名残惜しさと不安と寂しさの研究
おはようございます!ぼちぼちの独房で暮らしています。仕事できている、いややらされ仕事できているからそう見えるのでしょう。あと三日間は、稼いで帰りたいのならここにいることになるわけなので、ほんでもって僕はできれば予定通り稼いで帰りたいので(なんなら飯代を浮かせて)、ここに居心地の良い空間を見出していかなくてはならない。そのためにまず、やらされ仕事(出張を立候補したのは僕だけど)に向かう前の本業は欠かせない。
エアコンを除湿から冷房に切り替え、上に着ていたバスケのロンTも脱ぐ。そう、デパートでの出店なんておまけなのだ、とりあえず福岡へ来てとらきつねに行きたかった、ついでにいつもと違う、一人きりの環境で、全く違う土地でものを書くことに興味があった。それをやらずして今回の遠征がいいものになるわけあるかい。ハケンのおっさんはたしかに社会が産んだなんとやらにみえるが、それ以上の文句はいらない。シフトは被らない方が嬉しいけど。帰りも昨日ほど遅くなることはもう考えられない。19時までにはデパートが閉まるから追い出されるらしい、なんと健全なことか。そしてなによりここに、記録を残そう。意識などしなくても筆跡に残る。筆圧も筆の運びも気がついたら変わっている、はずだ。近頃は自分の書いたのを読み返すことも減ったけれど。そう、ちょうど三日ほど書かないでみることを試してみてから。テレビではもちろんYouTubeや映画なんて見れないのでタブレットでももってくりゃよかったな、と思ったがパソコンがあった。本当に持ってきてよかったです。空港では、荷物検査をする際にカバンから出してください、とかリチウム電池がどうだった場合危険物に当たります、みたいな注意書きをみて、これダメってことすか?と勝手に絶望しそうになったものだが、まあそんなわけないか、そんなわけあるのかもしれないけど。とりあえずこのスピーカー兼ノート兼iPadがここにいてくれて本当によかった。こいつがいれば一人の寂しさもなんとかなるような気がする。びっくりしたよ、旅行でもなく、というか旅行にしても1泊2日を超えてひとりで、友達も彼女も家族もなしで過ごした経験がなかったから、ホームシックというのがどういうもんかわかっていなかった。成田空港ではもちろん感じなかったし、福岡空港でもワクワクしていた。レンタカーに乗るなら使う出口からとりあえず出てみて、今日こっちから出ても仕方ないやん、ときがついてからこれは旅行ではないんだと気がつき始めて、不安になった。小倉駅までの鹿児島本線では、1時間半あるのでとりあえず座って過ごしたいというのと、上の荷台に乗せたボストンバッグが落ちてこないか心配すぎてそのことばかり考えていた。具体的な不安だけがあった。小倉駅に着いてから、なんとなく今回はうまくいかないような気がした。というか寂しかった。一人旅は好きだと思っていたんだけど、それも現地で友達をつくらなくてはやっていけないということなのか、今はラヴィッットつけて、テレビの横にデスクがあるのでそちらの音量を抑えつつ、マックブックでThe Sea in Springを流している。朝、この部屋で、どう音が生まれていると気持ちがいいのか三日間かけて研究していこう。
お疲れ様です!なんとか天気のおかげもあって気分が持ち直してきた。朝飯をガッツリ食ったので昼飯はいらないと踏んだ。18時退勤というのは多分ほんとにその時間に上がれるやつだと思うので、それに賭けて最後の2時間半を乗り切りにでた。いけるかなー。社員食堂むっちゃ安かったよ。腹減ってないのにのちのちのためってことにして、うどんとおにぎり食いそうになった。定食がまず400円か450円、うどんが300円しなくて、おにぎりが100円。400円もかからないならここでガッツリ食っといて、夕飯適当に食べるほうが安上がりだと思ったのだが、夜ちゃんとおもしれーもん食えるように予算1000円まるまる確保しておきたいよなー、とそうした。とはいえ心配だ。ここで散歩とかしすぎると、体力は問題ないだろうが昼休憩の最終盤にお腹が空いてくるという、最も恐れるべき状況に陥りかねない。じっとしとこう。景色は良い。雨も止んだ。昨日も今朝も、どんより切れ目のない鼠色が、ぶあつく視界を遮っていたのがよくなかったのだろう。ハケンノオヤジに切れてもいた。ただオヤジはまあ残念ながら居るのだが、なんかそのへんうろちょろしてて、店舗を運営するのとは違う役割をもっているらしいとわかってきた。このまま、ひとまず今日は目につかないように適当に接客がんばろう。あと2日か。なげえな。なげえが光明は見えてきた。思ったよりそのタイミングが早くて嬉しい。
多分今日明日あさっては残業がないので、昨日伸びた2時間を差し引いて、予定より勤務時間が4、いや3.5時間短かったことになる。つまり4000円くらいか。予算8000円のところ、4000円で乗り切れれば。難しそうだけど。今日はオールインワンの化粧水も買いたいんだよな。試しに5日間保湿なしでいってみようかとも思ったが、寝る前にムズムズする。日を重ねるごとにそれが強まっていきそうだ、ならばもうちょい粘ってみて、流れが良くなりそうな類のものではないと思う。ホテルの目の前にあるツルハドラッグを見てみよう。400円もしないといいんだけど。となれば今日は社員食堂で夕飯を済ませていってもいいな。空いていればの話だけど、足りなかったら実家から持ってきた最後の切り札、スープ春雨を食べればいい。もうちょっと切り札枠持ってきてもよかったな。というか飯代補助出ねえかな、ホテルに朝飯ついてるだけでもまあありがたいんだけど。あまり期待せずに、あとで追加されたらまあラッキーのメンタルで。
休憩はあと20分ほど。最後にトイレも済まして戻りたいな、前半戦に一度トイレで抜けちゃったから、休憩あがってからはノンストップでいきたい。ここでの営業の数少ないいいところは、時計の位置を僕がまったく知らないがために見れどもみれども時は経たぬ、残念、と思わなくて済むことだろうか。体感的にはそこそこ時間が経っていて、まだ休憩もらえないのかな、と思ったタイミングでもあり膀胱が限界を迎えたタイミングに初めてスマホで時刻を確認したら、13:30を過ぎたところだった。開店が10時なもんだからてっきりまだ3時間半しか経っていないのだと思って、必要以上に仕事をおもんねえと思わされた。おもんねえ帰りてえ、マジでか、マジなのか。こころぼせえー!今はまあなんとかなりそう。休憩中だからそう思うのだろう。営業中はずっと、おもんなさと空虚が僕に付きまとう。デパート側のパートさんがたくさんきてくれて本当にありがたい。昨日とは活気が段違いである。シケた奴らばっかりだからよ、おばちゃん全部ケツで吹っ飛ばしていいから。俺はスルスル隙間を縫うように、楽するというか、まだマシなように、この仕事を乗り切るから。まじかあ。なんとかなりそうでよかったけど、思った以上に出張営業は向いてないな。バイトだからかもしれない。ほぼ派遣だもんなこれ。そう考えるとすげーな派遣社員の人って。割り切る力がすごいのかな。いちいち人の言葉尻を気にしちゃうような人には難しい仕事だ。びっくりするのが、なーんか、ナメられたくないのか彼らに言われるがままにやり続けてこれだけの日数を乗り切れる気がしないからなのか、指示に対してやたらと食い気味に返事をしてしまう。ときに僕に対してなんでそんな言い方するん、とツッコミを入れることもある。いつも働いてる店舗でも、言うてもそういう喋り方をしているような気もする。思い返してみると。でも柔らかい会話にまとまっている。表情とか、声のトーンが違うのかな。このへんは新たな研究対象の萌芽として覚えておく。
23:31、今日も寝る前にこれを仕上げる。23:30からは強制あおむけの時間。消灯もこのタイミングでする。明日は6時半おきの予定だからま。今日は9時半出勤だったので7時に起きた。朝飯のバイキングは7時からやっているようだったが、7時半から行くことにした。
ちょい暑だからロンTを脱いだらエアコンが切れてしまっていた。こちらはカードキーを挿しても自動で再起動しないみたいだ。勉強した。あと3日もいたらこの部屋のことを知り尽くしてしまうかもしれない。そうなったら、こんな出張でも帰るには名残惜しいと思ったりするのだろうか。せっかくここまできたから、って意識は芽生える、下関のほうにいってみたい、小倉で焼きうどんを食べたい、森鴎外の旧邸にいってみたい、福岡市で荷物をコインロッカーに預けて、唐人町まで行きたい、とは思うけれども、名残惜しいって勿体無いとは違うわけでしょう。うーん、それもヒャクゼロの話ではないんだろうけど、ちょっとでもやっと帰れるよせいせいする、二度とくるかちくしょうめ、と思う部位が僕の頭のどこかにあるのであれば、途端に名残惜しいとはいいようのない心象だと思えてしまう。高校を卒業したあと、仙台でひとり暮らしをはじめるときは名残惜しかったかな。せいせいしていた。そろそろ実家の息苦しさに気づいていた。まだ両親の優しさを知らなかった。それが優しさだったのだと気がつかない、ことがたくさんあった。それでも、それはそれとして、僕はせいせいしていた。と同時に、ワクワクしていた。次なる不安にかき消されて、おかげで名残惜しさや寂しさを感じない、というメカニズムで僕の心は動いていなかった。不安な気持ちは、友達ができるかわからない、作ろうとしなければできなそうだ、という場面でだけ湧く。しかしそれが極めて深刻なものだった。今の僕の寂しさと、小学校のとき、あるいは大学一年生のとき、遊んでもらえる友達を探しているときの不安はつながっているどころか、ぴたりと一致する。
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