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舞台「ノラ-あるいは、人形の家-」を観て

こんにちは。ごまあえです。
6月1日と6月2日、夏川椎菜さん主演の舞台「ノラ-あるいは、人形の家-」の水戸公演を観劇してきました。自分の意思で舞台を観るというのは人生で初めての経験で、色んな物を持ち帰れたと思います。2回参加して大正解でした。このnoteでは、観劇して自分が感じたことを纏めていきます。舞台超初心者の拙い感想ではありますが、読んで頂ければありがたいです。

1.作品の感想

まずは作品そのものの感想です。
自分は、ノラが「仮面を外す」演出がお気に入りです。
この物語には、クログスタというノラと同じくサインの偽造をして失脚した人物が登場します。その彼について、ノラの夫であるトルヴァルは「彼みたいな人間は家族の前でも仮面をつけて生活している」と語ります。「仮面」という言葉を、自分を偽って生きている事の比喩として使っていた訳ですね。
そしてノラにも「仮面」に該当するものが存在し、それは「コスプレ」であると自分は考えます。日替わりで沢山のコスプレを見せてくれたノラ。ヒヨコ群の笑いを誘っていましたが、これがクログスタでいう「仮面」に該当すると考えました。ノラはメイドさんでもなければ可愛い園児でもありません。コスプレは、「本当の自分でない姿を演じている」とも解釈できます。そしてトルヴァルがノラに色んな衣装を着せて可愛がるというのは、彼がノラという人形で遊んでいる事の隠喩なんでしょうか。
そしてノラはトルヴァルの下から旅立つ事を決断するのですが、その少し前に彼に言ったセリフは
「コスプレは、もう終わりだピョン。」
ノラが人形から1人の人間を目指し歩み始めるのを、このセリフで示すのは、切ないしオシャレで好きです。
一連の描写はイプセンの原書にも載っているようなので、これは舞台というよりイプセン「人形の家」の感想ですね。舞台が現代ではなく過去のベルリンである和訳された原書では、「コスプレ」ではなく「扮装」と記載されていましたが。

2.初めて観た深作組の舞台の感想

自分にとって、この劇が深作組の舞台を観る初めての機会となりましたが、色々な驚きがありました。
まずびっくりしたのが、演奏家の存在です。原書にも登場せずキャスト欄にも名前はなく、基本的にはノラ達も存在を認識していないはずの彼ですが、トルヴァルと会話したりノラが彼を指差し「音楽!」と指示したりと特殊な役回りを果たしていました。登場人物なのかそうでないかが曖昧で、そこにメタ的な面白さを感じられて個人的には好きでした。
そしてメタ的な面白さを感じられたシーンはもう一つ。水戸公演でノラが「Don't Dream It's Over」を歌唱する際、トルヴァルとランクがヒヨコブレードを振っていた事と、ヒヨコ群もブレードを振ることが許可されていた事です。キャストネタとして面白かったですし、ヒヨコ群が演者の2人と一緒にブレードを振るのは、ヒヨコ達が先ほど話した「音楽家」のような存在になれたとも解釈できるので、とても面白かったなと思います。自分はこの情報を知らなかったので振れませんでしたが、まさか能舞台でヒヨコブレードの光を見る事になるとは思いませんでしたし、遊び心を感じられてとても良かったです。
また「遊び心」として触れておきたいのは大千穐楽のアドリブの多さです。演奏家さんの↓のアドリブは気に入っていますし、

何と言ってもエミー役寺戸花さんのトルヴァルへの「立ってよクソジジイ!」は面白すぎました。会場中が笑っていましたね。
自分は台本を購入したのですが、台本には書いてないけど2日連続でキャストさんが喋ったセリフやくだりがあった事が気になりました。例を挙げるとエピローグでエミーの使者がトルヴァルの使者に「立って」って言うくだりとか。
これって、公演を重ねたりリハーサルを重ねたりする中で、「こっちの方が良くない?」と独自に改良していった物なんでしょうか。公演が回を重ねるごとに進化し別の形を見せていくというのはまさにライブツアーと一緒だなと感じましたし、複数公演舞台に参加する良さがわかりました。
あとはマイクの使い方も面白かったです。マイクを使うシーンとそうでないシーンを分けてセリフの重要性を強調したり、クログスタがノラを問い詰める時にマイクで喋って圧を出させたり、クログスタだったかな?がノラにマイクを「決断しなさい」という風に渡すシーンがあったりと色んな使い方が見れました。
そしてこの劇で自分が1番好きなシーンは、ノラがトルヴァルとタランテラを踊る所です。ここの1番の魅力は、ノラ演じる夏川椎菜さんの気迫の表情(好きあらば推しを褒める)。自分がファンだからというのもありますが、トルヴァルに郵便受けを見に行かせまいと文字通り「命懸け」であったノラがトルヴァルに近づいていく時のあの睨みつけるような目は忘れられません。音楽の影響もあり、自然と自分の鼓動が速くなっていくのを感じました。舞台にはここまで興奮できる瞬間があるのだと認識させてくれた、キャストの皆さんの名演技でした。
またこのシーンは、愛する女性が夫とダンスをしているのを見させられているランクにとって拷問のようなシーンですが、このランクの感情を観客のヒヨコ群は痛いほど理解できたのではないかと思っています。ええ、痛いほど!!!笑
「2人の愛のダンスをランクとヒヨコ群が見つめる空間」、個人的にはかなり好きです。

3.「奇跡が起こった結末」の演出について

この舞台はイプセンが最初に書いた「奇跡が起きなかった」エンドを披露した後、キャストさんがこの作品が書かれた背景や出版後の展開をお話してくださり、最後に当時批判を受けて結末を変更した、「奇跡が起きた」エンドの「人形の家」のラストシーンを披露してくださりました。
このエンドではノラがトルヴァルと別れるラストが、ノラが自分の子供達の寝顔を見て家出をやめるラストに変わっていましたが、このシーンの演出は非常にコミカルなものになっていたのが印象深いです。子供3人の役をノラ役の夏川さんより年上の大人のキャスト3人が演じてノラに「ママー!」と叫んだり、最後にトルヴァルが「奇跡だああああ!」と叫んだり。感動というより笑える感じで、実際劇場で笑いが起きていた記憶もあります。
演出側にこのような意図がなければとても失礼な受け取り方なのですが、自分はこれを見て「やむを得ず物語の結末を変更させた当時の社会の風潮をからかっているのではないか?」と思いました。オリジナルエンドを見た後に見るこの結末は、自分にはどうも薄っぺらく感じてしまいますし、「こんな結末を流す事にさせた当時の社会の風潮は馬鹿馬鹿しいな」と感じてしまいました。
この舞台では「奇跡」というワードがよく使われていましたが、自分はこの単語の多用は「奇跡が起きなかった世界線の人形の家」を上演しているという事を強調するために脚本の方が後付けで入れたものかもしれないと思っていました。ですが和訳された原書を見返すと「奇跡」という言葉が何度も出てきました。となると、イプセンは当時では衝撃的な「奇跡が起きない物語」という点に重きを置いてこの話を書いたのではないかと、そしてそれが全く違う結末に書き換えられてしまうとはとんでもない事だったのではないかと思えます。
この背景を覚えておくのは、我々が現代社会で生きるにあたってとても大事なのかなと思います。最後にノラの使者が、「多様性の時代といわれる現代、我々はいつ"人形の家"から出ていけるのか」と問いかけて物語は終わります。そして人形の家の結末を変えさせたのも、我々が生きているこの世界の昔の人間たちです。将来、自分の考えや行動が社会に影響を及ぼす可能性がある事や(具体的には選挙とかですよね)、お人形さんにならずに自分の意思で物事を決断する事の大切さを、物語そのものだけでなくこういった背景からも学ぶことができたと思います。

4. 最後に

最後に、夏川椎菜さんの女優としての活躍を初めて生で見届けた、1人のヒヨコ群としての感想を書いて終わりにします。
いやぁ、圧巻でしたね。我々は夏川さんが初上演の1ヶ月前まで417の日の準備に追われている事を知っています。だからこそ1ヶ月であの量のセリフを頭に詰め込めた事が本当に驚きでした。
女優夏川さんはいつもと違う雰囲気を纏っており、特に違いを感じたのは目線です。自分はかなり近くの席で見ていたのですが、目が合いそうで合いませんでした。キャストさんはどこを見て演技しているのかとても気になります。そんないつもと違う夏川さんですが、歌唱をする時の膝を曲げて少し上を見ながらカッコよく歌う姿はライブの時の夏川さんでしたし、一部の「あ、この人夏川さんだ」と感じられるセリフの読み方がありました。今まで沢山観てきたこの人のカッコよさ、可愛さが恐らく夏川さんの事を知らない観客にも伝わっていると考えて、応援しているだけの自分が夏川さんを誇りに思えました。
さて、素晴らしい演技で夏川椎菜三部作を完走した夏川さんですが、6月2日の大千穐楽をもって深作組から一旦卒業するという事が発表されました。お疲れ様という気持ちがあれば、いちファンとしての深作組の皆さんへの感謝の気持ちもあります。しかしライブと違って舞台はブルーレイにはならない事、定期的にあった深作組の舞台出演の機会が無くなってしまった事もあり、大千穐楽の観劇後は切ない気持ち、2回しか夏川さんの深作組の舞台が観れなかった事に対する悔しい気持ちもありました。しかし自身をノラに重ねて「いつか成長して戻ってきたい」と終演後の挨拶で話してくれた夏川さんの覚悟を胸に刻んで、この先も女優・夏川椎菜の活躍に期待し続けたいと思います。ノラは行方不明になってしまいましたが、我々は夏川さんの軌跡をこれからも追いかけることが出来ますからね!
この公演参加を経て、夏川さんが要領良く色んなチャレンジを成功させている事に対する尊敬の念、様々な分野に触れるきっかけになる「声優さんのファン」に自分がなった事の喜びを再確認しました。次はどんな景色を見せてくれるのかな。

はい、もはや人形の家の感想でもなんでもないただのファンレターになってしまったのでもう終わりにします。最後まで読んでくださりありがとうございました。re-2nd楽しみやなぁ。


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