コジン的な話ですが… ❶


急にすみません。ちょっと良いですか?
…少しで良いんで! お願いします! この辺りで求人募集してるところありませんか?…なるほど、ありがとうございます!


呆れたように紙が机の上に落ちる音がした。足を組んだ中年の男性はメガネを上げた。
「君さ、高校出てないの」
一連の動作が終わったと同時に出てきた言葉は非常識な人間を罵倒するかのようだった。さて、どう返答したものか…事実高校は出てないし、現在無職…
「…んーと、えっ…と…はは…はぃ…」
そんな引き笑いとも苦笑いともとれるよく分からない声を出した後、小さくなっていく声で返事をした。相手の顔は見るからに、ゴミを見る眼をしていた。それもそうだ。28にもなってニートで社会経験も無ければ金も学歴も何もかもが欠如している。そんな人間を雇いたいとは思わないだろう。
「お引き取りください。合羽坂(カッパザカ)さん。不合格です、まずはある程度の学歴を積んで、そのうえで面接にいらしてください。話してる感じ、初対面ともそんなに上手く喋れないでしょう、君。そんな人教育してる暇と時間ウチにはないから、それじゃお疲れ様でした。」

散々な結末とでも言おうか。これで15回目の不合格。
「世知辛いなぁ…」ついそんな一言が自動ドアを抜けてから漏れ出る。そうして歩き出す。

こう言う、落ち込んだ時は必ず墓参りに向かう。あそこに行けばきっと気分も落ち着くはず…そんな風に思いながら歩み始めた。数十分が経過し、無事に霊園に到着した。中に入り、どんどんと墓の前を過ぎ、一つの墓標の前に立った。墓標には「合羽坂」の文字があった。

「よいしょ」としゃがみ墓の前で手を合わせる。
静かに、ただひたすらに無心に目を瞑る。忘れていた、雪が降っていたこと。次第に肩と頭の上に重みが増えていく。ふと、後ろから声をかけられた。

「ねえねえオネーさん!大丈夫?めっちゃ雪積もってるよ!」割と高めの元気な声だった。何というか少年っぽいな。

「ねーってば!咲蘭(サラ)さん!聞こえてるの〜?」
その発言を耳にした瞬間、全身の雪が崩れる。それを見てか声の主は「あ、聞こえてるんだ」と反応する。呼吸が荒くなる。気分の良い心音ではない。こう、むしゃくしゃと言うかそれに近しい、イラつきによく似た焦りのような…

「…なんでっ 名前を…?」振り返るとそこには黒髪の中性的な小さい人が居た。明らかに子供だ。恐らく自分よりも一回りは違う。身長は大体150cm後半。黒いパーカーを着ている。顔は、凄くいい。

「なんでかって言えば僕は超絶一流の政府の人間だからだよ。最近さ、多いんだよね、事件がさ。んでんで警察だけじゃ足りないから僕みたいな政府の公式ホームページに載ってないような非公開組織の人間が駆り出されてるんだよ。」と、聞いてもない事を喋り出した。いや、流れ的にこれで何故名前を知っているのか明かされるんだろうか…?

「それでね、ここ数十年で異能の出生率も増えてるわけ。まあ、そんな僕も異能持ちではあるけどさ、正直暗躍行動隊とか全く興味ないんだよね。しかもやってる事は各国の政治経済状況の把握と……」
止まらない…!え、嘘でしょ?全然舌が周って止まらないんだけど。衝撃的だ。前振りとかそういうんじゃなくてただ純粋に愚痴を吐いてるだけだ。くどい…クドすぎる!!しかも全く知りたい情報が出てこない。いや、異能の話なんてもう200年前くらいからずっと言われてたし、現代で異能があるなんて普通じゃん。

「あの…」と独り言を遮ろうとしても「んでさ、僕的にはやっぱり異能力者だけを集めた部隊を作って非核三原則に反さない程度に主要国家と渡り合えたら…」凄く危ない発言してる気がする。って言うか一向に名前知ってる理由が出てこない…

「あ、そうそう、僕今暗躍行動隊に居るって言ったじゃん?そこも今は異能持ちは半数ぐらいを占めてるんだけどね?僕の異能は僕の発言に反応した人間の情報を抜き取る能力なんだよね?でさぁ〜これは勝手に発動するんだよねそれで……」

「それ!!!!!!」思わず大きい声が出てしまった。彼は眼を丸くして驚いている。
「私の名前なんで知ってるのか知りたかったの!!それ!!!」ついつい興奮してしまった。

「え、あ、あぁ…そう、だったんだ。僕が何で知ってるのか…ね?」自分のペースを崩された少年は一瞬で勢いが無くなり、どうするか考え込んでしまった。
・・・頭が重くなってくる…    お互いの肩にどんどんと雪が積もっていってしまった。


「まずはどっか座れる場所行こっか。」

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