原田大樹「行政法クロニクル」第1回の示唆

 本日は、原田先生が法学教室にて連載されていた「行政法クロニクル」の内容について検討しようと思います。

 さて、行政法クロニクルとは、田中二郎博士という行政法の大家の理論を、原田先生が研究した結果となります。


(行政とは)

 「行政」概念については、「国家から立法作用と司法作用を除いたもの」という控除説が通説となっています。当初、田中二郎博士も控除説を採用していたものの、『新版 行政法 上』(有斐閣、1974年)からは、積極説が採用されていました。

(積極説とは)
「近代的行政は、法のもとに法の規制を受けながら、現実具体的に国家目的の積極的実現をめざして行われる全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動」

(原田先生が指摘する、推測される背景) 
〇西ドイツの目的実現説を採用?
・「国家目的の積極的実現」
・形成的国家活動→行政による計画策定を念頭
 ⇒同時期における議論を参照?
〇統治行為への関心
・控除説の中でも、高度の政治性を有するものについては、行政粗放で裁判所が判断を行わないことを理論的に説明するため、行政概念から明示的に排除
〇司法権への警戒
・戦後、行政裁判所が廃止され、民事訴訟ルートに乗ることとなった。
・行政行為に対する事後的救済(違法性の認定による取消し)だけでなく、裁判所による行政行為の義務付け及び差止めの許容について議論が広がっていた。
⇒司法権による行政権への干渉の理論的手がかりとしての行政概念

(批判)
〇「法のもとに法の規制を受けながら」
 ⇒「法」概念に「憲法」も入ることとなるのか。入るなら、立法も同じ性格を持っている。

(総括)
〇田中二郎博士による行政概念は、道具概念

〇控除説は、現在では、行政概念ではなく、あくまで行政の特色あるいは法治主義(法律による行政の原理)の説明に過ぎない。

 さて、原田先生による上記指摘については、現代行政法における様々な示唆を生むものです。

 すなわち、大学で習う「控除説」の説明は、行政についての説明をシンプルかつ明確にしたものであり、学説としては強いものです。しかし、積極説の説明は、通説にはならなかったものの、行政概念を積極的に説明しようとして点で傾聴に値します。田中先生の頭の中は、自分には計り知れないものではあります。

 「行政って何?」と聞かれた場合、たいていは控除説の説明とか、所得の再分配とかの機能面の説明につきます。しかし、田中博士の積極説は、国家目的が何かにより行政目的が変わることを示唆しており、また、現実具体的な形成的国家活動ということで、行政の内容すべてを包摂しているように思われます。もちろん、国家活動という定義により、活動する前提のこととなっている点等に疑問があるところであり、また、具体的定義をひとつずつ検討すると、いろいろな批判点も見えるところではありますが、ここに出てくる「国家活動」ひいては、行政活動とは何か、という点を見直すきっかけとなるのではないでしょうか。


 というわけで、今回は田中行政法に関する原田先生の論文を紹介するほか、自治体職員としての観点から、今後の課題について明示しました。

 今後については、第二回についての検討か、条文の附則の検討を行いたいと考えています。

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