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【読了記録】今月読んだ本 ~23年11月編~

気温が急転直下


レイ・ブラッドベリ著 伊藤典夫訳『華氏451度』

 不朽の名作です。タイトルの『華氏451度』は本の引火温度を指しています。本が禁制品となった世界で本を焼き尽くす"昇火士"として働く男、モンターグ。そんな主人公が風変わりな少女との出会いでそんな世界に疑問を持つようになる話です。

 海外文学特有の文章であるため、日本人には中々合わないかもしれないですが(私はそうでした)、内容は間違いありません。舞台となっている世界ではテレビ番組やラジオが主な情報源となっていますが、無駄を削ぎ落とした分かりやすさ重視の簡略化された情報のみが流れてきます。そのため、この世界の市民は考えることをやめ、娯楽にうつつを抜かす日々になっています。

 よく言われている話ですが、この本が現代に通じる点というのはまさにそこで、日々スマホを開けば簡単に情報が手に入る現代と何ら変わらないというところです。今を生きる人々はスマホから得た情報を元に何か考えているのか。ただ受け身で情報を享受しているだけではないのか。

 作中にてフェーバー老教授が大切なこととして以下を挙げています。
「情報の本質をつかむこと」
「それを考えるための十分な時間」
「二つの相互作用から得られたことに基づいて正しい行動をすること」
これは文字をただ漠然と読むだけでは実現不可能なことです。

 本作は「焚書」が大きなテーマですが、言葉以上に本を焼くことには意味があります。発禁の意味もありますが、それ以上に知識の規制、情報統制、扇動という意味合いがあります。知識を得ることへの探究心を失ったとき人々はどうなってしまうのか。行く末はこの本の結末のようになるのかもしれません。

三崎律日『奇書の世界史』

 ニコニコ動画やYoutubeでご活躍中の三崎律日さんの著書が文庫化されていたので読みました(三崎さんのYoutubeリンク)。内容自体はYoutubeでアップされているものとほぼ同一ですが、まとまっているため読みやすかったです。

 この本の指す「奇書」とはある地点においてそう言われていた本です。すなわち「かつては当たり前に読まれていたトンデモ本」や「かつての悪書だが、今では偉大な名著」が「奇書」に当たります。

 みんな大好きヴォイニッチ手稿や武器軟膏の話が出てくるので一気に読み終えましたが、価値観の変化がここまではっきり出てくると面白いですね。台湾史のエピソードではサルマナザールの嘘を看破したのがエドモンド・ハレーだったことに衝撃でした。エピソードとしては『月世界旅行』に纏わる話が壮大かつ若干出来過ぎレベルで好きです。ツィオルコフスキーやフォン・ブラウンに多大な影響を与えて人類を本当に月に導いてしまったのは事実ですし、影響度合いも相当です。

 たった一冊の本がヨーロッパを席巻したり、学会を騒然させたり、人類を月に導いたり・・・これらの影響は本一冊で世界は変わることの証左でもあるのかなと思います。

ジョン・マコーミック著 長尾高弘訳『世界でもっとも強力な9のアルゴリズム』

 皆さんが今手に取っている、あるいは触っているコンピュータ。その中では種々のアルゴリズムがせっせと仕事をしているわけですが、その中でも特に役立っているアルゴリズムを9つピックアップした本です。

 触れられているのは公開鍵暗号、誤り訂正符号、パターン認識などコンピュータ科学を学んだ人なら割と聞いたことある、または実際に勉強したような内容が多いです。著者の巧みな筆遣いにより数式もほぼなく、わかりやすい説明がつらつらと記されているので、全く知らない人でも読みやすいと思います。自分は一応情報系の知識はあるので、半分復習のような形で読んでいました。

 ただ、Googleの検索エンジンのアルゴリズムは知らなかったので「考えた人かしこいな」という感想です。重要なページを判断する基準としてページの引用数を見るという発想は言われないと出てこないです。

 コンピュータサイエンスを少し学んでみたいな~という人におすすめです。アルゴリズムは奥深い。


以上3冊でした。今年もあと一ヶ月。頑張りましょう。

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