いくつになっても

妹が所属するサッカーチームの練習に送迎を兼ねて見学に行った。父は私と一緒に駐車場の車の中から妹の練習姿を見ていた。母は選手の親たちが集まっているコートサイドのベンチへと出かけて行った。

しばらくして、無性に用を足したくなった私は、母達が集まっているベンチ脇のトイレへと足を進めた。
急に早歩きで現れた息子の姿に、母は少し怪訝そうな顔をした。周囲の親御さんたちも少しこちらを気にしたが、私がトイレへ直行する姿勢を見せたため、すぐに談笑と観戦に戻っていた。

恐らく、選手たちが使うであろう古びた更衣室に併設されたトイレは、コンクリートの壁に覆われ暗く冷たい印象だった。私はとりあえず扉の横にあったスイッチをいくつか押してみた。すると奥の個室の方から、さびた換気扇が回り出す音が聞こえた。しかし電気は灯らない。仕方が無いので、私は薄暗いトイレの中でも比較的明るい、細窓の近くにある小便器で用を足すことにした。何故かその細窓は透明で用を足しながら、グラウンドを駆け回る選手たちの姿がよく見えた。用を足しながら
「換気扇の音が粉砕機みたいだし、この薄暗いコンクリートの部屋も相まってSAWみたいだな」
とか思ったりしていた。

用を終え、若干気持ちも晴れた私は、1発カマしてみたくなった。
カマす相手は、さっき怪訝そうにした母とその周囲にいた親達だ。

とりあえず、母に近づき目の前で5秒ほど立ち止まると、母はまた怪訝そうな顔をしてこちらを睨んできた。そして周囲の親たちもこちらを不思議そうに見てきた。
母は「なに?」と私に問いかけたが、私は何も言わず首を横に振った。
完全に何を言っても笑いにはならない空気に気づいていたが、それが逆に私をワクワクさせた。

私はそのままゆっくりと歩き出し駐車場へと向かう素振りを見せた。

彼らが完全に油断したところで、振り返り大きな声でこう言った。

「あ!そうだ!黄色の細!結構沢山!」

母を含めた人々はそれが何を指すのかわかっていない様子だったが、私はまたすぐに向き直り、そのまま車へと戻った。

22歳の土曜日だった。

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