巨大精子、日本蹂躙!!

プロローグ

千葉県沿岸部工業地域に巨大精子突如出現!!

巨大精子、形態変化を繰り返し群体で関東を蹂躙!
自衛隊は総力戦で挑むも効果なし、米軍の介入をもってしても抑止には至らず。

国連はついに熱核兵器の使用を決定。日本政府必死の交渉空しく本土に投下、関東付近一帯は灰燼と化した。

だが、ヤツは死んではいなかった!!

_____そして、現在

日本の中枢は京都に遷都し、旧東京跡地では巨大精子が胎動を続けていた。


1「time to go」

『皆さんこんばんは!探索ユーチューバーのタンサクンと申します!今日はですね、日曜日のお昼ですが!特別企画として!下水道探索をですね!中継したいと思いますよ!下水道の中といえばですね・・・』
『ここでですね、こうやって手をたたいたりして音を立てると・・・・反響しませんね。下水道の中ってなにもないときはすごく音が反響するんですよ。ということはなにか生き物がいるかもしれませんね』
『下水道にワニの都市伝説ってあるじゃないですか?でも下水道の中ってやっぱりワニにとっても過酷な環境で、生存はほとんど考えられないらしいですね』
『うわ、見て下さい!ウシガエルの天国ですね。外来種なので駆除したいですけれど数が多すぎますわ!』
『じゃあこれウシガエルの卵かな・・・?さすがに僕でも気持ち悪い量ですね』
『コメントがめっちゃ精子言ってる、精子じゃないですよ~!オタマジャクシって言ってくださいよ~!女性も一応見てるんですよ~!』

『やばいやばいって!!』
『やらせなんかじゃねえってコメント!!』
『やばい脱出口壊れてる』
『でかすぎるだろ!!』
『靴流された・・・なんで下水道を素足で歩かなきゃいけないんだよ!』
『また出てくるのかよ!!』
『ちょっと!!誰か!!助けろ!!!』

『こちらは千葉県三番瀬上空でございます!さながら地獄の門が開いたような光景であります!海が真っ白に染め上がり、おびただしい量の、体長およそ20メートルほどでしょうか!?巨大なおたまじゃくし様の生物が噴き出ております!!元の海面は完全に覆いかぶさられてしまってます!あまりにも巨大な生物の群れでございます!』
『この謎の生物群は現在西方向へ進行しており、茨城県、千葉県、東京都、埼玉県の住民に対し避難指示が発令されております、茨城県、東京都、埼玉県の住民は避難指示に従ってください』
『これにより関東は昨日までの平穏な日常はどこへやら、避難のために高速道路、公共交通機関は渋滞や混乱が起きる恐れがあります。落ち着いた行動を心がけてください』
『現在政府は臨時閣議を召集し自衛隊による駆除がまもなく行われるものと思われますが事態が収拾する見通しは立っておりません』
『こちらは現在の千葉県柏市の上空でございます!!まもなく自衛隊による攻撃が始まるとのことで我々マスコミのヘリコプターも退避しながらお伝えしておりますがこの異様な生物はあっという間に街を破壊しながら千葉県の北西部を蹂躙し東京方面に進行しております。総理はこの駆除作戦をもって事態の収拾を図ることを記者会見で述べております』

『では先生、あの生物についてはいかがお考えでしょうか』

『あの形態はまさに精子、ヒトの精子としか言いようがありません。尻尾を回転させ目標に向かい群れで邁進する。これはまさに精子であります』

『こちらは東京都葛飾区のライブカメラでございます。柏市における自衛隊の駆除作戦は失敗に終わり現在東京都足立区、葛飾区、荒川区は進行する巨大生物の群れに蹂躙されているさなかでございます。このライブカメラでも野次馬らしき人影が見えますが非常に危険です。自衛隊の攻撃が再び始まり巻き込まれる恐れもございます。東京都の住民は速やかに避難してください』
【ニュース速報 国連 核兵器による事態の鎮静化を示唆】

『総理官邸より生中継で国民の皆様に配信いたしております。現在東京都を進行している巨大精子・・・巨大生物の群れに対し現在自衛隊、並びに在日米軍により駆除作戦が行われております。また一部報道で国連が核兵器の使用を示唆したことに対しては誠に遺憾であり、厳重なる抗議を伝えております』

【ミサイル発射情報 ミサイル発射情報 当地域に着弾する恐れがございます。速やかに地下に避難しテレビ、ラジオをつけてください】


「坂東先生、もうすぐ到着です」
「わかりました。ここまで私のために準備してくださり恐縮です。このあともよろしくお願いいたします。太田さん。みなさん」
ここは”巨大精子”が現在鎮座する旧東京都墨田区へ複数台で向かう特殊車両の中、それぞれ防護服を着た新警視庁(旧京都府警察)の警備課の人間、それを指揮するCCI(危機管理情報局)の次長、そして警察官たちに警護されている政治家の坂東が乗っている。
「先生は病により急逝されたお父様の跡を継ぎ政治家となり、二回生ながら危機管理情報局庁次官に任命されたと伺っております。今回の視察につきましても我々は亡きお父様のころから・・・」
「太田さんは巨大精子とも俗に言われているヤツの正体をどのようにお考えでしょうか?」
「・・・非常に下世話な俗信だと個人的に思います、あれが精子なら東京湾が、関東が、日本列島が射精したとでもいうのでしょうか。そのような発想にとらわれてイメージを固定されてしまうことこそが本質を見誤りかねないことになると思います」
「さようでございますか。ご金言感謝申し上げます」
この太田という人物は友好的だがややしゃべりすぎるきらいがある。それが自分のような政治家と関係を持つ処世術だったならさすがといったところだが、と内心関心する。

「坂東先生、あれでございます」
防護服ごしに見えたのは、警護の警察官、少し視線を上にあげると核攻撃を受けかつての栄華を誇った首都東京の理不尽にも吹き飛んだ建築群、ひときわ目を引くのは原爆ドームがごとく骨組みだけが残った東京スカイツリー、そしてその横に精子とは似てもにつかない真っ白で巨大な臓器のようなものが鼓動しながらそびえたっていた。
「さながら精巣といった感じですかね。魚の白子みたいな」
「ええ、公式には核攻撃をうけ殲滅されたことになっている巨大精子は、正確な時期は不明ですが現在までこのような形態をとり沈黙を続けております。また見ての通り、心臓の鼓動のような胎動を続けておりこの状態で生きながらえているというのが専門家の見解でございます」
「これに私の父はかかわっていたんですね」
「はい、あなたのお父様は公式で死んだことになっている巨大精子の監視、殲滅を視野に入れて表向きは災害やテロなどから治安を維持することを目的としてCCIの設立に尽力され、病により急逝される日まで毎月欠かさず自ら視察され予算等を手引きしていただきました」
太田の父への忠義を聞き、改めて父の偉大さとプレッシャー、そしてこの太田という人物が信用に足る人物であることを確認する。父がCCIに便宜を図り続けたのもこういった男たちがいたからこそだろう。
「あれをどうにかすることが、親父へのせめての供養か」
「さようでございます」
そう太田が相槌を打ち坂東から目線を外した刹那、警護の警察官たちが坂東めがけて猛烈に詰め寄ってきた。
「なんだ?なにがあった?」
「先生!逃げてください!!」
有無を言わさず坂東は屈強な警察官たちに抱えられ特殊車両に押し込められる。
「全員そろっているか!?」
「まて!太田は!?」
そう坂東が警察官たちに問いかけた瞬間、耳をつんざく銃声が響き渡る。その場にはおよそそぐわない防護服のない集団が武装して巨大精子に向かってなんらかの発砲や投擲を行っていた。それを合図にするかのように残りの車両から一斉に防護服に機銃を所持した部隊が降車するところがかろうじて見えたところで坂東の車両の扉が閉まり急速で発進した。
「実働班が救助に向かいます。安心してください」
コンクリートのけもの道で揺れる車内のなか、自分の心臓が遅れて高鳴る。何が起きたのか、まさか巨大精子が目覚めたのか、いや目覚めさせるものがいたのか。
そう考える束の間、坂東の車両が大きく揺れたかと思いきや上下感覚が急激にひっくり返るほどの衝撃が襲った。
「南無三」

2「Famously」

「目が覚めたか?」
「・・・ここは?」
「お前さんの車両だけは・・・かろうじて京都に帰ってこれたんだ」
「そうか・・・太田は、太田さんは・・・」
「残念ながら奴さんたちはいまだ消息不明だ。久しぶりだな、坂東」
病室で目が覚めた坂東に努めて冷静に事実を伝える男の顔と声には、しかしかすかに聞き覚えがあった。寸分のずれもなく採寸されたスーツ、くすみ一つない輝く革靴、ポマード。間違いない。
「おれだ、松田だ。大学卒業以来だな。まさか政治家になってこうしてまた会えるなんてな」
「そうか、松田なのか。本当に久しぶりだな。大学を卒業して警察官になって、それから巨大精子が表れて、連絡がとれなくて、もう会えないかと思った。公安になったなんて噂も聞いたがそうか、あれからもう十年近くか」
「坂東、再開を祝したいのはやまやまなんだが、そんな時間も寝てる時間もどうやらないみたいでね。取り急ぎ彼を紹介させてくれ」
「感動の再開に失礼するよ。そうだな、エージェント・ダイアーとでも名乗らせてもらおうか。米国のジョナサン・ヴェイハート大統領から任を受けて君と話がしたい」
感動の再開に水をさしたダイアーと名乗ったサングラスの男。外見は白人系であろうか。まったく素性のうかがえない雰囲気があるがここで全くの門外漢が僭上しているということは松田のメンツにかけてもないだろう。
「そうだな、まずはテレビを見てもらいたい」

『こちらは北海道のスタジオでございます。一週間前に旧関東エリアから再び姿を現した巨大精子は日本アルプスを迂回し静岡県、愛知県、三重県、滋賀県を蹂躙し、明後日には京都、大阪府へと上陸する見通しでございます』
『国民からは巨大精子は殲滅されたはずなのではという声も噴出しており国会議事堂前では避難に反対や政府に抗議するデモ活動も繰り広げられております』

「という具合だ。そこでだ、きみがあの時見たものを我々の知見に提供してほしいのだよ」
「申し訳ないが、そういったことは今この時点じゃ回答しかねる。私も頭を冷やしたいのでね」
「もちろん今すぐにというわけではない。我々もデータを提供しよう」
そういってダイアーも一枚の資料を坂東に手渡した。
「汎用生物学の権威、アダム・エドワーズ・ペギミン博士・・・。これがデータですか」
「そうだ、彼も協力をしたいと申し出ている。聡明な回答を期待しているよ」
そう言ってダイアーと名乗る男は病室を出て行った。

「松田的にはあの男はどうなんだ?」
「少なくともカモメのジョナサン・ヴェイハート大統領から任を受けているというのは本当らしい。先日ホットラインで大統領直々にダイアーという男が来日することを伝えられたよ。ただな、」
「ただ?」
「公安の情報網をもってしてもあの男は情報が少なすぎる。なにしろパスポートの名前にも「ダイアー」としか書かれていなかった始末だ」
「そいつは穏やかじゃないな、ちょっと公安として頼まれてくれないか?」
「・・・高くつくぜ?」
にやっと笑い松田は返した。
「じゃあ俺も退院させてもらうとするか、着替えってある?」
「・・・お前、まさか作業着で事務所に出てるんじゃねえよな?」
「作業着で何が悪いんだい」

3「outbreak」


「今回CCIの皆様に参集していただいたのは他でもない、目下日本列島を横断中の巨大精子に対してだ。」
「それに当たり住民の避難シミュレーション。行動パターンの解析。そして誘導の方法、これらを最優先に検討してもらいたい」


「精子なら卵子を目指すのではないでしょうか」
「卵子か…」
「精子は例えば精子は最初から京都を目指していたとすれば。日本書紀では京都を中心に国家開闢を記されております」
「だとすれば精子はなにもせんでも京都を経由するだろう」
「根本的に、あれはなんの精子なんだ。まさかクジラの射精でもあるまいし。怪獣でもいるのか」
「あれだけの体格の精子、まさか地球の射精じゃ」
「…太田さんも同じ事を言っていた。つまりどうにかして巨大精子を地上から宇宙射精させることができれば」
「ひとつだけ方法がある」
「やつを京都府と兵庫県の県境にある田倉山に誘導し噴火の勢いで宇宙まで排出する」

「…決まりだな」

4「bittersweet samba~ニッポンの夜明け前~」

能天気なオールナイトニッポンのカセットが流れる車中で坂東と松田の二人きり。秘密の話題は車中に限る。
「坂東、やっぱりあのダイアーってやつは臭いぜ。ヤツが隠れ蓑に使っていたSustainable Animal Qualificationって企業、やはり米国でも書類しか存在しないみてえだ」
「持続可能な生き物の資格っていうのか?胡散臭い、選民思想も見え隠れするな」
「何よりヤバいのが、東京核攻撃を進言する書面にもあいつの署名があった。他にも東京核攻撃で居場所を失った人間をかき集めて巨大精子を目覚めさせたのもあいつの差し金らしき状況証拠もある」
「なるほどねえ、あいつの話には乗らなくてとりあえず正解だったかな。今日の正午が回答の期限で直々に京都官邸までくるそうだし、そのときは頼むかな」
「本当に来るんだな…作戦も今日なんだろ」「今日でけりをつけるさ」
一呼吸おいて坂東が言った。

「ニッポンの失地回復、捲土重来といこうか」

5「日本の自然と日本人の夢 火山」

京都官邸地下作戦室
「日本の数少ない遺産である京都の街も精子がまっ平らにしちまったな」
「坂東君、我々に協力する気になったかい?」
「いえ、今回はCCIにおまかせください。またいつか協力させてください。エージェントダイアー」
そう坂東が告げると松田ら公安の人間がダイアーを取り囲んだ。
「エージェントダイアー、貴様を破壊活動防止法、外観誘致罪、その他の罪状で逮捕する」
「…気づいていたか。流石日本の公安は優秀だな」
「SAQについても調べさせてもらった。国へ帰れるとは思わないことだ」
「…君たちこそ、エージェントダイアーもSAQもひとつだけとは思わないことだ」
ダイアーが不敵に微笑む。
「今回は君たちの勝ちにしておこう。まだ巨大精子の顛末も知りたいしね」
「…行くぞ」
松田らに連れられダイアーは作戦室をあとにする。
「さてと、はじめましょうか」
「これより、田倉山に巨大精子を誘導し噴火により宇宙へ射精させる、ミコト作戦を開始する。はじめ!」
戦闘機の群れが爆音を上げながら田倉山の火口に爆撃する。火山活動を刺激されてマグマが激しく吹き出る。
「第一段階は成功です。あとはあそこへ誘導するだけですな」
「作戦を第二段階へ移行、巨大精子への陽動はじめ!」
続いて現れた戦闘機が巨大精子へさらなる爆撃を行い地表は激しく抉れる。さらに日本海に配備されたイージス艦群がさらなる追い討ちをかける。
「まさに日本の総力戦だな」
「巨大精子、爆撃により田倉山方面まで進路を変更」
「この調子です、これで一本道に流し込みます」
「巨大精子、形態を変化、群れが一体化していきます!」
巨大精子の群れが密集したかと思えば境界線を曖昧にさせて融合していく。まるで旧東京で坂東がみた白子のような物体に。
「まさか、あんな形態に!」
「このまま攻撃を続けてください!あの状態で火山に叩き落とします」
「田倉山まで巨大精子、あと100メートルまで接近!」
「この期を逃すな!無人在来線爆弾、全車投入!」
自律運転した車両が巨大精子の後方へ突撃していく。激しく前方へつんのめる巨大精子、ついにあふれでたマグマが精子を焼いていく。
「最終段階です。火口を爆破してください」
火口付近に仕掛けられたN2機雷が大爆発を起こし、ついに巨大精子は火口へ落下していく。そして最後のN2機雷が爆発する。
「点火!」

止めの機雷により垂直に巨大なマグマが、そして一体化した巨大精子が上空へ吹き出て、少しずつ小さくなり、空の彼方へ消えていった。


『これより丹波総理からの緊急記者会見が開かれる模様です』
「この度の巨大精子の引き起こした厄災に巻き込まれた日本国民の皆様には謹んで哀悼の意を表明いたします。今回のミコト作戦により精子は宇宙へと去っていきました。しかし巨大精子の正体も、なぜ現れたのかも目下のところ全くの不明であります。我々は総力をあげ日本の復興とこれの解明についてあたっていく所存であります」

「そして、宇宙へと旅たって行った精子が新たなる生命の神秘を産み出さんことを」

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