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【読了記録】今月読んだ本 ~23年12月編~

もう今年終わっちゃうねえ・・・


小川進『QRコードの奇跡』

 私が愛聴している『ゆるコンピュータ科学ラジオ』で取り上げられていたので購入しました。該当回は以下↓

 QRコードの歴史の本ですが、ただの技術史の本ではなく当時の関係者へのインタビューを豊富に盛り込んだヒューマンドラマのような本です。

 元々QRコードはトヨタのカンバン方式で使用するためのコードの一つですが、今では世界中で使われる規格となっています。当然紆余曲折があったわけですが、それがもう面白い。産業スパイのように他社のバーコードリーダーを分解してみたり、切り出しシンボル(右上や左上の「回」字の正方形)を決めるためにあらゆる印刷物情報を調査したりと、かなり苦労されたことが詳細に記されています。関係者のコメントも良い塩梅で入っているのでそこもまた良い。

 この本が発売されたのは2020年2月でコロナ禍直前で、当時からすればQRコードの普及率はこれからといった感じでした。それが現在(2023年12月)を見るとかなり普及したかなと感じます。特にQR決済が主流となってきて、QRコードがより身近になった印象です。勿論私の生活スタイルが変わったことも一因ではありますが、今では見ない日はないと言っていいレベルです。

 もっと革新的な使い方も考案されるでしょうし、日本初の国際規格ということもあるので頑張ってもらいたいです。

レナード・ムロディナウ著 水谷淳訳『この世界を知るための人類と科学の400万年史』

 数年積んでた本をようやく読み切りました。古くは有史以前から古代ギリシャ、ルネサンス、量子力学と人類が辿ってきた科学の足跡が追える良著です。

 古代ギリシャでは科学は数学や音楽などあらゆる分野を包含した学問でしたが、それが徐々に変化していきます。ニュートンらが活躍した時代では「アリストテレスが絶対!」という風潮でしたが、ニュートンがその考えに待ったをかけ、自身の名を冠した力学が発展していくことになります。その後、近代になってニュートン力学では説明できない事象を説明できる量子という概念が持ち込まれ現在に至ってるといった感じです。

 個人的には、人間の知覚の限界を超えた量子論がとんでもないブレイクスルーだったと感じますし、それが一蹴されない土壌が形成されるまでの時間も相当かかったんだなと思います。

 読んだ感想としてもう少し要望を出すなら、本著ではイスラム世界の科学があまり触れられてなかったのが寂しいところです。8世紀頃よりイスラム帝国では古代オリエント・中国などあらゆる文化の書物をアラビア語に翻訳していました。そのため当時のヨーロッパ諸国に比べてイスラム帝国は圧倒的な科学力を有していました。それらの知識がレコンキスタなどで徐々にヨーロッパ諸国に渡っていったことで、ヨーロッパ科学が醸造されたというバックグラウンドがあります。イスラム史については詳しくないですが、ここも書いてあったほうが面白かったかなと思います。

 とはいえ、近代に入ってからは概ねその通りといった感じですし、筆者の筆の上手さ(所々に入る父の回想が良いです)もあるので、分厚かったですが中だるみもせず楽しく読めました。ポピュラーサイエンス本としてオススメしたいです。

NHK「フランケンシュタインの誘惑」制作班『闇に魅入られた科学者たち 人体実験は何を生んだのか』

 世界に衝撃を与えたマットサイエンティストの本です。実験医学の父、優生学、ロボトミー手術、ドーピング、スタンフォード監獄実験と5つのテーマが紹介されています。

 「科学ノ進歩、発展ニ犠牲ハツキモノデース」と偉い人が言っていますが、この本はそれを上手く捉えていると思っています。なぜなら当時、これらの方法・実験に意味があり、人類を幸せにすることだと信じられていたからです。人々は「科学とは幸せをもたらし、豊かな社会を得るための技術である」と誰もがそう考えています。しかし科学の恐ろしい点はそのように幸福をもたらす事もあれば、人間を破滅に追いやる力も有する二面性だと思います。だからこそ本著で登場する科学者は自分が知らず知らずのうちに間違った道へ走ってしまう事に気づきませんでした。

 その結果から良いことも悪いことも学べます。現にジョン・ハンターはおぞましい数の人体を解剖することで医学を飛躍的に進歩させました。現代でこそこう評価されていますが当時は非難轟々でしたし、逆にロボトミー手術は称賛されていました。科学技術は世相を大きく反映する分野だなと痛感します。

 私はこの本を読んでフリッツ・ハーバーを思い出しました。ハーバーはハーバー・ボッシュ法を考案して、空気から肥料を作る技術を確立しています。ただ同時に第一次世界大戦ではドイツで毒ガス兵器を開発し、化学兵器の父でもあります。科学とはこのような恐ろしさを持つ学問です。
 現在、私達が享受している世界も多くの犠牲の上に成り立っています。過去を知り、人類にとって善にも悪にもなりうる科学の「価値」が今どのように利用されているかをよく知り、意見を述べることが重要なのではないか、あとがきではそう書かれています。それでも数百年後にはひっくり返ってるかもしれませんが・・・


以上です。良いお年を。

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