーク分野における有名な判決では、「製品の製造行為」が、製造段階で、色々テストするから、そのテスト行為が、方法専利の実施にあたる」と判断した案例がありましたが(西安西電vsソニー中国)、本案例では、「テスト行為の侵害を認めただけでは、権利者を充分に保護することはできない」として、更に一歩踏み込んで、所定の要件を満たせば、製品の製造行為が、方法専利の侵害である、と判断しました。

このような、複数主体による実施の問題については、請求項の書き方を工夫して、権利行使しやすくすることが研究されてきましたが、中国では、これと並行して、「従来のような書き方でも、どのように考えれば合理的な権利行使ができるか」ということを最高人民法院が積極的に考えて判例で示してくれています。その意味で、本事件は非常に大きい参考価値を有しているといえるでしょう。



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