【読本メモ】『セゾン、堤清二が見た未来』を読んで

無印良品

その企業のいる成長のフェースによって求められる経営者のエッセンスは異なっているようだ。
立ち上げ期では、真善美といったセンスや感覚、ビジョンを組織やサービス、商品に落とし込めること。
拡大期では、センスや感覚よりも一般化、合理化してコストを削減して利益を出していけること。
それでも結局立ち返るべきビジョンから距離ができてしまっていないか点検すること。
そんな感じで無印良品は発展してきた。
今は、「感じ良い社会」を目指してそこに沿った事業展開(団地リノベとか)をしている。
あと、本で紹介されていたFound MUJI 青山、行ってみたくなった。

西武百貨店

西武百貨店はこの頃ニュースになっている。
西武池袋本店でストライキがあった。
そしてセブンから売却されてヨドバシカメラ系の下につく。
ここからどうするのか注目ではある。
諸行無常な感じである。

衣食住が充足した時代には、「遊」「休」「知」「美」というニーズをつかむ必要がある、とあった。
ニーズと表現すると違和感。もっとロジカルやサイエンスといったところから遠いところにある欲求な気もするのだが。

力仕事や単純作業を排除しようと考えていた。テクノロジーが人間性を回復させると信じていたのだ。

上記はこの本からの引用であるが、力仕事や単純作業を排除するだけで人間性が回復されると考えるのは安直である。
仕事において、力仕事や単純作業から人間性を見出すことは不可能なのか。
深く掘り下げることはここではしないが、そうは思わない。
「遊」「休」「知」「美」という言葉から力仕事や単純作業を見つめると、そこから人間性を見出すことは容易であると思われるからだ。

西武百貨店は百貨店同士の競争を制するために多くの手を打った。
他社との差別化を図ったが、2023年の現在から見ると生き残ったのは新興の西武ではなく老舗百貨店だった。
堤が経営を続けていたらどうだったのだろうか。
堤のやり方は精神性に基づくもので新規性や、消費者の心に訴えかけるものである。
故に世の中に受けるのだが、決して地に足の着いた経営ではなく先行投資型である。
これは、経済が上り調子の時はよいのだが、一度潮目が変わると瞬く間に危機的状況に陥るということだと思う。
3倍レバレッジのETFに全振りする、そんなイメージ。
景気に乗って企業の規模拡大ができたことはまず功績であるが、その後の経済動向までは読めていなかったというところか。
求められる消費体験は現在に通じるものまで見えていたのに。
もっとも、彼は強制的に西武百貨店を継がされたのであり、選べるのであれば競合がいない領域で勝負したかったのかも。
そもそも競争相手がいない場所で商売を営むことが良いと思われる。

パルコ

パルコはビジネスモデル的に百貨店のアンチテーゼだった。
堤は自身のやり方を否定するような業態を次々に作りだした。
まさしく創造的破壊であり、自己矛盾を認めて許容する精神性がセゾングループを発展させたようだ。

ホテル・レジャー

セゾンがつまずいた主要因の一つ。
ヒルトンはグローバルで統一したオペレーションを実施するが、インターコンチネンタルホテルは地域性も重視するそう。縁遠いので初耳。

堤は、成長の先の余暇時間にレジャーが来ると予想していた。
その予想は正しかったと思うが、令和の世は”その次”を探している。
そして”その次”はマス的なアプローチではない。
資本家に欲求を刺激されて何かを欲しがる大衆は減っているのではないか。
個人それぞれが様々な情報をインプットして処理する、その先の理想の生き方を目指す。
それは ONE to ONE のマーケティングでもカバーすることはできない、個人それぞれの主体的で創造的な生活(=余暇時間の使い方)ではないか。
そしてその素材をロフトやハンズで調達するのはちょっと違和感がある、という人が多そうだ。

人間、堤清二

結局リクルートの言う、「ロマンとそろばん」に集約される気がする。
真善美をベースとするロマンを持ちつつも、もう片方ではロジカルにサイエンス(科学)を用いた経営管理を行う。
この両輪がバランスしないと事業経営はできない。
堤がバブル期ではなく、デフレ期(失われた云十年)に経営者になっていたとしたら、ここまでの大物になっていなかったと思われる。

ダイエーと対比して語られたセゾン。
それぞれの経営者の原体験が「安さの追求」と「人間的な豊かさ」という違ったゴールを目指すことにつながった。
当時はどちらも支持されていたし、現代にはどちらもとてつもなく縮小してしまっている。
やはり企業は単なる利益追求、株主への迎合というわけではなく、経営者それぞれの思いを核として発展していくべきなのだろう。
そこを消費者は敏感に察知して共感する。


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