長い長いお医者さんの話

コルクの年末企画でやっている「年末年始に読みたいおすすめ」レビューリレー。

そして2回目のわたし。次に紹介したいのは、カレルチャペックの『長い長いお医者さんの話』。(中野好夫 訳)
児童書だけど実家を離れるときもしっかりと段ボールに詰め、今ではリビングの食卓脇の小さな本棚に収まっている。

忘れられないのは中学生の時。偶然立ち寄った美術館で、ドローイングの群れの中に、よく見知ったこの本の挿絵を見つけたのだ。

展示作家の遊び心と線に、私はもう夢中になっていた頃だったので、私の体に馴染んだ物語が突然目に飛び込んできて興奮し、急いで母に伝えようと、館内をかき分け小走りしたのを覚えている。急いで帰って本を開くと、物語をかいたカレル・チャペックの兄であるヨゼフ・チャペックが全ての挿絵をかいていることがわかった。

本は9つの短編からなる。どうしたものか困った珍しいケースの患者。その処方のため集まった医者たちが、肩を寄せ合い、為になりそうないつかのエピソードを長々と話しては、また別の医者がいつかのエピソードを長々と話していく「長い長いお医者さんの話」。
郵便局で夜な夜なカード遊びをする妖精(しかも使うカードは大切な郵便物!)を見つけてしまった仕事に疲れ気味だったコルババさんが、1つの手紙のために1年と1日も時間をかけることになる「郵便屋さんの話」。

ついまたこの本を開いてしまうのは、つぎつぎと飛び出てくる新たな展開に、このままで話がまとまるのかと不安になりながらも、気がついたらまたテンポよく収まっていく物語の妙と、そこにいるナンセンスでどこか悪く思えない登場人物たちのユニークさ。
そして、今ではどこか顔が透けてみえてくるような心地になる、ストーリーと挿絵の掛け合いのあたたかさだと思う。

#コルクおすすめ2016

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?