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月を眺める ‐ムンクの絵画から‐

    6限終わりの帰り道に自転車を降りて立ち止まり、天久保池を眺めるのが好きです。月の光が水面に映り、風に揺れる水面に付き添うように月も伸びて揺れ、同化しながら液体になっていきます。静かでつめたい空気、まばらに通る自転車の風、少し先のスーパーマーケットから流れる生活のオーラ、それら全てが混ざったやわらかい空間がからだを包みます。


天久保池にて

 月と水面を目にすると、わたしはムンクの描く月を思い出します。 特徴的なあたたかい線で描かれた丸い月が、ホットケーキの上で溶けるバターみたいに、水面に延びている、お気に入りのモチーフです。

はじめに

 はじめまして!灯台(@setcha_cho26)という名前でTwitterをやっている者です。比較文化学類の1年生です。サークルでは歌を歌ったりベースを弾いたりしています。
    今回のnoteでは前述の通り、ムンクが描く月のモチーフについて書こうと思います。
    私見も含むラフな文章かつまだまだ勉強不足ですので、なにとぞお許しください。
※今回のnoteに挿入している絵画作品は、すべて著作権が切れパブリックドメインになっています。

エドヴァルド・ムンク

エドヴァルド・ムンク(Edvard Munch 1863年12月12日 - 1944年1月23日)は、19世紀 - 20世紀のノルウェー出身の画家。『叫び』の作者として世界的に有名で、ノルウェーでは国民的な画家である。

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 ムンクといえば『叫び』が有名です。世紀末美術の第一人者であり、心の深層に迫って、自身の苦しみや闇を表現した作品を多く制作しました。
 そして、ムンクは「月と湖面(水面)に映る月の光」をたくさん描いています。のっぺりと直線に伸び、水平線付近で広がる、T字みたいな独特のモチーフです。 主題となることも多いですが、キャンパスのどこかにさりげなく映り込んでいることもしばしばあります。

モチーフが描かれた作品たち


Edvard Munch「月光」 1895年制作

 こちらの作品は1895年の「月光」です。 うーんかわいい!月の描き方がユニークでかわいくて、めちゃいい〜ですね………。この湖面にまっすぐ伸びる光を描きたくて、水平線を画面のかなり上側に設定したのでしょうか。月の色も暖色が混ざった黄色、という感じで好きです。優しい。


Edvard Munch 「神秘の浜辺」 1897年制作

 こちらは1897年『神秘の浜辺』、木版画の作品です。彫刻刀の荒っぽい跡が波のうねる様子を表している感じがします。やはり月の伸びるようすが中心に据えられ、目立ちますね。


Edvard Munch 「浜辺にいる二人の女」1933-35年制作

 こちらは1933-35年『浜辺にいる二人の女』です。 晩年期の作品です。晩年期のムンクは鮮やかな色彩を使用し、自然などの新たな主題に取り組んだそうです。
 とはいいつつ、鮮やかすぎるのがかえって別世界のように感じられて、ちょっと不気味に思います。真ん中の黒い女性は死神に見えます…。
 右上に、月のモチーフも健在です。中心にたたずむ白いドレスの女性は、この黄色い光を眺めて何を考えているのでしょうか。

 挙げたほかにも、『森の吸血鬼』や『月明かり、浜辺の接吻』など、月のモチーフが描かれた作品は数多くあります。さりげなく描かれた月を見つけると嬉しい気持ちになります。

わたしたちは同じ月を見ている

 さて、ムンク作品の魅力は、彼の膨大な負の経験なしには語れません。
 ムンクの人生はとんでもなく波乱万丈だったことで有名です。幼いころに家族を次々と亡くし、元恋人にピストルで指を撃たれ、双極性障害になり自ら精神科病院に入院し、スペイン風邪で死の淵をさまよい、晩年期にはナチスの迫害を受けることとなります。本当に気の毒なほど、ここに書ききれないたくさんの困難を経験しています。
    自身の繊細すぎる感受性、苦しみをすべて飲み込まず作品として発散したこと、加えて流行病により人々のあいだに暗さが蔓延っていた世紀末という時代、すべてがあったから、彼の作品がわたしたちをハッとさせ、わたしたちに感動を与えているのです。

    加えてわたしは、彼の心に一瞬宿っただろう月へのほのかな閃きや、彼の繊細なセンサーがとらえた気持ちの揺れ動きを感じています。 心の内側、秘められた場所に迫りくる繊細でするどい感覚を、ムンクは毎度あのモチーフに託しているのではないでしょうか。月そのものの神秘性が、ムンクの感性にしたがって拡大し、わたしたち鑑賞者に語りかけているのだと思っています。

おわりに

    わたしは比較文化学類で、芸術、特に美術や絵画作品といった分野の研究をしたいと考えています。文化政策や芸術教育からのアプローチに興味があり、特に鑑賞活動に強い興味があります。
    わたしたち人間は感情を他者に伝える際、言葉というとっても便利で優秀な記号を用いることが大半です。言語化とは自分の感情を向き合って行う取捨選択の過程です。他者に伝わりやすい分、しかし取りこぼしやあきらめの多い変換方法でもあります。言いたいことは言い切れないし、気に入らない言葉も仕方なく使ってしまいます。

 しかし、芸術作品はすべてを包み込んでくれます。相反する気持ちも、似ているようでほんの少しニュアンスの違う思いも、混ぜたり離したりこねたりして、同じ場所にいてもいいよ、と教えてくれるのです。

    もちろん、わたしは言葉が好きです。(アドカレ企画に参加してしまうくらいですし!)だからこそ、言葉にする前の混沌を美しいと認めてくれる芸術に、惹かれているのだと思います。



   ここまで長文乱文を読んでくださりありがとうございました!来年の目標はより一層学び、知見を深め、思考の質をあげることです。そして健康に!生きます!
 

引用作品

ヘッダー画像
Edvard Munch 『月灯り、浜辺の接吻』

記事内
Edvard Munch『月光』『神秘の浜辺』『浜辺にいる二人の女』

参考文献

ムンク展-共鳴する魂の叫び,東京都美術館
https://www.tobikan.jp/exhibition/2018_munch.html



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