男の凶暴性はどこからきたか (リチャード・ランガム デイル・ピーターソン)

遅くなりましたがざっくり要約です。

■凶暴性が有利になるとき

①集団同士の争いが有利になるには
連合していること、拡張可能なナワバリを保持していること、集団の規模にばらつきがあること。これらが揃った場合、隣接する集団を殺すメリットが大きい。相手集団よりも数が多いなら、安全に利を得ることができる可能性が高い。また、言うまでもなく孤立した相手は狙いやすい

②縁故関係(集団内のオス→メスなど)への暴力が有効になるとき
知性があるときである。縁故関係への暴力が有効になるのは、個性を認識できる記憶力がある場合だけ。記憶力が暴力の影響を長続きさせ、支配力を強める。

■何故人間の男性(や、チンパンジー)が凶暴なのか

①男が連合する父権制で、集団の数が一定しないから。
②メスの支配を行い、生殖活動を有利に進めようとするから。


■では平和な社会を作るには。

①女性が結託する。
穏やかな類人猿であるボノボはメスの結束が強く、オスの凶暴性を抑えている。
②民主主義的な方法で集団で政治を行うなどの知恵を使う
法整備によって私刑が抑えられ、個人への権力の集中を抑えて平和的な社会が作られてきた。


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1章 失楽園
作者は猿の研究者です。1970年代研究者は仲間を意図的に殺すのは人間だけだと考えていました。ところが、チンパンジーで隣接集団の消滅を狙った計画的な殺害が観察されました。悍ましいことにその被害集団と犯行集団は元々同じコロニーで暮らす仲間でした。
偵察し、奇襲をかけ、手足をちぎり、楽しむかのように残虐なリンチを行うチンパンジー。人間にしか見られないと思われていた同種間での殺害は世界に衝撃を与えました。

雄が結束した社会を持ちナワバリ争いをし、隣接集団を殺す動物は2種類しかいません。
人間とチンパンジーです。それらの共通点は、父権社会であること、オス同士の結束が高いこと、ナワバリ争いをすることです

2章 タイムマシン

割愛 遺伝子の話を少ししてます。ゴリラよりチンパンジーと人間の方が近いこと、チンパンジーが800ー1000年前から変化していないことが書いてありました

3章 密林から疎林へ
何が人間とチンパンジーを分けたのだろうか。
猿が暮らすのは熱帯雨林の中ですが、中新世から鮮新世にかけて気候変動による旱魃が起きたらしい。大旱魃に見舞われた時、密林が疎林になっていた時人間の祖先はどのようにそこに適応していったのだろうか。答えは「根を食べて生き残った」という説が有力です。
サバンナの疎林には豊富にあり、他の動物は利用せず、人間の持つ固いエナメル質の歯を使って咀嚼する必要があるもの。根は貯蔵することもでき、生食が可能で芋などもある。
アウストラロピテクスの化石と発見される長い骨の破片やツノは摩耗していて、どうやら根を掘っていたのではないかと見られる。 チンパンジーは雨林に残り、人類は疎林へ出ていった。その過程で歩いて遠くに根を探せるように二足歩行をするようになったのではないか。(二足歩行を使うようになった人類はチンパンジーと比べると一日で2倍長く移動できるらしい。)

4章 戦争と人間
ヤノマモ族 ベネズエラ南部からブラジル北部の民族。政治影響から隔絶され平定されず文化適応せず滅ぼされなかった数少ない民族であり、隣村が三日歩かないといけないほど離れているため村同士の優劣が育たず、完全に独立的な文化を持っている。
争いの元になる貴金属や高価なものは「持っていない」
彼らは戦争を行うことでも有名です。彼らは「村と村の戦争は資源をめぐる争いではない」と断言します。食べ物は十分にある。男たちは生まれた村で一生過ごし、女は結婚時に村を離れる。きっかけは女をめぐる争いが一番多く、後は呪いをかけたなど日常の些細なこと。
スタイルは2つ。①饗宴に読んで騙し討ちし、虐殺する。女は捕らえて村のものにする②早朝に奇襲する。 集団で隣村に出かけていき、1−2人を殺したら帰る。奇襲に参加しなかった男の妻は仲間の村人が姦通して良いものとする。味方に損害がでなさそうであれば相手の村の女を攫って集団レイプの上誰かの妻にする。
成人男性のうち相手村で殺した経験のあるもの(称号を得る)は40%、暴力で命を落とすものは30% 。称号持ちは妻が2.5倍、子供が3倍以上称号を持たないものよりも多い。積極的に参加すれば報酬が得られるという事。

狩猟民族は平和で穏やかと言われるが、実際のところ、穏やかなのは内側集団に対してのみで外側に対しては暴力的である場合が多い。2年のうちに戦争を起こさなかった狩猟民族は世界31の狩猟民族のうちわずか10%だった。ニューギニアのフリ族の青年男子は死因の20%、マエエンガ族25%、ドゥグムダニ族28.5%、オーストラリア アボリジニ ムルンギン族28%が暴力によるものである。

平均的に見て近代社会の方が暴力的ではない。法整備によって私刑の横行や際限のない復讐が起きにくい。

・文化は風習を変えうるか。
1950年代 ワオラニ族、アンデスの熱帯雨林の住人。死因の60%が暴力。近隣別民族同士及び民族内で常に戦争を行っていた。近隣別民族のケチュア族の女性は攫われ人身売買された。ワオラニ族の女性もケチュア族に同様の扱いをされた。1958年アメリカから宣教師がやってくる。彼らは上空から食料、衣服を落とし、スピーカーで和解を呼びかける。ワオラニ族の住む地域の中心に学校・教会・診療所 滑走路を作成。結果生活が大きく変化し、村同士の中心の、それまでのワオラニ族が暮らしていたわずか1/10の範囲の中にワオラニ族が集まって平和的に暮らし始めた。
襲撃して殺し合う古来の習慣が断ち切られたのは、「彼らが意識的に自ら決断を下したからだ」と人類学者。

5章 幻想の楽園
では世界のどこかに楽園のような社会は存在するだろうか。凶暴性のない社会は?
西洋人は未開の土地に平和の楽園を夢みたが現実にはそんな場所はなかった。タヒチやサモアが楽園であるとして書かれた書物はあるが、彼らが書き留めた楽園は女についてばかり書いていて、食人する男のことに触れなかったり暴力性を無視したりしていた。
より良い世界を探すなら現実を見て自らの未来を切り拓いたほうが良いだろう。

6章 気質

とりわけ雄の気質が一貫して暴力的である。
女性戦士は存在していたが、外部との戦争において殺戮のほとんどを担ってきたのは男性であった。犯罪統計を見ても男性と女性の犯罪差は明らかである。
チンパンジーと人間の暴力性は驚くほど類似している。

7章 レイプ、そして子殺し

ほとんどの霊長類は敵が退散すればそれ以上の後追いはしない。
チンパンジーと人間だけが最初から相手を殺すことを計算に入れている。

・オランウータン
小さいオスが日常的にレイプを行う。観察された性行為のやく3分の1がレイプである。オランウータンの雄には2種類ある。思春期の体のまま成人した雄(小さい雄)と大きく成長したオスである。小さいオスはメスを追い回してレイプを行う。メスは大きく成長できたオスを好む。大きなオスは力強いが動きが遅く、メスや小さいオスのようには動けないため、メスは簡単に大きなオスから逃げることができる。
小さいオスはメス同等に動けるのでメスを追いかけ回すことが可能。
知られている限り最も社会性の希薄な猿のため、少人数の行動が多い。メスは単独行動を好み、狙われやすいのが、このような日常的なレイプを可能にしている。

・ゴリラ
ボスゴリラ中心の数頭の群れを作る。オスはメスへ暴行したりはしないし、オス同士も争わず、権力闘争に明け暮れることもないが、子殺しをする。
他集団の子殺しに成功するとその母親と番になることができる。母親は子供を守ることができなかった元つがいよりもその目をかいくぐって子殺しに成功したオスとつがうことを選ぶ。メスの一生に一度は子殺しの経験を持つ。メスにとって一番安全なことは暴力的なオスと結びついて守ってもらうことである。

・チンパンジー
チンパンジーでは人間と同等数レイプが起きている。チンパンジーは青年期に達するとメスに暴力を振るい始める。計画的にメスに暴行を加える。雌へ突進し、殴り、蹴り倒し、引きずるなどの暴行を加えて優位を認めさせる。こうして全ての雌に対して優位に立つことで大人の雄の仲間入りをする。その後も理由なく日常的に暴行を加えることで性的に威圧し、雌に拒否権を与えずに交尾を行う。チンパンジーは発情期がはっきりとオスにわかってしまう。メスは発情期の間オスに追いかけ回されるので絶えず傷だらけで採食する暇さえない。
そのような有様だから発情期の間メスは時に2−3週間に渡って群れを離れ、姿をけす。その時に連れて行くのは子供と1頭のオス猿のみである。この関係はオスにとって美味しい。妊娠させやすい時期を競争者がいない状態を独占できるため、オスはこの関係を作るために日頃からグルーミングを行い、雌に肉を分けにきたりする。しかし、反抗すれば暴行を加える。
人間との共通点は男から女に向かう縁故関係の暴力であること。根底には支配の問題があること。

・これらの猿の話から言える事。

オスは社会が許さなければメスをレイプできない。ゴリラは強いオスを中心とした集団で暮らし外部のオスから身を守る。オランウータンの雌には集団の結束が抜けており、狙われやすい状態となっている。暴力性は社会の状況でコントロールされる。
暴力的であることの要因は他にもある。知性だ。
縁故関係の暴力が効果的であるのは互いの個性を記憶するだけの知能を持っているときだけである。優れた記憶力が暴力の影響を長続きさせ支配を強化させる。


第8章 自由の代償

男性がデーモニックになる理由
男同士が連合していること、男同士が拡張可能なナワバリを保持していること、集団の規模にばらつきがあること。これらが揃った場合、隣接する集団を殺すメリットが大きい。相手集団よりも数が多いなら、安全に利を得ることができる可能性が高い。

集団の数にばらつきが出てしまった理由
チンパンジーも人間も季節に寄る果実や希少な肉を食べることを選択してきてしまったため、安定的な供給を得られにくく、従って養える数にムラが出やすく、集団の規模にばらつきが生まれた。集団形成の自由度が高い代わりに規模の大小で襲撃に遭いやすくなった。

男性同士の連合
メスは子供がいるため、オスほど素早く長く歩けない。結果的にオスがオス同士でいる時間が長くなったのではないか。

第9章 遺産

性淘汰に寄る暴力性の選択。
ムリキという霊長類は嫉妬もしない権力争いも興味がない。
こういった種がいるということは、そんな選択が人類にもできた可能性があったということではないか・・・

自尊心という遺産
自尊心が支配欲を生み出している。TOPであることは常に価値があるという理屈抜きの感情が存在している。

内集団と外集団
外とみなした集団への攻撃性と、熱狂的になることで没個性化し、無責任に残逆になる性質を人間は持っている。


第10章 穏やかな類人猿

ボノボ。150−300万年まえにチンパンジーから分岐した穏やかな類人猿。
チンパンジーとの体の特徴差は人間の民族間の特徴よりも小さい。
レイプ、暴行子殺しは見られない。男女の対格差はチンパンジーと同等である。
集団はチンパンジーと同じく雄の血縁で作られ集団で遊動域を形成してナワバリの防衛を行う。ただし、両性における優越はない。1位のメスと1位のオスは同等。
・社会構造による暴力の抑制
ボノボの特筆すべき社会構造はメス同士の協力関係にある。母親と息子は一生同じパーティにおり、母親の支援や順位によって雄の順位が決まることさえある。
オスが攻撃的な振る舞いをするとメス同士で結託して追い払うなどの行動が見られる。
このメスの結託はチンパンジーには見られない。メスは劣位の雌に対しても尊重し攻撃的なディスプレイを行うことはない。
貴重な食べ物が手に入ったとき、その発見者が誰であれチンパンジーでは雄の食べ物になってしまうが、ボノボの場合はメスたちがオスを孤立させ、餌場に近づけさせない。
・性行為の利用
ボノボは一日に数十回の性行為を行うが、これは友人になるため、宥めるためなど生殖以外の目的でも多く利用される。ホカホカと呼ばれるメス同士の性器擦りもよく見られ、その行為を通してメス同士の結束を高めているらしい。メスの発情期はオスには分からないため、オスはメスがいつ誰と性行為を行うかに興味がない。

11章 南の森からのメッセージ

なぜそんなにも凶暴性が抑制されているのか

食生活
チンパンジーとボノボの住む森の植生はほぼ同じだが、ボノボの住む森にはゴリラがいないため、ゴリラが食べる草や芽をボノボが食べている。その食料は豊富にあるために食べるに困ることがなく、集団間の争いが少ない。また、食糧供給が安定しているために集団の数が安定している。

ゴリラがいない理由は、気候変動による旱魃が一時的に発生し、ゴリラがいなくなった後で元の植生に戻ったことが原因と考えられている。

12章 デーモンを制御する。

ボノボの例をとれば、人間がデーモニックな性質を制御するには女性が結束し、女性だけの国を作ること、女性の集団ストライキが良さそうだ。
しかし現実的には女性は好みのオスを得るために集団結束しづらかったり、男性の支配がキツすぎてなかなかボノボのような社会を作るのは難しいかもしれない。
また、法による民主主義社会を作って行くことが堅実的な暴力抑止にもなるだろう。
個人でなく集団で権力を持ち集団で行使すること。こういうことで平和への道を探って行くことが重要だろう。

13章 カカマの人形

知能は凶暴性も産んできたが、それを使って平和的な社会を構築することもできるはずだ。

終わり

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