厄介オタクの複雑な乙女心

 HUNTER×HUNTERが嫌いな人はこの世にいませんよね。
 私も大好きです。
 みなさんはどのパートが一番お好きでしょうか。『ハンター試験編』『グリードアイランド編』『キメラアント編』……。
 私はひとつになんて決めれません。全部最高だと思います。そんなこと聞くやつは好きになれません。

 以前、友人から言われたことがありました。
「HUNTER×HUNTER面白かった! 好きかも~」
 そのとき、こみあがる喜びを必死でおさえつつ、私は真っ先に聞きました。
「何編が面白かった?」
「何編って?」
「ほら、色々あるやん。ハンター試験編とか」
「あ~。多分それ! ていうか、アニメで流し見しただけやから、そこしか観てへんから」
 熟練のオタクの皆さんならわかっていただけるでしょう。
 次の一手に命運がかかっています。
 私の脳内では以下のような選択肢が提示されました。

・「フフッ」(鼻で笑う) → 外道
・「漫画で読んだ方がいいよ」 → 同士予備軍に水を差すな
・「俺はHUNTER×HUNTERよりも初期作のレベルEのほうが好きやな~」  → 知ってる俺感は今は必要ない(ちなみに「レベルE」はめっちゃおもろい)
・「俺はHUNTER×HUNTERより幽遊白書のほうが好きやな~」 → 気持ちはわかるけどもっと寄り添おう(ちなみに「幽遊白書」もめっちゃおもろい)
・「HUNTER×HUNTERはグリードアイランド編が最高で~」 → 情報を飛ばすな

 言わずもがな、全てを却下して放った次の一言。
「キルア、好き? かっこよくない?」
 私は知っていました。彼女が闇属性の少年キャラが好きであることを。
「あの髪の毛ツンツンの子? あ~。かわいいよね。闇抱えてて」
 かかった。そう思いました。
「ハンター試験編のあとにな、キルアの家に行くんやけど、そこで色々秘密が明らかになるねん」
 かくして、友人を沼にはめることに成功しました。

 次に会ったとき、友人の様子はどこかおかしくなっていました。
「最新刊まで揃えたわ。キルアめっちゃ好き」
 これで思う存分語れるな。ようこそ新世界へ。
 私はもう一度聞きました。
「何編が好きやった?」
「うーん。キルアが主役のやつ! 里帰りするとことか、妹出てくるところ!」
 ん……? 少しの疑問を抱きながら続けます。
「わかる! 面白いよな! 俺は最近のブラックホエール号乗ってからの話も好きやけど!」
「あ~……」
「あんまり?」
「キルアが出てこおへんから……」

 私の背中を冷たい汗が流れた瞬間でした。
「キャラ推し」か……。対する私はHUNTER×HUNTERという「作品推し」。もうここから先は哲学の違いです。
 人間の心が脳にあるのか心臓にあるのかと同じレベルの議論です。
 思想の違いはときに争いを生みます。しかし、我々には「対話」という方法が残されています。

 無邪気な顔でキルアの魅力についてかたる彼女に意を決して問いかけました。
「話自体も面白いよな~……な?」
「当たり前やん」
 じゃあオッケーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
「キルアの念能力なんやけどさ!」
 私は彼女とキルアの魅力について語り明かしました。
 思想の違いに優劣はありません。互いをリスペクトする心が大事なのです。もはや我々は同士なのですから。

 さて、長々とHUNTER×HUNTERについて語りましたが、ここからが本題。そう。HUNTER×HUNTERについてです。

 私はHUNTER×HUNTERと同じくホラーオタクでもあります。
 だからこそオタクとしてわかるのですが、私のようなものが『近畿地方のある場所について』でデビューさせていただき、「ホラーモキュメンタリーブーム」のなかの一作として紹介いただくことも多い昨今、まず思うのが「そこなんか! そこそんなに面白がってくれるんか!」という感想です。
 HUNTER×HUNTERでいえば会長選挙編と十二支んのメンバーが突如人気になった感じです。
 いいですよね。十二支ん。私はパリストンが好きです。
 もちろん十二支んと彼らの活躍が描かれる会長選挙編は最高of最高で、後の展開への橋渡しにもなる重要なパートではあるのですが、政治的な駆け引きの色が濃い内容はどちらかというと、私のようなヤバ目のオタク向けでもある印象です。

 現にホラーにおけるモキュメンタリーというジャンルも、過去に数々の名作はありましたが、沼にずっぽりはまったホラーオタクたちが「あれはヤバい」、「手元に置いておきたくない」とニヤニヤしながら言う文脈のものでした。現に私もそうでした。自分で書いておきながらですが、拙作もホラーオタクが作った二次創作みたいなもので、ここまで広がるなんて夢にも思いませんでした。
 それがなにをどうなってしまったのか、書店では「十二支んフェア」や「会長選挙編フェア」として、HUNTER×HUNTERの単行本30巻から32巻が並んでいるではありませんか。

 この現象に対してまず言いたいのは、「マジでありがとうございます」ということです。
 選挙会長選めっちゃ好きだもん。「会長選挙編フェア」だけじゃなくて「HUNTER×HUNTERフェア」までやってくれた日にはもう最高です。
 そうなると当然、会長選挙編からHUNTER×HUNTERに触れる人もいると思います。オタクにとっては同士を増やすまたとない機会です。

『近畿地方のある場所について』でも「はじめてホラー小説を読みました」といったお声をいただくことが度々あります。そのときの気持ちとしては「私の作品を読んでくれてありがとうございます!」というより「ホラー沼の扉を開いてくれてありがとうございます!」で胸がいっぱいです。

 ですが、心の片隅で叫んでしまいます。
「幻影旅団もいいぞー! ゾルディック家もいいぞー! ネテロ会長もいいぞー! キメラ=アントもいいぞー!」
 会長選挙編だけでは、HUNTER×HUNTERの面白さは語り切れません。

 冒頭にああ書きはしましたが、やはり彼女にはキルア以外のクラピカやゴンも好きになって欲しいと思ってしまう。これは私のエゴなのでしょうか。
 でも、私はわがままな人間なので、その気持ちは大事にしたい。

 かといって、「会長選挙編がおもしろかった!」という人に対して「会長選挙編よりもキメラ=アント編のほうが面白い」とか「会長選挙編は文字が多いからイマイチ」とか、同じ箱のなかで他方を貶めるような言い方は絶対にしたくない。だって会長選挙編面白いから。最高に。
 会長選挙編の良さを語ることがHUNTER×HUNTERのファンを増やすことになるなら何時間でも語らせていただきます。
 でも、最終的に言いたいのはやっぱり「HUNTER×HUNTERは面白い!」です。そう。ホラーは面白いんです。

 自分の想いを語るのに無関係な作品をたとえに出してしまうのはどうかなと思いましたが、両方私が大好きなものなので書いてしまいました。

 ここまで、グダグダとまとまらない文章を書きましたが、私が言いたいことはただひとつです。

 レベルEは面白い。




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