ドキュメントの読み方

システムの開発・運用の場では、情報伝達の手段としてドキュメントが用意されている。
このドキュメントは人間が作るものであるため、情報の抜け漏れ、時には誤りが埋め込まれていることもある。

そのため、ドキュメントを文字通り理解するような読み方では、正しく情報伝達がされない可能性がある。
ドキュメントを読む際には、自らも何かしらの推論を働かせ、何が正しいのかを確認しながら読み進める必要がある。

この記事では、ドキュメントを読み進める上で、助けになる視点を説明する。


(1)誤りの箇所が不明確な状況での確認作業

ペーパーの試験とシステム開発・運用の現場で大きく異なる点として、どこに間違いが埋め込まれているか定かではない、という点が挙げられる。

たとえ話として、以下の左右に分かれた絵を用いてイメージを説明する。
ペーパーの試験では、「左右の絵に違いが1点あります。その点を述べよ。」という形で出題される。
このような形で出題されれば、左右の絵の違いに着目できるため、正しく間違いを探すことができるだろう。
(回答:左手にデバイスを持っているかどうかの違いがある)

図1-1:同一であると書かれているが実は差異がある状況のイメージ

ところが、システム開発・運用の現場では、上記の絵に「左右の絵は揃える必要があるため、このようにしました。」という説明文が添えられた形でドキュメントが作成され報告されるような形になることがある。
もし、その報告を真に受け、左右の絵が違っている可能性を疑うことがなければ、左右の絵の違いが発見されないままになってしまう可能性がある。
もしくは、絵の方は正しくて、それを見た報告者が誤った報告をしてしまっている可能性も捨てきれない。

このように、どこに間違いが埋め込まれているか定かではない状況では、どこかに間違いが埋め込まれている可能性を疑った上で、以下のように確認を進めると良いだろう。

  • その主張に至った背景を確認する
    ディベート技術を用いた論理的な対話の型」でも触れた通り、論理的な文章は、主張と、それを支える根拠によって成り立っている。
    上記の絵の例では、「左右の絵を揃えた」という報告が主張、絵の部分が根拠、に相当する。
    間違いを探す上では、まず、その主張に至った背景を確認すると良いだろう。
    もし、「間違い探しの絵を作って欲しかった」という背景があるのであれば、主張の方が誤りである、ということになる。

  • 主張が根拠を支えているかどうかを確認する
    上記の絵の例のように、主張を支える根拠が備わっているとは限らない、という点に留意して、根拠が正しいかどうかを誰かが確認する必要がある。
    一人で作業をしていると誤りに気が付かない可能性があるため、ダブルチェックを行うべきである。
    ダブルチェックを行う余裕がない場合でも、少なくとも後で自分で推敲するべきだろう。

(2)統計データを読む際の前提条件や因果関係の考慮

物事を定量的に語る上で、統計データは大きな武器となる。
しかし、この統計データが正確に計測されたもの、かつ作為的に計測されていないものであるとしても、解釈次第で誤った結論に至ってしまうことがある。

この項では、誤った結論に至ってしまう2つの要因について説明する。

【前提条件の読み誤り】

これは、統計データを実験で得ている場合に特に注意が必要になる。

例えば、ある画面で検索ボタンを押して結果が表示されるまでの時間が、実験により平均1秒であることが判明したとする。
しかし、実際に運用した際に平均1秒で結果が表示されるとは限らない。
実際の運用では、複数ユーザーによるシステム利用や裏で動いているバッチ処理により、機器に負荷がかかっている可能性があるためである。
この負荷により、2秒や3秒、あるいはそれ以上かかる可能性があるのである。

このような実験を行う際は、実運用に条件を近づけることが肝要になる。
例えば、疑似的に不可をかけるプログラムを裏で動かす、人を集めて同時にシステムを利用してもらう、といった、条件を近づけるための工夫が重要になる。

【因果関係の読み誤り】

これは、現実の活動から統計データを得ている場合に特に注意が必要になる。

例えば、交通事故注意の看板がある交差点では交通事故が多い、という統計データが得られたとする。
この統計データをもって、「交通事故を減らすためには交通事故注意の看板を減らすのが良い」という結論を導き出すのは危険である。
交通事故注意の看板の有無と交差点の交通事故の件数が関連している理由として、「交通事故注意の看板があると何かしらの要因で交通事故が増える」という理由以外にも、「交通事故が多い交差点に交通事故注意の看板が置かれる」という逆の因果関係の理由も考えられるためである。
看板には事故を減らす効果があり、看板を設置してもなお交通事故が多い、というのが真相である可能性があるのである。
(むしろ、そう考える方が自然だろう)

このように、得られた統計データから因果関係を導き出したい場合は、そのような統計データとなった背景に考えを巡らせる必要がある。

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