かえで

読書、映画、音楽、語学、旅行、食、温泉、アウトドアが好き  作家、翻訳家になりたい  …

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読書、映画、音楽、語学、旅行、食、温泉、アウトドアが好き  作家、翻訳家になりたい  27歳 国立理系卒 INFP 元ソフトエンジニア、医療系国家資格、TOEIC900、船舶免許、バリスタライセンス

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短編 小さな島

 その小さな島は、本土から小型のクルーザーで30分ほどだ。数人の乗客たちに混じり、僕はその島へ向かっている。刺すようだった日差しはすでに赤みがかった柔らかさを纏い、仄暗さを含み始めた空気の間を縫って走っていた。クルーザーは藍色の絨毯に白い花を優しく並べていく。僕の視線の先には、小高い塊が小さく浮かんでいる。  波に揺られながら乗客たちが話していた。 「ほんとに運がよかったね。」 「ほんとにそうだよ。たまたま車で通りかからなかったら見つけられなかったよ。あの島から見える夜景が楽

    • カフェのレシート

      テーブルの上のレシートが 会話の名残を伝えている 裏側に刻まれた焦げ茶の半円 コーヒーの匂いを少しだけ漂わせて ここにいるよと訴える ざわめきは気にも留めず 紙片の主張を消し去ってしまう 角の折れた長方形は 取り戻せない原型に憂いている 表の黒も本物じゃない ただ気付いてほしい 鎮む片隅を 求めてること

      • ギター

        牙から萌え出す跳躍に 呼応する幹が 白金へと昇華する 力んだ付け根を 翠の馬たちが踏みつけて 波濤に呑まれた梢を 妖精たちが拾い上げる 朽ちた楼閣は 英となり 落ちてる胡桃を彩り出す 君たちの歩みが 近づいて 旋律の狭間に 消えていく

        • 商店街

          徒路を裏む雲烟の軋み 褪色した窳から 思郷が迸る 流浪する箏は 寂れに咀嚼され 莨の鬱屈は 漆喰の剥離に居座っている 長途を渉った華たちは 芳馨の破片を置き忘れた 残滓の聲 超克を叶えた葛が 彩りを取り戻す  少し寂れた大きな商店街を歩く。スピーカーからは落ち着いた音楽が流れ続けている。セールの本たちを店外で売り出している古書店。700円の日替わり定食を立て掛け看板に大きな字で書いている中華屋。パチンコ屋の前の階段でタバコを吸うおじいさん。独特の空気は、私が見る

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          『メメンとモリ』を読んで

           ヨシタケシンスケさんの絵本である『メメンとモリ』を読んだ。メメント・モリとは、「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という意味のラテン語である。    この絵本では、メメンという女の子とモリという男の子が登場する。二人のやり取りは非常に意味深い。    幼い頃の疑問というのは、実はとても本質をついたものであることが多い。いつの間にか我々は、かつて抱いた疑問は忘れ、日々の些事に追われ続けてしまっているのではないだろうか。  死を意識しながら生きている人は、基本的にはいない。

          『メメンとモリ』を読んで

          高架下

          べたつく鼠が縞を渡る 壁の上の戯れは陰湿を強め 低い礫の振動は無き水を湧かす 掻き毟られた水草の残骸が 筒の中にこびり付く 窄みに撓む黒の傍らに 百合の花片だけが 光っていた  6月の空気は徐々に湿気を含み、倦怠を誘発する。日向には耐えられず、高架下の影に隠れる。刺すような熱はなくなった。それでも湿った空気は纏わりつく。隔たりの彼方の光に歩を進めながらも身体の重みは増していく。肩に乗る疲労が、ふと、傍らの美しい白を気付かせる。

          金木犀

          金のかけらと茶の硬質 揺蕩う飴の湿りが抱きしめる 丹の積もったふくらみに 甘い角が突き通る 凝の破れ 幹の隈 月の橙は手を差し延べる 一縷の光輝に 捧ぐ影  金木犀は中国原産の常緑小高木。別名、桂花や丹花として知られる。その花は鮮やかな橙黄色で甘みのある上品な香りから世界三大香木とされている。中国の伝統的なお茶である桂花茶は、その美しい香りを身体で感じることのできる素晴らしいものだ。この一杯が、私達を日々の重みから開放し、明日への希望をもたらしてくれる。素敵

          コーヒーノシ

          沁み出す薫り 焦げた声 果実の記憶 艷やかなみなもから科学が主張する 種子たちの連続は剥ぎ取られ 散漫する 摩砕と聚斂 無色の圧を通り過ぎた褐色が 囲いの上で踊ってる  コーヒーノキとは、熱帯で栽培されるアカネ科の植物である。コーヒーノキには果実が実るが、その実はさくらんぼに似ていて、日本ではコーヒーチェリーと呼ばれる。現在では非常に多くの人に親しまれているコーヒーだが、どのような過程を経て飲まれているのか、意外にも理解している人は少ない。コーヒーについて学

          コーヒーノシ

          雨と本屋

          車の往来が 湿ったコンクリートを弾む 雨脚のベールを横切っていく浪 小さな本屋の軒下で 何かを語りたがっている 微かな声が呼び止める 誼譟は隠れ 僕とあなたの世界になる もっと続きを聞かせてほしい  雨が降っていた。道路沿いをたまたま歩いていると素敵な本屋さんを見つけた。そこの本屋では外に木の本棚が置かれ、魅力的な本が並んでいた。ひときわ目を引いた一冊を手に取り、パラパラと読んでみる。大きな道路の車の音はもう耳に入らず、ただ本と私だけの世界のようだ。少しの間

          雨と本屋

          木漏れ日

          木漏れ日の揺らめき たしかに肌の上で踊る まるいきらめき あなたとわたしと頭上の枝葉 ほのかなリズムを 抱きしめながら ささやく風と 語らおう  木漏れ日とは、他の言葉に訳すことのできない日本語であるらしい。木の葉の隙間から地面に投影される光は、葉の隙間の形に関係なく丸い形状となるという。ここに美しさを見出した日本的美意識とは、人間の存在の揺らめき、いずれ消えゆく運命にあるものの束の間の在に美を感ずる心に由来していると考えられる。そしてこれは、四季を持つ日本特

          木漏れ日

          スピッツが好き

           幼い頃、両親はよくキャンプに連れて行ってくれた。夏の間は毎週のように行っていた。私の育った北海道は、広大な土地だが、両親のおかげで全道ほとんどの場所を訪れることができた。もちろん子供だった私には、車窓から見えた景色がどこなのか、記憶に蘇る草原や、湖が正確にどこだったのかはわからない。しかし、何時間も過ごした車内で流れていた音楽は鮮明に脳裏に焼き付いている。おぼろげな映像。その音楽は、フロントガラスを通り抜けてくる陽の光が作り出す明暗の中で運転席と助手席に座った黒い後ろ姿を浮

          スピッツが好き

          TED 『The Problem With Being “Too Nice” at Work』 要約と感想

          要約 人はなぜ外向きの自分を持ち、社会生活の中で不安を抱いたり、緊張したり、不快な感情になったりするのか。20年以上にわたり、新たなルームメイトを迎える時、交渉をしなければならない時、上司へフィードバックを上げる時や患者と医者のやり取りなどの、人々の社会生活上の不快な関係について研究を続けているWest氏がその見解を語っている。  注目すべきポイントは3つあり、1つ目は、人々の言動において、どれほどフレンドリーに話すか、どれだけお互いが引き立てあってるのか、どれだけ親切な返し

          TED 『The Problem With Being “Too Nice” at Work』 要約と感想

          「星の王子さま」が好き 記事①

           私は、星の王子さまの物語を何度も読んでいる。この物語は、いつも大切なことを教えてくれる。生きる時間を積み重ねていくに連れ、心が荒んでいくこと、昔は持っていたはずなのにいつの間にか忘れてしまっていることなんかが増えていく。子どもの頃、想像を膨らませて心踊らせたものが、大人になり、何でもなくなってしまう。この物語の冒頭は、像を丸呑みした恐ろしいウワバミの絵で始まる。大人の目にはそれは帽子にしか見えず、くだらない絵を描くことではなく、意味のあることに時間を使えという。大人にとって

          「星の王子さま」が好き 記事①

          TEDx 「How your heartbeat shapes your experience of time」 要約と感想

          要約 認知神経科学の研究者であるArslanova氏は、人の時間の感じ方と鼓動には関連があることを提唱している。  時間は脳の働きにより作られる概念で誰しも常に直面しているものだ。  時間の長さの感じ方が、楽しい時間を過ごしている場合と退屈な時間を過ごしている場合とで異なる経験は誰にでもあると思う。  これは基本的に心理学的な時間とされているものだが、なぜこのような差異が生じるのかは非常に興味深い。このTED Talkでは、科学的な視点からこのトピックに対する理解を深めるヒン

          TEDx 「How your heartbeat shapes your experience of time」 要約と感想

          「ファスト教養」を読んで

           ファスト教養という言葉に興味を持った。実生活の中で使われる教養という言葉は基本的には知識を指す場合が多い。教養がある人といえば雑学を知っていたり豆知識を豊富に持っていてたりするような人である。少なくとも私の周りではそういった認識の方々が多いような印象だ。しかし、教養とはなんだろうかと実際に考えたことのある人はどれだけいるだろうか。

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          「ファスト教養」を読んで

          「まじめな会社員」を読んで

            菊池あみ子の性格形成について検討してみた。  あみ子は、東北の田舎街で生まれ、村社会的意識の強い両親のもとで育っている。このため、あみ子は社会的な価値観を主軸とした行動を強要され、近代以降流入してきた西洋的な考え、つまりより個人主義的な意識とは少しずれた価値観を養ってきた。村社会的な価値観を否定するつもりはないが、現代普及している価値観とはずれている。幼い頃受けてきた教育に関する描写はないが、自分自身の好きなもの、興味のあるものに関して、両親から理解を得られていたとは考

          「まじめな会社員」を読んで