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中国知財 判例解説 ITシステム特許の権利侵害事件における最高人民法院の新判断(サービス提供者が方法専利を単独で実施したと判断された案例)

中国のITシステム特許に関する侵害認定について、また非常に斬新で興味深い考え方が最高人民法院から示されました。ここではその概要を簡単に紹介します。

案件番号は(2019)最高法知民终421号、判決日は2020年10月16日です。

状況としては、以下のように端末とサーバからなる情報発信システムについて、権利者が「端末が~して、サーバが~する装置(システム)」、「端末が~するステップ、サーバが~するステップを有する方法」という、装置と方法の請求項を有する発明専利で、システム構築者である美高公司に対し、発明専利権侵害訴訟を提起しました。

このようなシステム特許については、システムに関係する主体が端末製造者、サーバ提供者、システム構築者、情報発信を行うユーザと多岐に渡るため、「複数の主体による特許の実施」、つまりは誰が実施していることになるのか、という問題があります。

最高人民法院民事判决书(2019)最高法知民终147号原稿あり

最高人民法院は、侵害認定において、以下のような、これまでにない斬新な考え方を示しました。

「自身が制御する構成要素により一部ステップが実現され、かつ、その他構成要素におけるモジュールの動作を制御して、その機能を実現し、その他ステップを再現できるなら、方法請求項の全てのステップフローが完全に再現され、方法請求項に記載の全てのステップの效果を実現するので、専利方法の使用になると認定しなければならない。」

つまり、複数存在する主体を意識せずに、サービス提供者(ここでは美高公司)が起点となり、自身の構成要素(端末)により一部ステップを実施し、他の構成要素(サーバ)におけるモジュールを制御して他のステップを再現するなら、サービス提供者が専利方法を実施したとして、権利侵害の責任を負う、としたのです。

これまでは、請求項に「端末が~するステップ、サーバが~するステップを有する方法」などと書いてあると、権利侵害を主張されたときに、「いや、サーバは他社さんのを利用していて、私が実施したわけじゃない」と主張できる可能性があったのですが、今回の判例により、このような否認が難しくなるでしょう。

このような、複数主体による実施の問題については、請求項の書き方を工夫して、権利行使しやすくすることが研究されてきましたが、中国では、これと並行して、「従来のような書き方でも、どのように考えれば合理的な権利行使ができるか」ということを最高人民法院が積極的に考えて判例で示してくれています。その意味で、本事件は非常に大きい参考価値を有しているといえるでしょう。







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