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メリバについて持論を語る

殺すキャラクターはね、「大好き」なキャラクターなんだ

トップ画像は、しゃみめのTwitterアイコンで使われているものでご覧になった方も多いかと思います。これは、しゃみめの信念のひとつです。
堅苦しい言い方をすれば、これはつまり、

キャラクターの死』と『物語の山場』は相関する

ということです。勘違いしてはならないのは、

キャラクターが死ねば物語が盛り上がるわけではない

ということです。
キャラクターが死にさえすれば、悲劇的で劇的な物語になるわけではないのです。因果ではないのですね。あくまで相関なのです。

ではどうして、『キャラクターの死』と『物語の山場』は相関するのでしょうか? それは、

『死によって得られた価値』があり、けれど、『死によって喪失』がある

からです。
価値があり、ただし、喪失がある。
この二律背反が、葛藤が、苦悩が、物語を盛り上げてくれるのです。

メリーバッドエンドってご存じ?

『メリーバッドエンド』という言葉があります。和製英語です。
『メリバ』と略して使われることもありますね。創作界隈ではすでに市民権を得た用語のように思います。
受け手の解釈により、ハッピーエンドかバッドエンドかの解釈が分かれるような結末を指す用語です。

メリーバッドエンドは、受け手の解釈次第で物語の結末が判断される「オープンエンディング」の形式の一つで、ハッピーエンドとバッドエンドが入れ替わるような中間の存在に位置する作品の作風を表す言葉である。
メリーバッドエンドの作品では、周囲や読者からすると不幸に見える結末でも、主人公などの当事者にとっては幸せな結末となっている場合が多いとされている。
  Wikipediaより抜粋

メリバというのは、価値と喪失の二律背反を演出する手法ということもできそうです。
では、メリバについて持論を展開してまいります。

アルマゲドン

誰かの幸福が、別の誰かからは不幸であれば、それはメリバです。
例えば、映画『アルマゲドン』はメリバです。
主人公のハゲが自らの命を投げ打って家族と地球を救います。ハゲは命と家族を天秤にかけ選択し、決意するわけです。残された家族にとっても視聴者にとっても、大変に悲しい。不幸なのです。ハゲの死は。

エンディングの大きな幸福(地球は守られた)が強調されますが、

幸不幸の『視点』(ハゲは喜んで死ぬ。残された家族は悲しい)
苦渋の『選択』(ハゲ自身が死ぬか? 本当に他の手はないのか?)

の2つがあるので、映画『アルマゲドン』はメリバです。
『視点』と『選択』。これが機能していればメリバなのです。

人魚姫

エンディングの大きな幸せを強調した作品を『陽のメリバ』と仮称します。
『アルマゲドン』はもちろん『陽のメリバ』です。

『陽のメリバ』がある以上『陰のメリバ』も当然あります。
例を出しましょう。
御伽噺『人魚姫』がそうです。

人魚姫はラストで、愛した王子の命と自身の命とを天秤にかけ、朝を待って泡となり消えます。彼女は、愛に殉じたのです。

人魚姫にとっては、愛と命を天秤にかけ、愛を選んだ。それが人魚姫の幸せだったからです。そして人魚姫の死は、人魚姫の姉たちにとって当然悲しい。視聴者視点でも同様です。そして、エンディングでは大きな悲しみが強調されます。これが『陰のメリバ』です。

フランダースの犬

実は、意識の端にあがらないだけで、世はメリバで満ちています。
苦悩と葛藤の演出の多くは、

誰かの幸福が他の誰かの不幸だからです

誰かの願いが叶う頃、誰かが泣いているのです。
宇多田ヒカルも歌っています。

例えばアニメ『フランダースの犬』もメリバです。

いや! 不幸まっしぐらやないかい!
というツッコミは受け付けません。
何故なら、かの作品にもちゃんと『視点』と『選択』が存在しているからです。視点は、ネロ本人と視聴者で違いがあるし、ネロと仲良くしてた女のコもまた悲しいでしょう。

では『フランダースの犬』における選択とは何か?

清貧な死を受け入れるか?
または、悪辣にでも生きるか?

です。金を払わなければ絵も見せない教会と、美と正しさを胸に抱いて死ぬ少年との対比の構造があるのです。ちなみに、フランダースとは地名であって人名ではありません。作中にフランダースさんは存在しなません。

絵を見て死ねたネロは、その瞬間確かに幸せだったのです。彼の死を、ただ哀れだと嘆くのは彼の生き様に対して不誠実です。
ネロは正しく行きたいと願い、貧しくも正しく生きて、そして正しく死んだのです。無為ではありません。

総論

重ねて申しますが、世はメリバに満ちています。
誰かの願いが叶う頃、誰かが泣いているのです。
そして、フランダースは人名ではありません。
これだけは覚えて帰ってください。





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