かえで
書いた小説をまとめています。
読んだ本まとめ
空色の真空に微かな空気の音が木霊する。私たちの全身は、視界を覆う生命の漲流と体内の風船たちが生み出す律動の狭間で揺らめき続けていた。目下に広がる綾なす草原の上を、小さな羽を持った妖精たちが飛び去って行く。時折通過する灰色の円盤の背の上では日の光が白く踊っている。名を忘れたい者たちは、名を知らない者たちに屈服する。地平の鏡の裏では、壁の枷は融解し、私たちは星と一つになる。 左の手首の上で主張する現実が私たちの宇宙をかき消した。 バディに合図をし、右手の親指でBCDにゆっ
鋭利な薄花色の季節が 朝日のさえずりと 沢のひらめきに 踊っていた 苔の深緑にうなだれたトンネルの 泡のような口 覗く門から 鈍い声 発する ,u 閉じて ,, r. きえた ――窒息の余韻 静粛に佇む影が木漏れ日に揺れ 滑らかなぬくもりが満ちる 裏返る身体が 岩陰に転がる追憶の酸に 溶け始める n a t ―― 内奥の表、無極の端 白妙と藍白の瞬きに 滲んで
とても小さな町 人はほとんどいないけれど 静かで豊かな場所 悠大な自然の中 朝にはたまに小さな鹿が 極寒の暗闇に 立っていて こちらを見つめていたりする ときどきかすかなオーロラが 空を満たしていたりする 凍えた皮膚が パリパリと 音を立ててひきつって それでもわたしの内側は 温い安らぎを抱いてた あの寒さも静けさも 琥珀の河の想い出にのり メープルの香りと わたしの鼻孔を抜けていく おぼろげな わたしの断片の余韻を 逃げないように たぐり寄せて
1 まほうみたいな 振動と摩擦の合掌 真鍮の塊が 波紋に溶けていく輪郭 回旋と共鳴の彳亍に わたしのからだをのせて やつれた綻びの声は 揺られる波に光を灯す 輝く悠遠の礼節 その崇高は 流転のひとひらに 踊っていた 2 真鍮のささやきをきく翠緑の淵 慎ましやかに歩く木漏れ日と 流れる水に横たわる苔たちは わたしのすべてをはぎとって 岸の向こうへ導いた わたしの迂愚な外殻は 湿った石の葛の下 黒檀色へ霧散した 3 重厚な声にのる光 彼岸花の茂りは 遠景にささきかける 忘却に
湧き上がってくる内面のざわつきを形にしようとして詩を描きます。私の持っている表現の方法が言葉しかないためです。普段何気なく使っている言葉は、話すにしても書くにしても内側の目に見えないものに実体を与えてくれます。ですが、言葉の枠組みから漏れてしまっている部分も常に在ります。漏れてしまったものは外側に出ていくことはなく行き場をなくし留まります。留まり続けているなにかは、気づくか気づかないかは別にして、永遠に自分の中に残り続けるのかもしれない。もしかしたら言葉以外の形を欲している
ことばをつかまえられなくて いつも言葉に頼ってしまう からだがおもうように動かなくて 立ち止まってしまったら もっと身体は硬直して 動き出せなくなってしまう あんなに近くにあったことばたち どうして形を変えてしまったの みんなが言葉を使えって そうやって言うから いつのまにか ことばはなぜか言葉より 小さなものになってしまった でもわたしは 言葉をたくさん積み上げて 上に登って、その眺望を ただ見下ろしたりしたくない ことばの波間に わたしはずっと ぼーっとゆ
夏のしめった空気の重みが ふと胸をしめつけた じめじめした陰気なベールを 無造作にはぎとって 無垢な笑顔だけが こちらに向いている 軽快なことばたちと 白く透明な指先 波音が水面に反射する光彩を届けるように やわらかくおだやかなあたたかい安寧 わたしだけの乾いた小さな箱の 憂いていた暗淡をけして 静寂の音の中で淡い光を手渡した 語らう木々の吐息になびいた栗色の髪が わたしの見つめる世界を作り始める 小さなかたすみに 押し込まれていく光の破片 あなたの瞳の中に
湖畔で聴いてた波の音 透き通る冷たい水は 陽の光をそっと丸めて 静かにわたしに 届けてくれる 木々は涼やかな空気を 抱きしめて 翡翠の静粛に 佇立していた きらめきの揺りかごに ねむるとき 仄かな風が 肌をかすめて 勿忘草色の夢に ささやきかける 悠遠の白鳥を聴く わたしの恍惚 無垢な空を ひたすらに 泡沫の白に のせて 溶け去ってしまいたい 愚鈍なガラス片の歪曲に 傷ついた無辺 嫋やかな琥珀たちの飛翔が 婉麗の訣別を告げていた
収束しない抽象を捉えようと 模索したわたしの葛藤は 硬質な空気の重りで 活動を止めた 窮屈な波濤は 紺鼠へ変色し 渦になって滞留する 崖壁は崩れ 潮流を抑制した軛は 脆さを増す 染まり尽くした発散に 罅割れた骨を添え 不格好な汚濁を 隠せたら 鮮やかな色紙も やがては溶かし去る 雨から花へ 仄かな 軽やかな 薫りを 欲していた
身勝手な放散への渇求を抱いたのは 柔らかな陽の光を知らなかったから 謙虚な慈愛の挺身を為せなかったのは 暗闇の冷淡を閑却したから 風になる鳶と 海を渡る鯨 夢見た少年たちは 一目散に駆け出した 足元の石を蹴飛ばし ただ真っすぐに走っていく 少し伸びた 木通の蔓に 足を取られて 転がり落ちた 動かぬ身体 淡青の空が彼らを見下ろす 潮騒を携えた雲の影が その上を通り過ぎ 地平のぬくもりが眠りを喚起する 遼遠の声 呼び止められた肉体は 白妙の乱反射の中へ そっと
靄然を貫く月白の光彩が 捉えた瞳の奥 薄鈍の陰影を閉じ込めた水晶が 差した光の束を手繰り寄せ 彩糸で織り上げた小さな菫の世界から 一抹の金砂が霧散する 暗がりへ臥した紫黒の細末が いびつな結晶体となり 水晶の引力に やがて描円を始めた 下降の螺旋を周回し続ける 延々と 揺らぎながら 際限ない軌道を廻っていた 菫の花びらが 純潔の香りを放ち 真っすぐに 沈み去った 淡く光る世界は 悠遠の彼方に霞んでいた
理性の枠組からこぼれた小さな破片の束を 大事そうに掬い上げた彼の手から 意識のぬめりが拭い去った小塊 灰白色の光芒へ融和する小さな彼の姿を 呆然と静止し見つめているのは 意識の硬質を埋め込んだわたし 際限ない潮流が攫った一縷の光彩に 憂う波紋は彷徨い続け陰湿な静穏を欲した 彼を嘆くわたしが迷い込んだ無窮に 淡青の煌めきは掃蕩の挽歌を与えた とりとめのない想念の砂を固めて作った城は色彩を求め わたしが探していたその色は彼が握り締めていた 錆れたかけらが 腐敗した郷愁
静謐を映した水面に 蓮の華が並んでいる 陽光の粒は純潔の香りを纏い わたしの身体を抱き上げる 厳格でやわらかい あたたかく神聖 桃色の明滅に揮発する 華の瞳と わたしの根 織り成す森閑の螺旋を 滑空する雲に 消えていく 軽やかなぬくもりの破片を 抱きしめながら
ゆりの香りは 空気にのって わたしの前で泳いでる 海の青さは 空気になって わたしの上を踊ってる いちごの味は 空気をつつみ わたしの内で弾んでる あの日の揺らめき 今日の弾み 星の光は 空気をきって わたしの時間を凍らせる いつかわたしは 空気になって 風にのって 揺らぎながら 無色な沈黙の波の上 いのちの一つになってるの
振り子をみていた ゆれていた 左右にずっとゆれていた 時計をみていた まわってた 円を描いてまわってた でも君たちの真ん中は うごかない 中心 往来する波は たくさんの欠片を残していった 継ぎはぎだらけの箱には 何も入っていなかった ただ大切にしまってた 奥底 往来する波は たくさんの集塊をぬぐいさった 大切にしまってた 空っぽの汚れた箱は 記憶の中でかすんでた 片隅 ゆれる振り子 まわる時計 等間隔の小さな音をきいていた 窓をのぞいて 明るい光が 緑青
きっとわたしはふうせんみたい 風にのって揺れている 波の上で踊ってる どこへも向かわず ゆらゆらと きっとしぼんでしまうけど なかのくうきが抜けないように ぎゅっとむすんで 抱きしめる 小さくなっていくけれど 出ていくくうきは きっと誰かに届いてる きっとあなたも知っている