認知症介護小説「その人の世界」vol.21『心配なんです』
もうあれから3日が過ぎた。いったんここで宿を取り、翌日からヨーロッパへ骨董品の買いつけに行く予定だった。
息子と私は201号室と202号室に分かれて泊まった。社長である息子は深夜まで仕事をするのが常だったし、私は9時には就寝しないと体調が崩れる。
出発の朝、身支度を整えた私は息子の部屋をノックした。返答がないので、ねえ、と言ってもう一度ノックする。やはり返答がない。
引き戸のドアに手をかけると、鍵がかかっていなかった。入るわよ、と声をかけ、私は部屋の中に足を踏み入れた。