儀式的アイスクリーム
「愛していた相手がいたんだよ。」僕にも。
「そうなの?」 鏡に問いかけてみた。
思ってもいないこと、深層心理の奥深く、本当の僕の声が聞こえるかもしれないという淡い期待を込めてみたけれど、ただの奇行と終わった。
眠れない。
時間はもう午前3時。
朝と夜の狭間の時間帯。どこへだって行けてしまいそうな気持ちになるけれど、実際そんなことはない。雪の降る街に住んでいて、深夜に行けるところなんてせいぜい近くのコンビニか自販機くらいなもので、それだってやる気なく布団に吸い込まれ、睡魔に溶かされてしまえば、やっぱり何もすることは出来ない。人間は弱い。
新作のハーゲンダッツなんかより、この時間帯ならスーパーカップとかが食べたくなる。それも一口だけでいい。
丸ごと1個が食べたいんじゃなくて、夜更かしで泥濘始めた口腔内をアイス一口ぶん冷やしてくれるだけでいい、そうすればまた新鮮な気持ちになって眠ることが出来そうなのだ。
バニラ味のアイスクリーム。
それもプラスチックのスプーンで食べたい。
洗うのは楽だし軽いし、気負わずに食べられる。
この時間帯のアイスクリームは、食事というより儀式に近い。いかに楽に遂行できるか、が重要になってくる。
溶けないアイスとぬるい布団と薬でとろつく視界と身体、決してここから目覚めたくは無いけれど、アイスクリームによって目覚めるのなら本望、ここでも重要なのは自力ではどこにも行きたくないということ。
私には今夜の自分の布団を適温に保つ、という重要任務があるので、できることならばお母さんとかお父さんとかお友達とかボーイフレンド的な誰かに行ってきて欲しい。もっと贅沢を言うのなら、こんな時間に布団から出たくない、という願いも叶えて欲しい。都会住みの人ならUberEATSとか出前館とか、そういうのでもいいかもしれない。とにかく、このアイスクリームを布団の上でいかに最適に食べるかなんてことには正解はなくて、ただ個人の願望のぶつけ合い。
夜にのアイスクリームが食べたい。ただそれだけ。
アイスクリームが食べたい、それと人の温かさに触れたい。
夜は寂しいから、アイスクリームを買ってきてくれるような相手がそばにいるという実感がうれしい。
そのおまけでアイスクリームが食べられるのならもっとうれしい。
とか考えながら、今日もまたシーツにぽとぽと、
と沈んでいく。
こんな感覚に浸りたい。ただ。それだけ。
それもそうか。
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