上下関係に着目した対人スキル

組織で仕事をすることで、一人で仕事をする場合よりも多くの資源を使うことができるようになり、一人ではできない仕事もできるようになる。
しかし、組織の中で仕事をする上では、一人で仕事をする場合には身に着ける必要がなかったソフトスキルが必要になる。

この記事では、組織の構造に簡単に触れた上で、組織の中で仕事をする上で必要になるソフトスキルについて述べる。

(1)組織の階層構造と担当者の役割

組織として行う一つ一つの行動は、全体として一貫した方針で行われるべきである。
会社であれば、各部署や各社員が、顧客や株主のような利害関係者に対して一貫した対応を行うべきである。

一貫した方針で行動する上では、組織を階層構造とするのが合理的である。
方針を定める意思決定者の数が多いと方針を一つのまとめるのに多くの労力が必要になるため、意思決定者の人数を多くすることは難しい。
しかし、少ない意思決定者だけで会社の隅々まで見渡して具体的な実作業を行うことは労力的に難しいため、意思決定者を上位者とし、その下に具体的な作業や手順に長けた担当者を据えるのが合理的である。
会社であれば、上位者を幹部、担当者を一般社員や協力会社の要員とし、その間の架け橋として中間管理職を据える、という形をとるのが一般的である。

図1-1:組織の階層構造

担当者としては、自分が長けているのは作業や手順についてであるということと、会社としての方針はあくまでも上位者が決めるということを認識するべきである。
そして、自分が担当している実作業で何か問題が発生した時は、原則として上位者によるレビューが通っているマニュアルに従って対応し、マニュアルの範囲を超えている場合には上位者に判断を仰ぐ(エスカレーションする)べきである。
上位者に判断を仰ぐ際は、上位者の判断を助けるために、その事象が組織全体にどのような影響を及ぼすのか、対応方針としてはどのようなものが考えられるのか、といった情報を伝えるのが望ましい。また、具体的な作業や手順について詳しいのは担当者であるため、上位者が持ち合わせていないであろうそれらの情報を補足するのが望ましい。

(2)リーダーシップ理論

リーダーシップとは組織を率いて一つの方向に向かわせる能力であり、組織で働く上では、特に担当者の上の立場で働く上では欠かせない能力である。
リーダーシップというと、各担当者に明確に指示出しし強制的に引っ張るスタイルをイメージされるかもしれないが、リーダーシップは状況に応じて適したスタイルがあると考えられており、このようなスタイルが適する場面もあればそうではない場面もある。

リーダーシップのスタイルを示す理論には様々なものがあるが、この記事ではSL理論(状況対応型リーダーシップ)により説明する。

SL理論では、組織とリーダシップの関係は下記図のようになるとされている。
組織が成熟するにつれて、有効なリーダーシップの取り方がa→b→c→dに移行するとされている。

図2-1:組織とリーダシップの関係(SL理論)

最も成熟度が低いaの状態というのは、構成員のスキルも自主性も不足している状態のことである。
もう少し具体的に言うと、成果を出すために何をすれば良いのかわからない状態や、そもそも成果を出すための意欲が低い状態のことを指す。
このような状態の組織を引っ張る上では、成果を出すことを最優先で考え、成果を出すための道筋を示し、それに従わせることができるリーダーが求められる。
道筋を示す上で、リーダー自らが判断を行う必要があるので、リーダー自身にもプレイヤーとしてのスキルが求められる。
リーダーのワンマンプレイのようになるので人間関係に軋轢が生じることもあるが、この段階では副作用としてある程度受け入れざるを得ない。

成熟度が少し高くなり、bの状態になると、担当者にスキルが身に付き始める。
この状態になると、末端の細かい判断や作業は構成員自らできるようになる。
まだまだリーダー自ら動かなければならない場面も多いが、この段階からは担当者に任せる仕事の範囲を徐々に広げ、担当者と良い人間関係を築くことも考える必要が出てくる。
あまり長い間リーダーが前面に出て続けると、担当者の自主性が育つのを阻害してしまい、次の成熟度へ進むのが難しくなる。

成熟度が更に高くなり、cの状態になると、担当者に自主性が育ち、組織として一つの方向に向かうように自ら考えられるようになる。
この状態になると、これまでリーダーが行っていたような判断を担当者自ら行うようになり、その上で足りないスキルがあれば担当者自ら努力して身に付けるようになる。
この段階になれば、リーダー自ら動く必要はなくなる。担当者が気持ちよく仕事ができるように(このリーダーの下で働きたいと思ってもらえるように)、人間関係のメンテナンスに注力するのが有効になる。

成熟度が最高に高まり、dの状態になると、担当者自らリーダーシップを取るようになる。
この段階に到達すると、リーダーは人間関係のメンテナンスをする必要もなくなる。
リーダーの仕事は、担当者に任せて見守るというものになります。

(3)タスクの割り振りと実行

多数の担当者で作業を行う際には、行うべき作業をタスクとして切り分けて一人ずつ割り当てることで、作業の抜け漏れのような無駄がなくなり、効率良く作業を行えるようになる。
タスクを切り分ける際のコツとしては以下のようなものがある。

  • 一人一人のタスクを明確にする
    集団で作業する場合、他者の存在により緊張感が低下する、自分が努力しても評価されにくい、等の理由で、一人で作業する場合と比べて一人一人の生産性が下がることがある。
    (心理学の用語で「社会手抜き」と呼ばれる)
    その対策として、一人一人のタスクを明確にすることで、他者に任せきりにできない、手抜きした場合にそれが他者にわかる、という状態にすることが有効である。

  • 一人一人にとってちょうど良いレベル設定にする
    スキルレベルが高い担当者に簡単なタスクを渡すとモチベーションが低下する可能性がある、逆にスキルレベルが低い担当者に難しいタスクを渡すと作業が進まなくなる可能性がある。
    それを防ぐため、スキルレベルが高い担当者にはタスクの目的から考えさせるようにして飽きないようにする、スキルレベルが低い担当者には難しい箇所を肩代わりしたり手順化したりして下味をつける、といった工夫をすることが有効になる。

  • 気持ちよく作業してもらう
    タスクを渡された担当者のモチベーションを上げるため、担当者の専門性や特性を認めた上で、その担当者に合ったタスクを割り当てていると説明することで、自尊心をくすぐると良い。
    (「専門性」というと少し大げさかもしれないが、特定の役割を割り当てた上で「その役割の仕事については自分より詳しいはず」というもので十分である)
    最初に小さく簡単な要求をしてから少しずつ大きく重要な要求をする(フットインザドア)、断られるのが前提の大きな要求をしてから本命の小さな要求を飲んでもらう(ドアインザフェイス)、といった心理テクニックも有効である。

  • 作業状況を随時確認する
    タスクの進捗状況を確認するのはもちろんのこと、タスクの目的がずれていないかを確認するのも重要である。
    例えば、画面のプログラムを作成するというタスクで、「簡潔で操作方法を理解しやすいという意味で綺麗な画面を作る」というタスクを「エフェクト盛り盛りで見栄えが良いという意味で綺麗な画面を作る」というタスクであると担当者が誤解した場合、全体として一貫性が取れない状態となってしまう。
    そのため、タスクの内容や目的について意思疎通を密にしたり、実際の作業中の成果物を見たりすることで、目的がずれていないことを確認することが有効となる。

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