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最高人民法院による2020年中国法院10大知的財産案件 六、OPPO「訴訟差止命令」案 判例解説

過去記事でもご紹介しました、2021年4月に発表の「2020年中国法院10大知的財産案件」では、「訴訟差止命令」、具体的には、他国の訴訟結果等について、中国の法院が差止命令を出すという案例が2件選出されています。

そのうちの1件、六、OPPO「訴訟差止命令」案((2020)粤03民初689号)について、内容を少しまとめておきます。なお、もう1件の、二、無線通信標準必須特許「訴訟差止命令」案も、日を改めてご紹介したいと思います。

1.案例の経緯

本案例は、2018年 以下の図に示すように、通信規格の標準必須特許許諾のため、訴訟の被告である日本のシャープ株式会社が、中国で格安スマホで存在感を示すOPPO社に対し、ライセンス交渉を始めたことがきっかけになっています。その後シャープが日本とドイツで侵害訴訟を提起したところ、OPPO社から、当該行為はFRAND違反であるとの理由で、深圳市中級人民法院に提訴されています。

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(上記の図は、本件に関する法院の裁定書の内容及びOPPO社のクロスライセンスに関するプレスリリースに基づいて作成しています)

2、案例の内容(裁定書の内容)

10大案例に選ばれた、(2020)粤03民初689号を判例データベースで探して読んでみると、当該文書は、侵害訴訟に対して被告が管轄異議申立てを請求し、法院がそれを却下した裁定書でした。

深圳市中級人民法院は、その裁決書の中で、原告が求める「外国での訴訟活動がFRAND違反である」ことを中国の法院で審理できるかなどについて、以下のように興味深い判断を示しています。

一、本案は、司法判断適合性を有するかどうか(中国の法院で判断してよいか)

まず、本案と利害関係を有する原告が、明確な被告を有し、具体的な請求と事実、理由を有し、民訴法に適合する。次に、「最高人民法院専利権侵害紛争案件審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」第24条には、「標準必須専利実施ライセンス条件は、専利権者、被疑侵害者の協議により確定しなければならない。充分に協議しても協議一致を達成できない場合、人民法院に確定を請求できる」とあるが、原告被告双方は2018年7月から協議を開始したが、最低の日まで協議一致を達成していない。おって司法判断を行う事実と法律根拠がある。

二、中国の法院が本案について管轄権を有するか

標準必須特許許諾紛争は、一般的な契約紛争でも、一般的な権利侵害紛争でもなく、管轄を確定する際、許諾対象の所在地、専利実施地、契約締結地、契約履行地等が中国国内か、つまり、標準必須特許許諾紛争が中国と適当な関係があるかどうかを考慮しなければならない。前述の場所の一つが中国国内であれば、該案件は中国と適当な関係があると判断しなければならない。~中国の法院は管轄権を有する。

ここで、中国大陸範囲内の中国専利ライセンス条件とグローバル範囲の専利ライセンス条件を分離して裁判するという被告の主張については、許諾交渉中の許諾対象は明らかにシャープの標準必須特許のグローバル範囲のライセンス条件であり、一致しない。また本案係争のスマートフォン製品の製造地と主要な販売地は中国であり、OPPOが提供した証拠によれば、中国での販売量は、提訴された他国の販売量より遥かに高い。よって明らかに中国と最も密接な関係を有し~、法院がグローバル料率を裁判すれば全体の効率向上に寄与し、実質的に原告被告の紛争を解決でき、双方当事者が異なる国家で複数の訴訟をすることを有効に避けられるので、FRAND原則の本意に沿う。

三、深圳市中級人民法院は、管轄権を有するか

OPPO社の登録地は深圳であり、経営行為には通信端末設備の研究開発と販売が含まれ、係争専利の中国における実施主体である。よって、深圳は係争専利の実施地であり、本院は専利実施地の法院として本案について管轄を有する。また深圳は双方の交渉行為地の発生地であり、履行義務で該契約特徴を最も体現できる履行地にも該当する。

(2022年8月修正)さて、ここまで裁定書の内容を紹介してきましたが、「訴訟差止命令」の話が出てきません。後に確認したところ、10大判例では明示された689号裁定以外に、689号之一という裁定が出ており、こちらで法院が「訴訟差止命令」について判断を示しています。689号之一については別途取り上げたいと思います(2022年9月に別途記事にしました。)。

3.「案情概要」と「典型意義」

改めて、10大案例の中の「案情概要」と「典型意義」に目を向けると、上記以外に、シャープの「域外差止め」で交渉が威嚇されるかもしれないことに鑑みて、原告OPPOは、行為保全を申請し、それを受けて、人民法院は、「本案の終審判決を下す前に、他の国家/地域で、本案に関する専利についてOPPO社へ新しい訴訟又は司法禁止令を提出することができない。もし違反したら、毎日罰金100万元に処す」と裁定しています(ここが本案例のポイントと思われます)。

この「禁止令」の7時間後、ドイツのミュンヘン第一地区裁判所は、OPPO社へ「反禁止令」を出し、OPPO社へ、中国法院へ「禁止令」の撤回を申請するように命じます。

そして、一審法院は、この「禁止令」と「反禁止令」をめぐって、法廷調査を行い、シャープが行為保全裁定に違反した事実と証拠を固定化して、并シャープへ中国法院の裁定に違反した深刻な法律結果について説明しました。最終的に、シャープは無条件で本案における再審理申請とドイツ法院への「反禁止令」の申請を撤回し、中国法院の有効な裁決を充分に尊重し、厳格に順守することを表明しました。

4.ライセンス市場のデカップリングが進む?

この「禁止令」とグローバル範囲の特許ライセンス料率を、どの裁判所が判断するのか、は今後非常に大きな問題となりそうです。上記のような強者の理論で、大きな市場を握る中国により、ライセンス料率が実質的にコントロールされてしまうと、企業対企業でライセンス交渉する意味がなくなってしまうように思われます。一体どこで折り合いをつけられるのか。ライセンス市場でもデカップリングが進むのか。今後も関連事件に注目です。




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