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中国知財 判例解説(技術契約) 知的財産50件典型案例(2020)No.40 労働者の流動に対する制限条項

2021年に最高人民法院が発表した、2020年の各種典型案例等について、今回は知的財産50件典型案例No.40の技術契約案例((2020)闽民终1098号民事判决书)をご紹介します。そもそも技術契約関連の事件が典型案例に選ばれるケースは少ないのですが、最近契約に触れる機会があったので、ついでに調べてみました。内容としては、職務発明に関連した競業制限(会社が離職者に対して競合他社へ行くことを制限すること)の話に似ています。

本事件では、一審原告の拙雅公司が一審被告の智童公司と開発委託契約を締結し、その中で、「本契約の効力が生じた日から3年以内に、双方は直接又は間接的に相手方技術者を採用してはならず、また、彼らが相手方と雇用関係を終了することを説得しそそのかしてはならず~」という条項がありました。この契約締結後、原告公司の技術総監が離職し、被告公司の技術総監に就職したことから、訴訟での争いとなりました。

一審法院である福建省厦门市中級人民法院は、「智童公司は曾慶利が離職前に拙雅公司の技術者であることを知っていたにもかかわらず、曾慶利を技術総監として採用し、第11条に違反した」と認定して原告の損害賠償請求120万元を認める判決を下しましたが、二審判決ではこの判決が覆されました。

二審法院の福建省高級人民法院は、契約条項について争いがある場合、契約法第125条の規定に基づき、
1.契約で使用された語句、契約の関係条項
2.契約の目的
3.取引習慣及び誠実信用の原則
により、該条項の真実の意思を確定させなければならない、したうえで、この3つについて、以下のように当てはめを行いました。

1.契約で使用された語句、契約の関係条項
契約で使用された語句及び該条項全体から見て、「相手方公司の技術者」は在職の限定語が加えられていない状況において、通常在職技術者と理解すべき~「また彼らが相手方との雇用関係を終了するよう説得しそそのかしてはならない」について、文法習慣に基づき「彼ら」の指示代名詞の対象は、前半部に出てくる「相手方公司の技術者」と同一でなければならず、指示代名詞の対象が在職技術者のときにようやく雇用関係を終了することを説得するという状況が生じ、該条項の全体の意味から見て、在職者を兼任で雇用したり、又は在職者が離職するよう説得、そそのかしたりする方法によって相手方技術者連れ去ることはできないことを意味する。
2.契約の目的
該条項の目的は、取引相手方の行為により自社の技術者の流失をまねくことを防止することである。

つまり、条項の文言解釈上、また、契約の目的上、離職した人は含まれていないと判断しました。そして、

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と判断しました。つまり、労働者の流動を制限する条項については、(1)サービス期間制限、(2)競業制限に合致するような条件でなければならないと判示しました。

そのため、もし本案の条項が離職後に転職することを禁止するものだったとしても、それに対し競業制限の補償金が支払われていない場合には、不合理な就業の制限と判断される、可能性があるように思います。

本案については以上です。また他の機会に技術契約紛争を研究し、その判断基準を探っていきたいと思います。



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