長男の話

兄が二人いる。男三兄弟。方々から男たち3人だと仲良さそうでいいねぇと言われるが、実際は顔合わせれば喧嘩はしてたし、プロレス技の実験台になっていたわけで。だいたい海老反り固めかコブラツイスト。大きくなると互いに勉強やらバイトやら遊びやらで忙しくなって、家の中にいても顔を合わせないこともままあったほどだ。

自分は末っ子ゆえに先程のプロレス技の実験台を始め、まぁいい感じに弄られる事が多くあまり好きにはなれなかった。

そんな自分が大学進学で神奈川へ上京。就職で埼玉にいた長男は間も無く家に遊びに来て本当に一人暮らし出来るのか、お小遣いやる、使ってないコンポあるからあげるなど、あれ?長男ってこんなに面倒見いい存在だった?って拍子抜けした事があった。

やはり長男はそういうものなのだろうか。ある種の親と子に近いような。それとも両親から面倒見るようにとか言われたのだろうか。

そんな長男に対する想いが尊敬に変わった出来事があった。

10年ほど前の11月。長男と二人で飲みに行ったことがあった。正月はどうするんだと聞かれたので、友達と温泉旅行に行く予定と返した。

「何?!男と行くのか?!」

噎せた。この上なく噎せた。何故その台詞が出てくる?

それより前に自分がゲイであることを母だけにカミングアウトした事がある。母は特に何も言わず受け入れてはくれた。その後なんともなしに過ごし、恐らく父には伝わっているんだろうと踏んでいたが(父と一緒にいる時にそういう話をする機会はまったくない。結婚の話題も皆無)、まさか長男まで伝わっているとは思いもしなかった。

いや、旅行は普通の友達と行くけどって返事した時点でもう認めてしまっているようなものだ。その後もなんか自分だけ気まずい雰囲気のままビールを飲み続けた。

22時を回りそろそろお開きかといったところで兄が言葉を発した。

「結婚とか、そういうのはどうでもいい。独身でもいいさ。でもな、信頼出来るパートナーや友達は見つけておきなさい。」

ゲイということで自分には世間一般の結婚は出来ない。後継とかの類の問題は特段言われてないものの子どもは作れない。そういった負い目の重りを長男は軽くしてくれた。ただただ長男の懐の深さに感謝し、家に着いたら涙が止まらなかった。

特に何も言わず受け入れてくれた両親、長男、(恐らく次男も知っているのだろうが)の元に生まれてきた自分は幸せなんだろうなと。

それから互いに忙しい日々は続いてるものの、年に1回は会って甥っ子姪っ子とも遊んだりという関係が続いてる。とはいえ会うたびに飯はちゃんと食ってるか、仕事の悩みがあれば遠慮なく言えといつも同じ事を聞かれる。自分37歳になってるんですけどね。(自分は転職が多いから余計に心配かけていることもあるが)

それが紐解かれたのがごく最近の出来事。出張で自分の勤め先の近くに来ていたので仕事終わりに飲みに行くことに。いつもの如く仕事の愚痴など色々聞いてもらったり、昔あんな事こんな事あったねなど他愛もない会話に花が咲く。不意に長男が言った。

「俺が就職でこっち来た時お前中学生くらいだったから、記憶がその辺で止まってるんだよな。いくつになっても中学生のままだわ。ほっとけないんだよ。危なっかしくて。」

そんなものなのか。これからもずっと。

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