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◇特集「海外の人が選ぶ 世界で活躍する日本人」

*アップル社のイベントに招待され
「世界最高齢のアプリ開発者」と紹介された
若宮正子さん

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            わかみや まさこ
 1935年(昭和10年)、東京都に生まれる。東京教育大学附属高等学校卒業後、三菱銀行に勤務し、後に管理職となる。定年退職後、初めてパソコンを購入し81歳でアプリを開発したことで、米国アップル社が毎年開催する2017年のイベントに招待される。翌年、国際連合総会で「高齢化社会とデジタル技術の活用」をテーマに基調講演を行ない、内閣府主催の「人生100年時代構想会議」に、82歳の最年長メンバーとして参加する。(写真提供=共同通信社)

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若宮正子さんが開発したアプリ「hinadan」

 アプリということばが、若者の間で日常語になりました。元々は「アプリケーション」ですが、それを短縮して「アプリ」と言い、スマートフォンなどに取り込んで使うプログラムのことを言います。それによって、ゲームやメール、音楽プレイヤーなどを起動し、利用することができます。

 年配の人の中には、若者と同じようにアプリを利用する人もいましたが、それはごく少数です。多くは、アプリと言うことばに違和感を覚えなくなっても、利用するまでに至りません。

 開発されるアプリは、若者が利用することを前提に作られていました。年配者が日常生活で必要とし、役立つアプリはほとんどなかったのです。

 4年前、若宮正子さんは、単純に年配者も利用するアプリがあってよいと思い、アプリ開発者に頼んでみたところ、「僕らは年配者が面白いと思うものは作れません」と言われてしまいます。

 その返事は、当然といえば当然のことでした。若い世代のアプリ開発者には、60代、70代の年配者が楽しみにすることは何か、その種の調査資料を見れば把握できることです。しかし、年配者用のアプリを開発したとしても、スマートフォン利用率が低く、採算を見込めないという現実がありました。

 その頃から4年が過ぎた今、年配者のスマートフォン利用率は50%を超えています。


 15歳 ~ 49歳の男女 99% ~ 90%
 50歳 ~ 59歳の男女 86% ~ 79%
 60歳 ~ 69歳の男女 70% ~ 65%
 70歳 ~ 80歳の男女 56% ~ 53%
 ( NTTドコモモバイル社会研究所調べ )

 若宮正子さんが初めてパソコンを購入したのは58歳になってからです。27年前のことで、パソコンは高価な代物でしたが、退職金という目途があって、若宮さんにとっては奮発して手に入れた「高価なおもちゃ」でした。

 まだインターネットが家庭で利用されていません。分からないことは、パソコン検索で知ることができる時代ではありません。「エフメロウ」というシニアコミュニティに参加し、同年代の男性と女性にパソコン操作を教えてもらった若宮さんでした。

 その後は、20年間ほどパソコンやネットを活用したシニアの生きがいづくり、子供向け教育を支援する複数の団体に参画して来た若宮さんです。まさか自分でアプリを開発することになるとは、夢にも想わなかったことでしょう。

 マイクロソフト主催の東北復興支援イベントに参加した時、知り合ったIT企業社長の勧めで、シニアが楽しめるアプリを自分で開発をすることにして、マック(パソコン)と教科書を買い込み、教科書の著者にメールで教えを請い、IT企業の社長にもネット経由で指導を受け、半年でアプリを完成します。

 それは、80歳を過ぎてからです。作ったアプリは「hinadan」と言い、雛(ひな)人形を正しく雛壇に並べるゲームが楽しむことができます。このことが米国アップル社関係者の耳に入ったのだと思います。同社が毎年開催している世界開発者会議「WWDC 2017」に、「世界最高齢の女性開発者」として若宮さんは特別招待されました。

 アップル社としては、自社のスマートフォン、アプリを利用する人、まだ利用していない世界中の年配者の共感を得るには、またとないアピールになったことでしょう。

 3年前の2017年6月のことです。「世界最高齢の女性開発者」若宮正子さん名は、瞬く間に各国に知れ渡り、日本国内でも身辺が急に慌ただしく動き始めることになりました。

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 このシャツの柄は、エクセルを使って自分でデザインしたと話す若宮正子さん。(写真提供=共同通信社)

 その時の若宮さんは82歳でした。ひとり暮らしで旅も学びも自由に謳歌(おうか)する生活を続けて来たのですが、周りが放っておかなくなります。翌年2月(2018年)には、国際連合総会で「高齢化社会とデジタル技術の活用」と題する基調講演を行ない、内閣府が主催する「人生100年時代構想会議」に、82歳の最年長メンバーとして参加しました。

 まさに、超高齢化社会の「騎手」という立場に置かれた若宮正子さんです。これからの高齢化社会では、家で寝たきりなっても、気軽に介護士を頼める時代でなくなることが予想されます。介護ロボットや機器を使いこなして行くには、年を取ったからといって、ITアレルギーになってはいけないと言います。

 若宮さん自身もベッドにいながら、「オーケー、グーグル! テレビをつけて」とか、「照明を明るくして」と話しかけ、ITを便利に使っているのです。

 若宮さんの尽きない発想と行動力は、心身ともに健康であるからだと思います。健康の秘訣は、特にないということですが、いろいろな人に会って、新しいことに取り組む緊張感がいいのかも、と話します。

 若宮さん83歳の時のことばを紹介します。

・躊躇しないで、始めましょう。うまくいってもいかなくても、誰も死なないし破産もしません。

・英会話でもカラオケでも、恥ずかしいから一人で練習して、ある程度できるようになってから教室に行こうと言う人がいます。それで上達した人はいません。

・私がプログラミングを学んだ時は、塩釜在住の方とSkypeやFacebookのメッセンジャーを使ってやりとりしました。無料なのがありがたかったです。現在はビデオチャットなど、さまざまな方法があるので、これを活用しない手はありません。

・知り合いのお母さんが、7歳の息子さんから教わる時に「よろしくお願いします」と声をかけていました。私はその姿勢にとても共感します。

・学ぶことで、新しい自分に出会えます。 
                         

                          (本誌・特集班)

参考
https://www.axa.co.jp/100-year-life/health/20181204/「人生100年の生き方」

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