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チャオプラヤ川でバタフライ~タイBLに恋して〜⑤ネタバレありで語りたい!超骨太ハードボイルドBL 『Not Me Series』の魅力!


Not Meついに配信!その物凄いメッセージ性に痺れる!

OffGun主演で、昨年のGMMTV2021年制作発表から話題となっていた『Not Me Series』が、ついに2021年12月12日(日)に公開された。GMM25で放送、その後はAIS Playで追いかけ視聴が可能との事前告知で、果たしてInterFanは、特に日本では見られるのか?と戦々恐々としていたのだが、YouTubeで22時45分からプレミアム公開。残念ながら大方の予想通りジオブロック、VPNに繋がないと視聴できない状況だった。日本ではUーnextが1週間遅れで配信するとの告知が程なくなされたので、ユネクの民は日本語字幕を待って欲しい。
そう、あえて言えばBLではない。F*ckプ○ユットなハードボイルドBLなのだ。

Not Meの魅力


【① 俳優の演技】

言わずもがな、Gunさんの超絶演技が冴え渡っている。アタパンさん、マジやべえ!!(俺はGunちゃんとかじゃなくて、アタパンさんと敬意を込めて呼んでいきたい)このドラマに向けて減量したOffさんの尖った演技も素晴らしい。そして、脇を固めるMondさんの金髪姿に悶絶、ふわふわかわいい印象のFirstさんが血の気の多い役でびっくり。そう、SafeHouseSeason1/Season2での姿を見ているタイ沼の民にとっては、出演している俳優は予想以上にすごい演技をしていて、我々が普段見知っている俳優の印象を、見事に裏切ってくる。



【②凝った色彩にカット割】


全体的に暗い色調、緑がかったライティングや、差し込む昼の光など、その画面は上質な映画を見ている気分になる。編集も凝っていて、回想シーンや場面転換のテンポの良さが小気味いい。毎パートが体感秒で過ぎていってしまう。

青味がかった画面が特徴。美しい…


【③物語を駆動する音楽とサウンドトラック】

使用されている曲もいい。オシャレ、カッコイイ、そして謎を煽っていくサスペンス調。OSTとか、絶対聞き入ってしまう。早くサブスクで配信してほしいと願ってしまうハイクオリティな音楽の数々。思わず楽曲検索アプリを立ち上げ、片っ端から曲を調べてSpotifyでプレイリストを作ってしまった!よろしければ以下のリンクでどうぞ!!

https://open.spotify.com/playlist/21eUf0dZxun0bkI4wgFXs6?si=Rxy_ycUiR1Wdmjiyci4tEQ


【④謎が多く先の展開が読めないストーリー】

EP 1は、主人公の置かれた状況が語り起こされる形で、物語のバックグラウンドが開示されたのだが、とにかく謎が多い。物語が進むにつれて明らかになっていくのだろうが、もう先が気になってしょうがない!

この4つが、ドラマを見続けられるかの自分にとって重要なポイント。全部満たしている。それだけでもう見る価値がある。そして…


【⑤社会情勢に深く切り込んでいる?】


おそらくタイの現状を暗喩(むしろ開けっぴろげに)して、社会階層の格差や不正にプロテストしているのだろうと感じられるところ。

こういうの、大好物である。ファンタジックで終わらない、社会派な要素が物語に深みをもたらしている(いく)気がするのである。
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【ここからネタバレ&考察】


アタパンさんが演じる双子であるBlackとWhiteは、幼い頃から不思議なシンクロを体験していた。そのせいで両親が仲違いし、互いに別に引き取られ、Whiteは外交官である父についてロシアへ。数年後にタイに帰国したWhiteが異変を感じてくず折れ、入院。程なくBlackも瀕死の状態であることがわかった。幼い頃に互いを守ると誓った約束を果たすため、WhiteはBlackに何が起きたのかを知るために、Blackと同じ場所にタトゥを彫り、ピアスを開け(!!)、違法行為をしていると噂される仲間内にBlackを装って潜入…ってところまでがEP 1で語られた。特にBがLしていない。そう、まだBがLに落ちるところまでは描かれていないのだが、どうしようもなく痺れた!

確かなリサーチをもとに「法学」おも盛り込んだ社会派ストーリー


特にMondさん演じるGramの法学部でのやりとり。Rule of Law(法の支配)Rule by Law(法治主義)の解説である。正確にはぜひ調べていただきたいのだが、これはもう完全に、タイの現政権・現状に対する明確なプロテストではないか!もう、完全に痺れた。こんなこと、言っちゃって大丈夫なの!?と冷や汗もの。ギリギリを攻めている製作陣の姿勢に拍手喝采、あっぱれと叫びたい。

そして、放映直後のTLで、NotMeの制作状況を知ることに。
なんと 1話放送の時点で、2話の編集が終わっていないそうなのだ。主語が語られていないのだが、どうやら検閲に引っかかり、脚本と編集の変更を余儀なくされているらしい。かなり現政権への批判や、若者の視線を通した社会情勢への批判的描写を含んでいるのが原因なのではないだろうか。

1話放映時にはまだ撮影中。現場でEP1を見るスタッフに演者たち。

放映直後、タイでも話題になったようで、「ついにYシリーズはここまできた。Yで法学が学べる」などとツイッターでP‘Golfが発言、法学研究者がRule of Law / Rule by Lawについて解説するなど、今までにない社会的な切り口で、硬派で、重厚なストーリー展開が想像できるこのシリーズは現地タイでも注目の的となっているのではないか。

また、放映前日の11日にYTで配信された番組では、Gunさんは「このドラマは(今までのふわふわな)BLではない」、Offさんは「僕たちが出ているからBLと思うんだろうけど、BLじゃないよ」と発言するなど、演者たちもこの作品がタイのYシリーズの辿ってきた道程において、明らかなマイルストーンとなるのでは、との自信と気概を感じる。

放映前日12月11日には、インタビューが。そこでは俳優たちの熱い想いが語られている。

そして、監督Nuchie Anucha Boonyawatanaさんはトランス女性だそう。これまでにジェンダーと社会にフォーカスした映画を世に出してきたとのことで、NotMeは明らかに意欲作であると推察する。出演俳優たちも、厳しい監督の演技指導、より高いところを目指すその姿勢に感化され、自分達がひとまわりもふたまわりも成長していると感じているようである。見事!

【2getherを経てNotMeへ】


2020年、タイBLブームの発端となった2gether主人公のTineは法学部、Sarawatは政治学部であった。一方、NotMeもBlackとGramは法学部、Seanは政治学部である。NotMeを見た時に、まずこの2作を対比してしまった。そして、タイのYシリーズの進化を感じた。

主にタイのBLはそのターゲット層が若年層なだけあって、学生の恋愛模様を多く描いてきたように思う。2getherではタイの大学生の日常だとか放課後だとか、文化とかを垣間見ることができて楽しかったのだが、いかんせんサラワットとタインは課外活動ばかりで勉強をちゃんとしてない!(いや、いくつかシーンはあったけれども、勉強がフォーカスされてはいなかった)。

NotMeでのGramとWhite(プラス女性)のような会話は、タイの学生の日常なのだろうか。だとすれば、なんとも胸が熱くなるではないか。国を思い、議論を交わす…そんな学生、今の日本にどのくらいいてくれるのだろう…。

いや、ともかく。最近では社会人BL、サスペンスBLなどバリエーションが豊かになってきている。コンスタントにBLドラマが制作され、それぞれの制作会社、監督、脚本家、俳優たちが野心的な作品を生み出してきていることがたまらなく嬉しい。またその熱量もさることながら、クオリティもどんどん上がってきている…BL発祥の国、日本でも『消えた初恋』『美しい彼』『昨日なに食べた?』など良作が生み出されているものの、タイのこの勢いは止まることを知らない!

2getherから 1年以上、タイではBLの枠組みを用いながら、こんなにも骨太な作品を生み出そうとしているのかと、胸に熱いものが滾ったのである。


【初回で感じた謎。】

BlackとWhiteが入れ替わり、Blackの抱えた謎を解き明かしていくことになるようなのだが、Blackは瀕死なだけでまだ死んでいない。そこにLove要素が絡んでくるとなると、偽っているのにSeanとWhite(Blackに扮している)が恋仲になっていくのか?
Blackの部屋の人形にあったイニシャル、「B」と「G」の謎。誰?誰なの!?
ToddはBlack/Whiteの何を知っているのか。
GramやSeanが何をしているのか。
BlackWhiteの母はどうしているのか、父は何か隠していないか。

答え合わせは、今後。嗚呼!!先が気になってしょうがねぇえええ!

【NotMe:意欲作がもたらすものは】


そして、Wikiで法の支配と法治主義、法学について調べ、さらにRapAgainstDictatorshipというタイのアーティストが、政権批判的楽曲を作ってバズったとの紹介記事と、YTで公開された動画を見るに至り、明らかに社会へのアゲインストをテーマにしていることがビシビシと伝わってきたのである。ああ、細部に至るまでこだわりを感じる小物やメッセージ…これは考察したくなる!

秀逸な音楽…シーンに溶け込み、物語を駆動する。

NotMeで特徴的なのが、その音楽である。タイBLにありがちな効果音が一切なく、洋楽から引用された曲が彩っていく。そのチョイスが秀逸なこと!!記事冒頭の繰り返しになるが、とにかくかっこいいのだ!!
まるでアメリカのロードムービー、ドラマを見ているかのようなオシャレ感…監督のセンスが光る。

OSTの歌詞

OSTもまたかっこいい。その歌詞を僭越ながら筆者が書き起こした。翻訳はTwitterにもあるので、各自参照されたい。しかしこの歌詞、ドラマの今後の展開を予想させるではないか…

そして、NotMe公開時、TLに流れて来たのが、この曲の情報である。RapAgainstDictatorshipというグループが、国を憂えて作った曲。その紹介記事のリンクも上げておくのでぜひ参照されたい。ここ数年のタイの情報を俯瞰して知ることができる。

そして、EP2の最後にラーマ8世橋をバイクで駆け抜けるSeanとWhiteのシーン。そこで流れたこの曲のエモいこと!そして歌詞を検索してみたらまた…!!
グオおおお!っとなる!!


使われている曲にも、意味があるのではないだろうか…
これはもう、曲がエモいと喜んでるだけでなく、そこに込められたメッセージも我々視聴者は感じ取るべきなのではないか?

グラフィティ(Graffiti:壁の落書き)に見るメッセージ

EP1 4/4 ではFreedom Justice Peace Equalityのグラフィティ(落書き) が。Seanの部屋の扉にはこの文字と、さらに平和の象徴ハトも描かれていた。

EP2 も「壁に描かれた絵」が象徴的に何度か用いられている。ギャングたちがやろうとしていることと、アートは対比もしくは関連しているのだろうか?
アートが言葉以上の力で何らかのメッセージを鮮烈に放つと捉えれば示唆的ではないか。

また、サブカプであろうYokとUNARがEP2で出会った。
UNARは大物実業家Tawiの邸宅に侵入し、その壁にグラフィティを描いていたところ、White Sean Gram Yokが邸宅に火をつけてしまった。誰も傷つけないようにと意図していたのに、UNARがいたことに驚愕。Yokは助け出そうと燃え盛る炎の中、邸宅に入る…
このUNAR、かの有名なBanxyを彷彿とさせるキャラ造形だ。バンクシーは社会への大いなる怒りを、神出鬼没なライブアートをもって世の中に訴えかけることで有名である。

また、Yokもどうやら美術に造詣があるようで、デッサン会で男性ヌードモデルを前にあの日のUNARを描いてしまう…それってもう!となるものの、この2人がアートで繋がっていたのか!とまったく予想外の展開にこれまたコロッとやられてしまった。まさに監督の手のひらで踊らされておる…


そして驚いたのだ(もう何度目!?)
この一連のシーン、Tawiの邸宅に描かれていた絵は、実在のアーティストの作品だそうなのだ。

また、デッサンのシーンで先生役をされていた方もアーティストだそう。


その上、Seanの彼女と思しき女の子が壁に描いていた絵も、実在のアーティストの作品なんだとか。

今後も、アーティストの作品が登場するらしい。NotMe、アートの観点からも考察が深まる…なんて精緻に作り込まれた演出だろうか!脱帽だぜ!


いよいよ監督がNotMeでやろうとしていることが、単純なBLドラマではないような気がしてきてならない。


ここまでお読みいただいたタイ沼の諸賢、自分が言いたかったことをわかっていただけただろうか。

そう、このドラマは「F*ckプラ○ット」なのではないか? むしろ今後の展開によっては、現政権が何かしらしてくるんじゃないかと怖くなってしまう。タイ産BLを国策として支援し、外貨を稼ぐコンテンツとして売り出そうとしている政府の現状に、この作品は一矢・一石どころか、バズーカのごとく!とんでもねぇもんをぶっ放している!!大丈夫か?まだ 2話だぞ!?絶対に絶対に、最後まで放映してほしい!


Freedom is the oxygen of the Soul :自由とは、魂の酸素である 魂の自由を追い求める物語なのか…

【ともかく】
ライカントピニー最大級、社会への大いなる問題提起を含んでいるプロットやセリフの数々。治安悪い系のBがLしてるところをわいきゃい言いながら見るような作品じゃあ、ねえんじゃないかという気がしてきた私である。

襟を正し、居住いを正し、心して最後まで見届ける所存。
(感じ方は人それぞれなので、思い思いに楽しんでください!)

滾るままに書き殴ったよくわからない文章もこれで終わりにするとしよう。みんなたち〜!!NotMeを見てくれよな!!


※使用したドラマに関する画像は、GMMTV公式アカウントより使用させていただきました。

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