救護法(昭和4年法律第39号)の全文

救護法とは

 救護法は、生活保護法の前身の前身の制度です。生活保護制度は、公的扶助であって救貧法的な性質を持つものであり、下記の変遷を遂げています。

 恤救規則(明治時代)⇒救護法⇒旧生活保護法⇒(現行)生活保護法

 恤救規則の本文は、コピペできる状態でインターネットを探すと出てきます。しかし、救護法は国立国会図書館のPDFデータでしか見つからず、「検索できないのは不便だな」と思いましたので、下記のデータは、自力で何とか作成したものになります。
 誤字脱字等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。

 なお、このデータは改正前の一番最初の法律のデータです。
 官報で改め文がありましたので、気が向いたら改正履歴をつけようかとも思いましたが、時間がかかるので辞めました。ほしい方がおられましたら、コメント等いただけると幸いです。

救護法の沿革

 救護法は、上記の恤救規則を廃止し、新設された法律となります。生活保護法の立案担当者のひとりである小山進次郎氏によると、恤救規則から救護法に至るまでの過程について次のように説明されています。

経済界の不況、貨幣価値の変動等に起因する貧困の大量的発生は、もはやこれまでのように、貧困の原因を常に個人的、局部的なものにのみ見出す考えに基づいた施策をもつてしては、到底これを解決し得ざるものとしたからである。かくて明治初年に制定された恤救規則の抜本的改正が政府の内外から要請せられ、統一的救護制度の実施が今や政治の議事日程における最緊急問題の一たるに至ったのである。

小山進次郎『改訂増補 生活保護法の解釈と運用』(全国社会福祉協議会、1991年)8、9頁

 当時は経済恐慌が起こっていた時期であり、貧富の差がかなり広がった時代でした。その中で、救貧施策を実施することが急務であったことがうかがわれます。そのあたりは、自分の論文で取り上げようと考えておりますので、割愛します。

 沿革の詳細につきましては、下記の参考資料を読まれることをお勧めします。これ以外の文献もありますが、かなりまとまっているものを優先的に記載します。

(参考資料)
 ※〇は書籍を、・は論文を表します。

〇小山進次郎『改訂増補 生活保護法の解釈と運用(復刻版)』(全国社会福祉協議会、1992年)
〇右田紀久恵ほか『社会福祉の歴史 政策と運動の展開〔新版〕』(有斐閣、2001年)
〇田多英範・横山和彦編『日本社会保障の歴史』(学文社、1991年)
・今井小の実「戦前日本の救貧制度と家族の変容-方面委員制度を通して-」

救護法の全文


では、救護法の全文に移りましょう。以下が、制定当初の救護法の全文です。勝手にひらがなにしております。とりあえず読みやすくする趣旨です。


●救護法
                   昭和4年4月1日 法律第39号


朕帝国議会の協賛を経たる救護法を裁可し茲に之を公布せしむ

   第1章 被救護者
第1条 左に掲ぐる者貧困の為生活すること能はざるときは本法により之を救護す
 (1) 65歳以上の老衰者
 (2) 13歳以下の幼者
 (3) 妊産婦
 (4) 不具廃疾、疾病、傷痍その他精神又は身體の障碍に因り労務を行ふに故障ある者
2 前項第3号の妊産婦を救護すべき期間竝に同項第4号に掲ぐる事由の範囲及び程度は勅令を以て之を定む
第2条 前条の規定に依り救護を受くべき者の扶養義務者扶養を為すことを得るときは之を救護せず 但し急迫の事情ある場合に於ては此の限りに在らず

   第2章 救護機関

第3条 救護は救護を受くべき者の居住地の市町村長、其の居住地なきとき又は居住地分明ならざるときは其の現在地の市町村長之を行ふ
第4条 市町村に救護事務の為委員を設置することを得 委員は名誉職都市救護事務に関し市町村長を補助す
第5条 委員の選任、解任、職務執行その他委員に関し必要なる事項は命令を以て之を定む

   第3章 救護施設

第6条 本法に於て救護施設と称するは養老院、孤児院、病院其の他の地方長官の認可を受くべし
第7条 市町村救護施設を設置せんとするときは其の設備に付地方長官の認可を受くべし
私人救護施設を設置せんとするときは地方長官の認可を受くべし
第8条 前条第2項の規定に依り設置したる救護施設は市町村長が救護の為行ふ委託を拒むことを得ず
第9条 本法に定むるものの外救護施設の設置、管理、廃止其の他救護施設に関し必要なる事項は命令を以て之を定む

   第4章 救護の種類及方法

第10条 救護の種類左の如し
 (1) 生活扶助
 (2) 医療
 (3) 助産
 (4) 生業扶助
2 前項各号の救護の範囲、程度及び方法は勅令を以て之を定む
第11条 救護は救護を受くる者の居宅に於て之を行ふ
第12条 幼者居宅救護を受くべき場合に於て市町村長其の他保育上必要ありと認むるときは勅令の定むる所に依り幼者と併せ其の母の救護を為すことを得
第13条 市町村長居宅救護を為すこと能はず又はこれを適当ならずと認むるときは救護を受くる者を救護施設に収容し若は収容を委託し又は私人の家庭若は適当なる施設に収容を委託することを得
第14条 市町村長は救護を受くる者の親権者又は後見人が適当に其の権利を行はざる場合に於ては其の異議あるときと雖も前条の処分を為すことを得
第15条 救護施設の長は命令を定むる所に依り其の施設に収容せられたる者に対し適当なる作業を課することを得
第16条 第13条の規定により収容せられ又は収容を委託せられたる未成年者に付親権者及び後見人の職務を行ふ者なきときは市町村長又は其の指定したる者勅令の定むる所に依り後見人の職務を行ふ
第17条 救護を受くる者死亡したる場合に於ては勅令の定むる所に依り埋葬を行う者に対し埋葬費を給することを得
2 前項の場合に於て埋葬を行ふ者なきときは救護を為したる市町村長に於て埋葬を行ふべし

   第5章 救護費

第18条 救護を受くる者同一市町村に一年以上引続き居住する者なるときは救護に要する費用は其の居住地の市町村の負担とす
第19条 救護を受くる者左の各号の位置に該当する者なるときは其の居住期間1年に満ちざる場合に於ても救護に要する費用は其の居住地の市町村の負担とす
 (1) 夫婦の一方居住一年以上なるとき同居の他の一方
 (2) 父母その他の直系尊属居住一年以上なるとき同居の子其の他の直系卑属
 (3) 子其の他の直系卑属居住一年以上なるとき同居の父母その他の直系尊属
第20条 前二条に規定する機関の計算に付ては勅令の定むる所に依る
第21条 救護に要する費用が前三条の規定に依り市町村の負担に属せざる場合に於ては其の費用は救護を受くる者の居住地の道府県、其の居住地なきとき又は居住地文明ならざるときは其の現在地の道府県の負担とす
第22条 第17条の規定に依る埋葬に要する費用の負担に関しては前四条の規定を準用す
第23条 委員に関する費用は市町村の負担とす
第24条 第21条及び第22条の規定に依り道府県の負担する費用は救護をなしたる地の市町村に於て一時これを繰替支弁すべし
第25条 国庫は勅令の定る所に依り左の諸費に対し其の2分の1以内を補助す
 (1) 第18条乃至第23条の規定に依り市町村又は道府県の負担したる費用
 (2) 道府県の設置したる救護施設及第7条第1項の規定により市町村の設置したる救護施設の費用
 (3) 第7条第2項の規定に依り私人の設置したる救護施設の設備に要する費用
2 道府県は勅令の定る所に依り左の諸費に対し其の4分の1を補助すべし
 (1) 第18条乃至第20条、第22条及第23条の規定に依り市町村の負担したる費用
 (2) 第7条第1項の規定に依り市町村の設置したる救護施設の費用
 (3) 第7条第2項の規定に依り私人の設置したる救護施設の設備に要する費用
第26条 救護を受くる者資力あるに拘らず救護を為したるときは救護に要する費用を負担したる市町村又は道府県は其の者より其の費用の全部又は一部を徴収することを得
第27条 救護を受けたる者救護に要したる費用の弁償を為すの資力あるに至りたるときは救護の費用を負担したる市町村又は道府県は救護を廃止したる日より5年以内に其の費用の全部又は一部の償還を命ずることを得
第28条 救護を受くる者死亡したるときは市町村長は命令の定る所に依り遺留の金銭を以て救護及埋葬に要する費用に充当し仍足らざるときは遺留の物品を売却してこれに充当することを得

   第6章 雑則

第29条 救護を受くる者左に掲ぐる事由の位置に該当するときは市町村長は救護を為さざることを得
 (1) 本法又は本法に基きて発する命令により市町村長又は救護施設の長の為したる処分に従はざるとき
 (2) 故な救護に関する検診又は調査を拒みたるとき
 (3) 性行著しく不良なるとき又は著しく怠惰なるとき
第30条 第7条第2項の規定に依り設置したる救護施設が本法若は本法に基きて発する命令に又はこれに基きて為す処分に違反したるときは地方長官は同項の認可を取消すことを得第3
1条 道府県、市町村其の他の公共団体は左に掲ぐる土地建物に対しては租税其の他の公課を課することを得ず但し有料にしてこれを使用せしむる者に対しては此の限りに在らず
 (1) 主として救護施設の用に供する建物
 (2) 前号に掲ぐる建物の敷地其の他主として救護施設の用に供する土地
第32条 詐欺その他の不正の手段に依り救護を受け又は受けしめたる者は三月以下の懲役又は百円以下の罰金に処す
第33条 本法中町村に関する規定は町村制を施行せざる地においては町村に準ずべきものに、町村長に関する規定は町村長に準ずべき者に之を適用す

   附 則
 本法施行の期日は勅令を以て之を定む
 左の法令は之を廃止す
 明治四年太政官達第300号
 明治六年太政官布告第79号
 明治六年太政官布告第138号
 明治七年太政官達第162号恤救規則


 現行法と見比べると、確かに他の学者が指摘する欠点(制度の恩恵を受けるための資格があること、欠格条項があること)はありますが、制度構築がきちんとなされているように思っております。
 また、上記の欠点はあるものの、国家が救護を実施している点や、財政負担をきちんと規定している点は、当時の情勢を鑑みるにしっかりした制度であると考えております。

 以上、なんとなくで作成したデータでした。
 誤字脱字等がありましたらごめんなさい。

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