【本の紹介】影響力の武器[第三版]

「なぜ、人は動かされるのか」をテーマに、人間の購買行動や衝動を心理学的な見地でアプローチした超有名な本を今回はご紹介します。これは通常テレビや広告といったマスメディアや、マーケティングの際の手法として用いられていることが多いのかな、と読みながら思ったのですが、今回はコロナ禍における現代社会の混乱と「影響力の武器」の関連性、といったテーマでご紹介をしていきたいと思います。

サマリー

この本の主題は大変シンプルであり、①人間は判断の簡略化のために特定の指標に偏るがために判断ミスを誘発しやすい、②特定の指標は6つの要素に集約される、ということです。もう少し長めに言うと、以下のような感じです。

人間は決定を下す際に、状況全体を十分に考慮して分析することは困難である。これは情報が多すぎる時も少なすぎる時も同様であり、「適切な量」の情報を「適切な判断基準」で取捨選択することが出来ないことを意味する。そのような時に人間は得てして、その状況の中にある単一の、たいていは信頼される特徴に注目するようになる。その特徴とは、返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性といった6つの要因に集約される。このやり方が往々にして愚かな判断を引き起こす温床にもなってしまっており、注意深くこの傾向を自覚する必要がある。

現代社会の混乱との関係性

それではそれらの6つの特徴がコロナ禍とどのような関係にあるのか順に追って説明したいと思います。

①返報性

返報性とは、「他人がこちらに何らかの恩恵を施したら、自分は似たような形でそのお返しをしなければならない」というルールを指します。

ここで思いついたのは望ましい例であり、日本・中国におけるマスクをめぐるやりとりです。新型コロナウイルスのパニックが始まった2月初めに兵庫県が中国にマスク100万枚を寄贈したことが若干物議をかもしたのは皆さんも覚えているかもしれません。当初私もそんなことしてる余裕あるの?と正直訝しんでいましたが、そのあと中国から大量のマスクが寄贈されたことはあまり報道をされている印象はありません。別に見返りを求めて寄贈するなんて野暮な動機ではないと思いますが、このように最初人から受けた親切があると、お返しをしなければと思ってしまうのが人情です。

②一貫性

ひとたび決定を下したり、ある立場をとる(コミットする)と、自分の内からも外からも、そのコミットメントと一貫した行動をとるように圧力がかかります。そのような圧力によって、私たちは自分の決断を正当化しながら行動するようになります。

コロナ禍が原因で飲食店や旅行会社などが大打撃を被っている中で安倍政権が「お肉券」「お魚券」といった構想を発表して猛バッシングされたことは皆さん覚えてますよね。個人的にはあの構想が出された時点でもうドン・キホーテよろしく突き進むと思っていたので、SNSを起点に安倍政権が一貫性のワナから抜け出して政策を見直してくれたのは良かったことかな、とは思いました。とはいえ、森友自殺問題やら検事長定年延長やらについては批判があるにも関わらず自覚的に無視していることも明らかであり、やるせない思いです。選挙行きましょ。

③社会的証明

人はほかの人たちが何を正しいと考えているかを基準にして物事を判断する。特定の状況で、ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断します。

今回のコロナ禍で個人的に最も混乱を煽っているのがSNSの存在だと思っています。様々なSNSで「友人の看護婦さんが」「近くの老人ホームが」など本当かどうかわからないツイートでSNSは盛り上がっています。もちろんこの中で本当のものもあるかもしれません、でもそれは実は嘘かもしれません。証明する手立ては無いわけですから。でもセンセーショナルな筆致はRTを呼び、それは倍々ゲームでそれこそウイルスのように拡散されていきます。たくさんの人にRTされたからって、その情報が真実かどうかは無関係なのに。皆さん、基本的には政府、官公庁、専門家からの一次情報をまずは確認しましょうね。(とはいえ、ここも混乱の原因になることは後述します)

④好意

人は自分が好意を感じている知人に対してはイエスと言う傾向がある。行為に影響する要因としては、身体的な魅力、自身との類似性が挙げられる。

特にゲイのTwitterは自身の好みのタイプの人であったり、近しい知人・友人に閉じた世界になりがちであるため、特にこの「好意」のせいでタコツボに陥ってしまいがちだと思います。多少賢そうな人が何言ってても所詮参考情報です。ツイドルの発言なんて、何の役にも立ちません。別に彼らは専門家でもなければ有識者なわけでもないですから。有事の際にはこういったものは全てノイズだと割り切って距離を取ることが必要です。

⑤権威

権威者に対する服従は、一種の短絡的な意思決定として、思考が伴わない形で生じてしまう。

テレビのワイドショーとかでよくわからんタレントとかお笑い芸人がコメントしてるのとか、まさにこれの典型ですね。笑いとか芸能の面では権威かもしれませんが、未知なる病原菌の前でこの人たちは権威たりうるのか?ということを冷静に考えるべきだと思います。
③でも申し上げたように、誰が権威たるのか?というのは冷静に考えるべきことだと思いますし、周りに適切な権威がいないのであれば、確実な権威者(官公庁、HPなどに実績の記載がある専門家)や確実なソースを元に類推すべきです。

⑥希少性

人は、機会を失いかけると、その機会をより価値あるものとみなす。この原理を利益のために利用する技術として、「数量限定」や「最終期限」といった承諾誘導の戦術が挙げられる。

マスクやトイレットペーパーの買い占めとかがまさにこれです。ちなみに3つの密に行かざるを得ない理由があるならともかく、道を歩くのにマスクをつけるのは正直無駄です。まあそりゃそうですよね。マスクみたいな穴が肉眼でも気合で見れそうなもので、数μmのウイルスの侵入を阻めるはずもない。ただ、みんな今希少になってるから、有用なものだと信じ込んでいるのです。大事なのは、あくまで手洗いです。そして、3つの密には極力近寄らず、3食きちんと食べて、十分な睡眠時間をとること。基本に忠実に過ごすのがベストです。
過剰に恐れるのではなく、適切に知って適切に対処すればいいのです。

とまあ、こんな感じでコロナ禍における現代社会にあふれるバイアスを可視化する際に、この本は有益だと思ったので紹介させていただきました。私の挙げた例以外にも好例はきっとたくさん見つけられると思いますので、皆さんもぜひ心当たりを探しながら本書を手に取っていただけますと幸いです。

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