それを思い出すと僕は
身を焼かれるほどの
痛苦で狂ってしまう
でもたぶん狂った人は
自分をそうと言わないだろうから
僕はそれなりに
まともという証明になっているだろうか

それを思い出すと僕はかつて
自分の身を切り裂きたい衝動を感じた
最近はその想像だけでなんだか痛いので
何がしかで気を紛らわせるばかりだ

いい加減にもう二度と
思い出さないようにしてほしいものだが
記憶というのはまあ皮肉なもので
忘れたいと思うと刻まれてしまうし
覚えておこうとすると
乾いた砂のごとく脳裡の掌からこぼれおちてゆく

そして僕を最も苛むのは
過去の亡霊ではなく
現在の至る所に散らばっていて
油断した頃に僕の背後に回って
「覚えているからな」と囁いたり
「ばあ!」と目の前に現れたり
気付いたら横で寝ていたり
僕の穴という穴から僕の中に入り込み
食い荒らしながら膨らんだりするものたちだ

逃げようとしても振り切れぬ
向き合おうとしても姿形を持たない
それは僕を今日も殺し続ける
あらゆるものを凶器にして
僕を隅に追い詰めてよだれを吐きかける
あれは化け物だ
奴は僕の中で王のように振る舞う

僕はそれを殺すべきなのか
生かすべきなのか
ずっとわからないままで
飼い続けている

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