叢雲伝 〜転1〜
〜大和路は王子斑鳩法隆寺
厩の宿に眠る旅人
叢雲の剣の鞘に込められた
戦のない世の道標
大陸の荒ぶ風の音いつの日か
和の民座す大和斑鳩〜
稲の若草に朝露の宿る香りに包まれ、私は目を覚ました。昨日出会った者は何者であろうか。宿を借りた礼を言わねばと思い、主人を探した。けれどここは、そもそも馬小屋ではなく、何かの道具置き場である。馬すらいない。
平野を駈け抜ける一陣の清らかな風。昨夜の出来事は幻であったのであろうか。まばらな人影と幾人かの話し声。「留まれよ」の声に従い私は再び警備の職につきこの地に留まることにした。
剣…。その後、剣を見たという声の主に会うことは無く平穏に数ヶ月が過ぎようとしている。そんなある日、再び私は夢の中でその声を聞いたのであった。『禍が訪れるであろう。お主はその剣を以てこの地を守られよ。』
暗雲の立ち込める都の通りに私はひとり剣を抜き、禍と立ち向かう場面に直面している。剣は刀身が青く光っている。
禍とは何であるか。禍の原因が分からなくては立ち向かう術すらない。
そんな問答を夢の中でしながら起きる朝は、正に夢で見た通りの黒雲の立ち込める陰鬱な朝であった。