就学援助制度の課題

1 はじめに

 いままでの記事では、就学援助制度を運用するうえでの基礎知識にあたる部分を説明してきました。これは、自分が異動となって就学援助を担当した際に、実務を運用する前に知っておくべき知識のそもそもの調べ方がわからず苦労したため、他の方に同様のことを思ってほしくないという一心で作成したものとなります。

 さて、実務運用論についてはすでに触れた通りとなりますが、本noteでは、雑記として、実務を通して抱いた問題意識を残しておくことにします。

2 問題意識

(1) 各自治体が独自の制度として行う理由が不明確

 本制度については、もともとは国庫補助金により国の補助を受けて自治体が実施する制度でした。しかし、2005年度に制度が改正され、国庫補助の対象となるのが、要保護世帯に対する修学旅行費及び医療費のみとなりました。
 この結果、各自治体において就学援助制度のデザインが自由となり、自治体ごとにおいて支出できる費目が異なるという現象が発生しています。A市では卒業アルバム代が出るのに、B市では出ないといった事例等が容認されることとなっているのです。
 これは、最終的には財政力がある自治体に有利に働くのではないかと自分は懸念しております。支出できるテーブルが一度増えると、減らすことは容易ではありません。このため、基本的には新たな支出費目は増やさないようにしようと考える自治体が多いです。(自分が財政の担当だったら、どんな理由をつけても増やさせないようにします。)しかし、このような状況ですと、(周辺の他の自治体と比較して)人口が多く、財政力にゆとりがあるような自治体が支給対象費目を増やして周囲の自治体が増やさないようなこととなると、結局人口が多い自治体にさらに人口が集中することになりかねないのではないかと懸念しております。特に、過疎地ですと、近くにある都会の街に住むということが増えるのではないでしょうか。都会の方が利便性がよく、かつ、制度も整っている(ように見える)場合、地方の市町村は太刀打ちできなくなります。このような状況を本制度は助長してしまうのではないかと懸念しております。もちろん、就学援助制度のみをもって転居される方は稀ではありますが、一要因にはなりうるという指摘です。

(2) 制度の性質が不明

 筆者は、本制度については、基準額において生活保護基準を準用していることや、所得テスト(ミーンズテストよりも軽く、前年の収入のみを調べることを意味する造語です。)を行った上で対象費目を支給する制度であることから、社会保障制度の一環であるという認識でおります。
 しかし、実際には、就学援助制度は要綱で運用されることが多く、また性質も、地方自治法に基づく補助金に過ぎないという取扱いとしている自治体が多いです。このため、行政不服審査法に定義される処分に該当せず、不服申立て手段が限定されてしまうという問題があります。
 例えば、要綱に「再調査の実施」等の文言があれば、基準額や収入額を再計算してもらうことができます。このような記述がないような場合には、審査請求の対象とはならず、不服を申し立てるためには、訴えを提起する必要が出てくるでしょう。しかし、訴えを提起したとしても、得られる額は10万円前後であり、訴えに要する費用の方が高くなってしまう可能性もあります。このような制度としてしまうと、各自治体が自由に恣意的に運用することができかねない状況が生じています。

(3) 収入状況調査の根拠

 (2)でも記載しましたが、就学援助制度では、所得テストを行っております。日本における社会保障制度で、ミーンズテストを行っているのは生活保護制度だけであり、これに準じた額を用いている就学援助制度において、所得テストを行っている根拠が不明なのではないかと思います。
 例えば、学校教育法第19条の規定では、「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない。」とするにとどまり、調査については各自治体の条例・規則・要綱等に任せています。自治体が取れる手段として最も手っ取り早いのは条例化により個人情報の利活用範囲を定めることですが、他の自治体から転入してきたような場合等には調査を行わなければならず、それに対する根拠等についても記載する必要性が出てきます。さらに、条例化してしまうと、性質が地方自治法による補助金(贈与契約)ではなく、行政処分となる可能性があり、そうなると審査請求が可能となってしまうため、(通常の行政法の知識がある)自治体の幹部レベルの職員は、及び腰となるでしょう。
 しかし、規則以下の行政規則としてしまうと、「負担付き贈与契約」として本人からの情報の提供を求めることができたり、個人情報の目的外利用の同意を得ることができても、調査等に非協力的な世帯等に対しては、何もすることができず、手をこまねくような状況になりかねません。

3 終わりに

 以下、私見となります。
 私自身、上記のものに対して、一見合理的と思える理由は考え、質問等をされた場合には回答することができるようにしています。しかし、一見合理的と見えるものであっても、性質が不明確である点については、根拠がなく、また、自治体が任意で設定する社会保障制度など、あってもよいものなのか、という点の疑問がぬぐえません。自治体によって出ない費目があっても良いのか、という点が気になっているのです。
 このような状況を解決するために、生活保護に準じた制度として就学援助法等を制定し、各自治体にすべてを任せないで、支給基準等を明確化したマニュアルを整備してほしいと考えております。
 結局、国に丸投げか…という意見もありそうですが、2024年4月に「人口戦略会議」が1729もの消滅可能性自治体を示しました。これからは、自治体の「終活」なるものが必要なものと思われる中、就学援助にいかに費用を割くことができるか、と考えると、絶望的な自治体が多いものと思われます。また、自治体格差=子供に対する支援の格差となってしまうと、日本の中で、さらに生まれた場所で子どもへの福祉の内容がことなるということです。このような状況は、私個人としては避けたい、すべての子どもに同様の費目を支給し、子どもの間で格差が生じてほしくないと考え、本問題意識を共有できればと思い、本noteを残させていただきました。

 長文となり、申し訳ありません。最後までご覧になってくださった方、途中でも同様の問題意識を共有してくださった方、ありがとうございました。

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