見出し画像

妖刀猫丸 4 🐾妖刀鵺丸?🐾

 夏の暑さも少し落ち着いた頃、夕涼みの庭先で早夜は、お婆々と話をしていた。
「早夜や、その刀の鞘に使われておる毛皮について少し調べたのじゃよ。聞いてくれるか?」
 早夜は喜んでお婆々の話に耳を傾けた。
「その毛皮がこの神社に奉納されたのはな、おおよそ今から200年程前の平安時代の頃のようでな。京の都で夜な夜な悪さをする妖が現れた時代の物のようなのじゃ。」
「もしやお婆々様、それは鵺のことではありませんか?当時の近衛天皇の在位中、清涼殿に現れ、かの弓の名手源頼政により射抜かれたとされる妖。その弓は先祖の源頼家より受け継いだとされる、確か名は「雷上動(らいしょうどう)」ではありませんでしたか?」
 早夜は嬉しそうに鵺の話を始めた。
「ほほう…あの雷上動を知っておるのか?良く調べておるのう早夜や…。さすがは妖退治の一族の娘じゃ。心強いのう。射られた鵺にとどめを刺したのは頼政の家臣の猪早太で、その後鵺の亡骸は鴨川に船に乗せられ流されたとされておるのじゃ。その折に我らのご先祖様であるのかのう?毛皮を一切ればかりご拝借したとの話を聞いておるのじゃ。」
「祟られるではありませんか?」
 早夜は不安そうにお婆々に尋ねた。
「わしも心配したのじゃが、我らの先祖はこの鵺の乗る船を守護した一族なのじゃそうじゃ。ゆく河の道中も鵺と共に密かに寄り添い、浅瀬は船を引き、流れに引っかかっては河に戻しと、たいそうな苦労をされたそうでの…。その御礼に夢の中で鵺から渡されたのがその毛皮だとのいわれだそうなのじゃ。」
「なんとも!」
 早夜は驚き目を丸くした。
「まあ我々のご先祖様じゃ、その辺りは定かではないがの、鵺の船を用意したのは間違いなく我らがご先祖の退治家業。他に誰がそんな恐ろしい事を引き受ける者があろうか?そのようないわれ故、もしやその鞘は我々を守ってくれるかも知れんぞ。」
「そうに違いありませんね。それにしてもお婆々様、そのようなものがなぜ、ああも無造作に社に…?」
「まあそれも縁じゃの。その刀と鞘は大切にされよ早夜。」
「もちろんでございます、お婆々様!」
 早夜は再び猫丸に話しかけてみた。
「猫丸よお主はもしや鵺丸と名を変えたいのか?」
『………。』
「ならば猫丸のままが良いか?」

「ニャン…」

早夜らの後方のいずこかより、か細く小さな猫のような鳴き声が聞こえた。
「はて?猫丸の声ではないが、そういうことであるか?」
 それを聞いた手元の猫丸は、白く怪しく幽かに光り、水の煙に伴い、えも知れぬ芳醇な香りを放ち、辺りを静潤な空気で満たした。
 その様子を早夜は良しとして、再び猫丸の艶々とした毛並みを撫で愛でたのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?