現場参画の面談のテクニック

日本のシステムの開発や運用の現場では、客先常駐という労働形態は良く見られる形態である。
仮に、客先常駐を生業としている企業に勤めていなかったとしても、社内で余剰人員が出た場合、自社製品を取り扱う取引先へのサポートが必要な場合、業務提携先拡大の経営戦略が打ち出された場合等に社員が客先常駐に向かうことがあるため、この業界に携わる者であれば誰もが無関係ではなくなる可能性がある。

客先常駐で案件に参画する上で欠かすことができないものとして、候補者(技術者)と現場関係者(受け入れ担当者)との事前の面談がある。
この面談の出来不出来により、参画の可否、場合によっては参画した場合の売上高(単価)も決まるため、重要なプロセスである。

この記事では、候補者側の視点で、面談のテクニックを紹介する。
どちらかと言うと、事前の関係者間の調整が少なく候補者側にとって難易度が高い面談で必要になるテクニックを紹介する。
(難易度が高い面談に通る力があれば、事前に関係者間で調整される難易度の低い面談を通すことも可能である)

なお、面談に並んで重要なものとして、職務経歴書(スキルシート)の作成・開示があるが、こちらについては所属組織のサポートを得ることが容易であり、また面談準備をする中で逆算的に記述内容が決まるという側面もあるため、この記事中では重点を置かないこととする。


(1)面談の大まかな流れ

面談の方法は現場毎である程度の差異はあるが、各現場で共通する大まかな流れは存在するため、それを紹介する。
また、面談は1回ではなく複数回行われることもある。それについても補足する。

【1回の面談の流れ】

1回の面談の流れとしては以下のようなものになる。

  • 案件説明
    参画する現場のシステム概要や作業概要について、現場関係者から候補者へ説明する。
    候補者からの質疑応答も合わせて行われる。

  • 経歴説明
    事前に提出した業務経歴書を元に、候補者から現場関係者へ自らの経歴を説明する。
    現場関係者からの質疑応答も合わせて行われる。

  • 雑談
    許された時間や現場の雰囲気次第ではあるが、業界特有の話題で雑談が行われることがある。

  • 最後の質問
    面談終了時に、現場関係者から候補者へ改めて質問がないかを問われる。

【面談の回数】

自社と現場の間に複数社挟んでいる場合は、面談が複数行われることがある。
例えば、1回目の面談は一つ上の会社との面談、2回目の面談は現場の受け入れ側の会社との面談、という具合である。
途中の面談が上手く行った場合は、次の面談に向けた準備(現場の雰囲気の共有、想定問答の確認、等)が行われるため、候補者としては上手く利用したい所である。

(2)良い印象を与えるための方針

面談で良い印象を与えるための大方針としては、以下の二つのことを心掛けると良い。

  • ソフトスキルの高さを示すための準備や仕草をする

  • 良質な経験を積み重ねてきたことを示す応答をする

以下では、それぞれの場面ごとに、具体的にどのような言動を行えば良いのかを説明する。

【事前準備】

対面での面談であれば、事前に日時や集合場所を確認した上で、Googleマップを確認する、誰かに道案内を依頼する等して、道に迷わずに時間通り始められるようにする。
リモートでの面談であれば、ハウリング等の防止のためにヘッドセットは必ず用意し、面談で使用するシステムで必ず事前にテストする。
準備した上で、時間通りに始められない、機器の不具合が発生する、等のトラブルが発生したとしても、冷静さを失わなずに着実に対処することも失点を防ぐ上で重要である。
上記のような事前準備をそつなくこなせるかどうかも、仕事ができるかどうかを見極める一つのヒントになることを意識するべきである。

【会話全般】

面談開始から終了までの一連の会話について、特に心掛けるべきことは、相手の会話のペースに合わせること、自分が話したいことを一方的に話すことを避けることである。
特に、自分のハードスキル不足を実感しておりそれを隠したい場合に一方的なアピールを行いたくなるが、事前に職務経歴書を見せた上で面談の場に呼ばれているのであれば、ハードスキル面については問題がない、あったとしてもキャッチアップ可能な範囲である、と思われているということである。
一方的なアピールをしてしまうと、ソフトスキルが不足していると判断されやすくなるため、自信を持って、相手の会話のペースに合わせることが最善である。

【案件説明】

円滑な進行を妨げない範囲で、案件内容をできる限り共有してもらうことが望ましい。
「どのようなスキルを求めているか知りたい」という理由をつけて、以下のことを共有してもらう。

  • 案件の目的

  • システム構成の概要

  • 案件の進捗度合いと今後の予定

  • 案件の体制

  • 自分に求められる役割

特に、経験豊富な候補者の場合は、普段の仕事のやりとりの延長線上のやりとりであるため、案件説明で良い印象を与えられる可能性が高い。
案件説明を上手くこなすことで以下のメリットを得られ、この時点で面談通過の確率を十分に高めることができる。

  • 面談序盤の印象の向上
    一度印象が良くなると、その後印象が悪くなりにくくなる。

  • 経歴説明に向けた事前の情報収集

  • 経歴説明時点での緊張の緩和

  • 聞き出しスキルのアピール

【経歴説明】

案件説明の時点でどのようなスキルが求められているかが明確になっているので、それに沿って経歴説明する。
求められるスキルを案件説明前に全て知ることは難しいため、経歴説明の流れをこの時点で決めるのがベターである。
台本が存在しないような状態であるため、流暢に経歴を説明することは難しくなるが、流暢ではなかったとしても、相手に合わせる意思を見せれば心象が悪化する可能性は低い。
それ以上に、案件説明までの流れを無視して台本通りの経歴説明をしてしまうことの方が、「自然な会話ができない」「事前に自社内で打ち合わせた通りに話しているだけ」という印象を与えてしまい、ソフトスキル不足と判断されてしまう可能性が高い。

質疑応答についても臨機応変に対応することが重要である。
準備しておらず即答できない質問が来たとしても、慌てないことが重要である。
質問の意図が不明瞭な時は、質問の意図を確認することで、自分の気持ちを落ち着かせつつ、的外れな回答をしてしまう可能性を低くすることができる。

知らない知見や未経験のスキルについて問われた場合は、それを隠そうとせず、知らないものは知らないと答えた方が良い。
可能であれば「似た知見・スキルである〇〇であれば知っている」「経験はないが勉強はした」と答え、全くゼロではないということを伝えた方が良いが、無理に誤魔化したり嘘をついたりしてまで伝えるべきことではない。
繰り返しになるが、面談の場に呼ばれている時点で、ハードスキル面には問題が無いと思われている可能性が高いので、そこには自信を持つべきである。
特に、面談の場で初めて出てくる知見やスキルについては、現場関係者側も「将来的に〇〇の知見やスキルを使うかもしれないので念のため聞いておこう」「別枠で募集をかけるつもりであるが、この人が〇〇の知見やスキルをもし持っていたら助かる」というレベルの温度感である場合が少なくない。

【雑談】

許された時間や雰囲気次第ではあるが、心証を良くする上では、できる限り雑談を挟み込んだ方が良い。
業界人しかわからない話、例えば「炎上PJや障害発生時の苦労話」「アジャイルと称する省プロセスな現場の実態」等は好意的に受け止められることが多い。
このような雑談を挟むことで、場が和やかになると共に、業界を知り、苦労を重ねてきた候補者であることをアピールできる。

経験が少ない候補者の場合も「IT業界に流れ着いた経緯」「インドアな趣味で拘った経験のエピソード(例:好きなRPGでレベルを99まで上げたエピソード)」といった話題なら話せるはずであり、このような話題もIT業界では好意的に受け止められることが多い。
このような話題は、IT業界の関係者との同質性のアピールになる。

【最後の質問】

このタイミングで無理に質問をする必要はない。
「これまでの会話で気になることは全て質問したので、特に質問は無いです」と返してしまって問題ない。

ただし、以下のような、参画後にパフォーマンスを発揮する意思を感じ取れる質問であればしても良い。

  • 経歴説明での質疑応答で、自分に何を求められているか気になった場合

  • キャッチアップが求められるスキルを聞きたい場合

逆に、「平均残業時間を確認する」のような、候補者としては気になるが労働意欲を疑われる可能性がある質問については、面談終了後に自社の営業を経由して聞くべきだろう。

(3)良くある質問

方針としては(1)と(2)だけで充分であるが、良く聞かれる質問については、事前に準備した方が心に余裕を持ちやすくなるだろう。
そこで、ここでは、良く聞かれる質問について、重要なものだけをピックアップし紹介する。

【〇〇の経験はあるか】

現場で必要な知見やスキルについて、職務経歴書や候補者の説明から充足しているかわからない場合に、このような質問をされる。
回答方針としては、(2)にて前述した通り素直に回答するべきであるが、適切に回答する上で、自分がこれまで経験したり勉強したりしてきたことを棚卸し、概要をいつでも説明できるようにする準備も必要である。
経験があると回答した場合、〇〇の経験について、その経験の内容や知識面を深堀りする質問が追加で来ることもある。
深堀りされたとしても答えられるようにするためにも、棚卸しと概要把握の準備は必要である。

「〇〇」については技術要素が入るとは限らず、「リーダー経験はありますか」「エンドユーザーとのやりとりの経験はありますか」といった、ポジションやコミュニケーションに関するものを問われることもある。

この質問のバリエーションとして、候補者に〇〇の経験が無さそうだと思われている場合に、「〇〇に興味はあるか」という形で質問が来ることがある。
このバリエーションについては、仮に現時点でスキルや経験が不十分であったとしても、それをキャッチアップする意思・ポテンシャルがあることは伝えるべきであるため、「自主的に学習していました」「情報をキャッチしていました」等、何かしらの形で前向きな回答をしたい。

【〇〇の作業をする上で気を付けていることはあるか】

前述した「〇〇の経験はあるか」を深堀りする質問の一つのパターンであるが、この質問は、スキル面を問うというよりは、現場での行動特性を問う質問に近い。
何かしらの経験を本当にしてきたのであれば、経験に基づいて何かしらの信念があるはずなので、それを伝える必要がある。
(この質問に答えられるようになるように、普段からQCD(品質・コスト・価値提供)を上げるにはどうすれば良いのか、自分なりに考え、それに基づいて行動するようにしなければならない)

特に聞かれることが多いのは、「コーディングで気を付けていること」「レビューで気を付けていること」「運用作業で気を付けていること」の3点である。
作業者としての目線とリーダー・管理者としての目線の違いもあるため、自分の経歴や案件内容も照らし合わせた上で、回答を考える必要がある。
例えば、「コーディングで気を付けていること」という質問に対しては、自分のことだけを考えれば良い作業者であれば「コーディング規約を確認しそれを守るようにしている」という回答で良い。
しかし、作業者に良い仕事をさせる必要があるリーダー・管理者の立場なのであれば、「一般的なルールを元にコーディング規約を作成・共有した後、システムの特性や実際に発生したミスを元に随時規約を更新・共有する」という回答でなければならない。

【あなたの長所と短所は何か】

このような、通常の就職面接で聞かれるような、候補者の人となりを確認する質問をされることもある。
面談をスキルマッチの場だと考え、その対策しかしていないと、このような質問をされた時に面食らうことになるので、その意味で注意が必要である。

この類の質問の中では、長所と短所を聞かれることが多い感がある。
対策は通常の就職面接と同じで良く、この質問に関しては「具体的なエピソードを添えて回答する」「短所は長所に言い換えられるものを挙げる」といった対策で良い。

他には、雑談の一環で趣味を問われることも多い。

【残業がある現場ですが大丈夫ですか】

これは、候補者の勤怠を心配しての質問である。
「フルリモートの案件ではないですが大丈夫ですか」「通勤時間が長くなりそうですが大丈夫ですか」等の質問も意図としては同じである。

面談の通過率を上げることが第一優先なのであれば、これらの質問に対しては、何かしらの理由をつけて「大丈夫です」と答える他ない。
同じような勤務を経験していればそれがベストだが、そうではない場合も「〇〇の時間を仕事に割り当てるので大丈夫です」「学生時代に夜遅くまで部活や勉強をしていたので大丈夫です」等の形で回答する必要がある。

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