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顧客体験入門~「顧客理解の原理原則」

私はコレクシアという会社で、「商品が買われる、売れる、選ばれる」といった、購買に至るまでのプロセスの研究をしています。その成果をまとめた著書、顧客体験マーケティングが先日インプレス社から発売になりました。顧客体験をデータで捉え、顧客理解から新たなアイデアや商品企画、クリエイティブやコンテンツを作り出すための実践テキストです。今日は、本書のご紹介も兼ねて、

・顧客を理解するとはどういうことなのか
・顧客理解のよくある落とし穴
・顧客の何をどう理解すれば、ビジネスの成果につながるのか

といった実務で役立つポイントを、ざっと解説していきたいと思います。

(この記事は、私が連載しているWeb担当者フォーラムのコンテンツをnote用に再編集したものです)

■顧客をどう捉えればビジネスの成果につながるのか

顧客視点、顧客の声、顧客体験……
カスタマーファースト、カスタマージャーニー……

世の中には、"顧客"や"カスタマー"が付く言葉が溢れています。顧客の重要性を説いた書籍やコンテンツも沢山あります。しかし、「概念は分かるけど、実務でどう実践すればいいのか分からない」という経験はないでしょうか。

今は色々な顧客データが手に入ります。サイトアクセスや購買データの傾向を分析する。SNSの反応を見る。アンケートで感想を聞く。顧客をよく知りたいだけなら、何をどう見てもそれなりの収穫はあるでしょう。

しかし顧客を理解したその先、理解からアイデアや企画を生み出そうとするなら、見るべきポイントは限られてきます。また、顧客理解というタスク自体にも様々な誤解や落とし穴が存在します。

■顧客の「現状」ではなく「変化」を理解する

まず、顧客を理解するといっても大事なのは「顧客の現状」ではなく、「顧客の変化」を理解することです。例えば顧客理解の一環として、アンケートやインタビューしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。しかし真摯に顧客の声に耳を傾けようとするほど、顧客が「今、何と言っているのか。今、何を感じているのか。」という現状に目が行きがちになります。顧客の声というだけで意識せざるを得ない、ある種の強制力があるからです。しかしそれだと顧客の”今”しか見えていません。

そもそも顧客理解が必要なのは、「顧客が変わるから」です。かつてのマスプロダクションのように皆が同じような製品を望み、同じメッセージに対して同じような反応を示すのならば、顧客理解の重要性はあまり高くありません。それよりも開発主導で大量生産して、流通させたほうがモノは売れます。

しかし現在あらゆる分野でデータとAIが活用され、社会の仕組みや産業構造は転換期を迎えています。また新型コロナウイルスが今までの生活様式や働き方、コミュニケーションのあり方を激変させ、DXをより一層加速させています。社会や生活に変化が起これば、商品を選ぶ基準や課題解決の優先順位も変わります。その結果マーケティングに対する反応や購買行動が変わり、前年踏襲的なやり方が通用しなくなります。そのような局面で現状を見ていても、変化に対応する手立ては見つかりません。

■ペルソナの功罪

この視座から、顧客の認識がどう変化したからブランドが価値になったのか、なぜそう変化したのかを学ぶことが重要です。そのためには実在の顧客の体験を追う必要があります。顧客を見える化する代表的なツールに、ペルソナがあります。「ワークショップなどでメンバーと意見を交わしながら、ターゲット顧客のペルソナを作り上げる」―アイデア発想本などでよく紹介されている方法ですが、注意したいのは、現実にいない人のペルソナをいくら作りこんでも、成果につながるような新しい発見はほとんど得られない、ということです。

顧客データなしでもワークショップを行うと「新しい発見があったような感じ」は得られます。しかしそれは、元々自分が思っていた事を整理してアウトプットする機会が得られ、それがポストイットや相関図で見える化されたことにより、一時的な納得感が得られただけなので、思いもよらぬ新しい発見がないのは当たり前です。ブランドが顧客に受け入れられる過程で、実際に何が起こっているのかという情報はそこにはありません。

また、実在の顧客に基づいていても、顧客像だけが豊かに記述されていて、どうしたらその人に買ってもらえるか分からないケースも見かけます。例えば次のプロファイルを見てください。

[首都圏在住の30代男性で広告代理店に勤務。SNSをよく見る。購買前にいろんなサイトで比較する。一人暮らし。趣味は旅行で、週末のドライブが好き。高校と大学で野球をしていて、社会人草野球チームに入ろうか検討中。現在彼女募集中で、、、]

SNSをよく見ていて購買前に比較するなど顧客体験”風”な情報もありますが、購買との因果関係に言及していないので、この人にSNSでどんな体験を提供したら買ってもらえるか見えてきません。どれだけ顧客を理解しても、認識や行動を変えることができなければビジネスの成果にはつながりません。

■ブランドが価値に変わった理由こそ、最も役立つ顧客理解

結局、顧客理解を施策に落とし込むためには、”顧客像”ではなく顧客にとってブランドが価値になる”理由”や”条件”が必要になるということです。顧客を理解しても、その理解を通して戦略や施策が変わらなければ、理解は成果につながらないからです。

変化の視点をもって顧客を理解して、ビジネスの要件に変換する―これが顧客理解の本質です。より正確に言えば、成果を生み出すには、「顧客がどう変化したのか、なぜ変化が起こったのか」という顧客の体験を理解して、「戦略や施策をどう変えればよいのか」というビジネス側の変化を生み出すことが必要ということです。

■ブランドが受け入れられるプロセスと、価値が成立する条件を捉える

さて、顧客体験を見える化するためにカスタマージャーニーを書いてみた、という方も少なくないと思います。たしかにカスタマージャーニーは顧客体験を理解するには優れたツールです。しかし、顧客理解を戦略や施策に落とし込むツールではありません。この2つは別のタスクなのですが、よく混同されています。そして混同されたまま実務の現場に浸透してしまったのが、日本のカスタマージャーニーです。

ここで、「ブランドを知ってはいたがこれまで購買しなかった客が、新規に購買した」という状況を想定してみます。今まで買わなかった人が買ったということは、ブランドが対価以上の価値に変わる何かしらの「変化」が顧客側にあった、ということです。したがって、このような新規トライアルを増やしたいのであれば、単に現状の顧客体験を表すカスタマージャーニーマップを描くのではなく、ブランドが購買された時、顧客の生活にどのような「変化」があったのかを理解できる分析が必要になります。

どのような変化があった時に欲しいに変わるのか。ファンになるのか。競合ブランドからスイッチするのか。このような「何がどう変わったから購買したのか」が分かれば、「購買してもらうためには何をどう変えるべきか」は逆算できます。

著書「顧客体験マーケティング」では、ナラティブ分析という手法を使って、この「顧客の変化のルールやパターン」を分析する方法を紹介しています。大まかな流れをピックアップすると、次の3つのポイントで顧客体験を把握していきます。

1.ブランドの何が価値になったのか。

実際に顧客に受け入れられた価値は何だったのか。ブランドのどんな側面が顧客のどんな課題感とマッチしたのか。「ブランドの便益」と「顧客の課題」をセットにして捉える。

2.顧客の課題感はどこから来たのか。

その課題は、顧客の生活の中で、どんな出来事がきっかけとなって生まれたのか。今までのどんな当たり前が当たり前ではなくなった時に生まれたのか、という生活文脈の変化を探る。

3.顧客の理想に近づく生活変化が得られたか。

ブランドを購買して課題が解決されることで、顧客の生活がどう変わったのか。顧客が自身の生活にどんな理想や規範(べき論)を持っていて、購買後の生活変化はどれだけその理想に近づくことができたのか。

このようなポイントに絞り、顧客が自身の体験について語ったストーリー型のデータ(ナラティブ)を分析して、「顧客体験における変化」と「ブランドが価値に変わった理由」を逐次的に紐解いていきます。ブランドを価値として成立させた変化を顧客体験から抽出して、より多くの顧客に向けた施策として再現すれば、ブランドが価値に変わる体験(施策)を狙って作ることができるわけです。本書ではこれ以外にも、顧客理解を成果につなげるための実践スキルを解説しています。

■「顧客体験マーケティング」で解説すること

本書は、顧客体験をデータで捉え、顧客理解から新たな戦略や施策、製品企画、クリエイティブやコンテンツを作り出す実践テキストです。

●【ブランドが価値として成立するプロセス】

・100以上のブランド、5,000以上の顧客体験から導き出された、
「ブランドが価値として受け入れられるプロセス」を詳しく解説

●【1人の顧客を深く理解して企画やアイデアを生み出す方法】

・顧客体験を観察してデータとして捉える「ナラティブ分析」
・マーケティングにおけるナラティブの実践と対話技術
・ブランドが価値として成立する条件を見つける分析手法

●【顧客体験を軸とした施策の作り方】

・顧客のナラティブから、ブランドが語るべきストーリーを開発
・ブランドを受け入れてくれるターゲット層の見つけ方
・ブランドの新しい利用機会を創出する仕組み
・データドリブンの施策開発事例(動画CM、新製品コンセプト、体験型イベント)

●【体験価値の算定】

・顧客を奪いやすい競合の見つけ方と奪うためのストーリー開発
・売りたいモノありきで、ブランドのストーリーを最適化する方法
・簡単な計算で施策の体験価値を算定
・サブターゲットごとの体験を最適化する「顧客体験ポートフォリオ」

●【こんな人(企業)におすすめです】

・顧客理解の必要性を感じているが、どう始めていいのか困っている方
・顧客中心のマーケティングが必要だと感じているが、実践手順がつかめていない方
・「顧客の声を聞いているのに、売上や成果に結びつかない」と悩んでいる方
・データに基づく科学的な施策作りを行いたいと考えている方
・実務で戦略立案や施策企画、製品開発に取り組んでいる方

■(おすすめ記事)アフターコロナの顧客体験を調査

現在新型コロナウイルスが、多くのビジネスに影響を与えています。これは言い換えると、多くの消費者の生活がコロナにより変化している、ということです。外部の記事ですが、「“アフターコロナ”の行動変化を予測するには? 顧客に「直接」聞いてみる」では、共著者の村山が、顧客体験マーケティングの考え方を使って、コロナ後の顧客体験の変化を調査、傾向を分析しています。よろしければご覧ください。

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