中国知財 OPPO vs シャープ 「訴訟差止命令」裁定 判例解説

いつもなら残暑厳しい季節のはずですが、猛暑が過ぎ去った途端に秋風を感じる北京です。このまま寒くなってしまったら、これも気候変動の影響なのかもしれません。
さて、ネタとしてはもう2年近く前の案例で、昨年2021年7月に解説記事を書いた OPPO vs シャープの訴訟差止命令に関する事件について、「訴訟差止命令」について直接検討している裁決文書((2020)粤03民初689号之一)を読む機会があったので、今後の参考までに以下まとめます。
「訴訟差止命令」Anti-Suit Injunctionは、標準必須特許ライセンスの紛争のような関連する複数国での訴訟について、ある国の裁判所が、他国での訴訟提起等司法救済を禁止する、というものです。実質的に他国の訴訟に干渉することになるので、関係者の注目を集めています。

なお、2021年10月に、OPPOとシャープは特許クロスライセンス契約を締結し、関連する訴訟は取り下げられ和解しています。

関連裁定書及びOPPO社のクロスライセンスに関するプレスリリースに基づいて作成

法院が「訴訟差止命令」において検討した事項は、以下の4つで、順番に説明します。
・行為保全措置を採ることが、確かに必要であるか
・申請人と被申請人の関連利益の合理的バランス
・行為保全措置を採ると、社会公共利益に損害を与えるか
・国際礼譲の原則等の要素の考慮

(訴訟差止命令という)行為保全措置を採ることが、確かに必要であるか

まず、訴訟差止命令は、グローバルの標準必須専利許諾料率を確定することに関する(訴訟差止命令は、原告が請求する訴訟内容と関係していますよ)としたうえで、
法院は、既に複数の国で侵害訴訟が提起され、被申請人は他の訴訟で差止め請求を追加したことがあり、他の法院の差止め認容も出ており(注:裁定の文章によれば、シャープは2019年6月に案外人に対してドイツで特許侵害訴訟を提起し、2020年9月に差止め認容がされている。なお、案外人に対して用いた3件の特許は、シャープがOPPOに対してドイツで提訴した際にも用いられている)、訴訟差止命令の申請人(侵害訴訟原告のOPPO)は、差止めの圧力に迫られ、FRAND/RAND原則に適合しない許諾条件を受け入れ、申請人は本案の司法プロセスから合法的救済を得ることができず、申請人の合法的権利に対する損害は、補填し難い、と信じる理由がある。
と判断しました。今回の案件のポイントは、この部分に尽きるのではないかと思います。法院は上記理由に続いて、利益バランスなど、行為保全の要件を認定し、国際礼譲の原則についても検討した後、「訴訟差止命令」を下しています。

申請人と被申請人の関連利益の合理的バランス

ここからの検討項目は、中国国内において、行為保全を申請する際にも検討される事項です。法院は、
・被申請人シャープは、実質的、全体的な解決ができるから、命令を出しても実質的な損害を与えない
・申請人(OPPO)は上述した太字の損失があり、訴訟差止命令をしないことによりOPPOが受ける損失は、訴訟差止命令をしてシャープが受ける損失より遥かに多い、と判断しました。

行為保全措置を採ると、社会公共利益に損害を与えるか

行為保全をするかどうかにあたっては、一般に、公共の利益についても考慮されます。
法院は、訴訟差止命令を出しても、社会公共の利益に損害を与えない。しかし、訴訟差止命令を出さないと、グローバル通信企業の良性発展及び競争に不利となり、社会公共利益が損害を受ける可能性がある、と判断しました。

国際礼譲の原則等の要素の考慮

法院は、国際礼譲は、司法効率、管轄に便利か、他国の主権を尊重するか、が含まれる、既存の関連訴訟請求には影響せず、双方紛争解決に有利で司法効率は高まる、よって国際司法礼譲の原則に適合する、と判断しました。
判決文では、国際礼譲に含むとされた管轄や他国の主権については、特にこれ以上の記載がありません。

法院は、以上の点を総合的に考慮して、OPPOによる訴訟差止命令を認め、シャープが他の国、地域で「新しく」訴訟による差止め等の要求をしてはならない、と裁定しました。また、裁定に違反した場合、違反しなくなるまで毎日100万元の罰金を科す、と裁定しました。

さて、この判決をふまえて、訴訟差止命令を回避するために、どんな対応を採り得るか、、、を検討したいところですが、現時点でなかなか良い策が思いつきません。というのも、「グローバルで標準必須特許のライセンス交渉をして、一部の国で差止めが要求された」(かつ、権利者が案外人との訴訟で差止め判決を勝ち取っている)という要件を満たせば、上記みてきたように訴訟差止命令を認容するロジックが完成してしまうからです。
それでもなんとかこの訴訟差止命令を回避するのであれば、地域ごとにライセンス料率が大きく異なる判断がされることを背景に、当事者間で、(グローバルではなく)地域ごとにライセンス料率を交渉するようにして、各地域ごとに管轄裁判所の判断に従うことを合意するしかないように思われます。でも、自国での訴訟で低いライセンス料率が見込めるライセンシーが、地域ごとにライセンスを定めることに合意するとも思えません(中国のライセンシーは、交渉が不調に終わるタイミングで、中国の法院に低いグローバル範囲のライセンス料を求めて訴訟提起すればよい、と考えるハズ)。

 個人的には、各国が互いに訴訟差止命令を出し合うと企業の正常活動に影響が出ることを認識したうえで、少なくとも知的財産については、訴訟差止命令を出さないようにするルールを定めるしかないのでは、、、と思っています(それでも、ある国でのライセンス料率決定に不満を持つ他国が、該他国でのライセンス料率を恣意的に決定するリスクは残ります)。
なお、2022年3月にJETRO NYが出した記事によれば、米国は、米国に対して訴訟差止命令を出せなくするよう法整備を進めているようです。
(参考記事URL https://www.bizlawjapan.com/wp-content/uploads/china_sepsoshou_01.pdf
引続き、訴訟差止命令については注目していきます。


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