知らない景色を閉じこめる、小さい背中
祖母と一緒に旅行にいくと、たびたび開かれていたスケッチブック。
A4サイズもないくらいのスケッチブックを膝に乗せて、鉛筆を目の前に掲げてザザザッとアタリをつけたら柔らかくディテールをなぞっていく。缶ケースにはいった水彩絵の具をのせるとあっという間に目の前の景色が写されてしまう。
そういったシーンは旅行にいくとたびたびあたりまえに起きていたし、並んで真似事をしてみることもよくあった。
そのうち、祖母と遠出する機会も少なくなってきてしまったのだけど、今でも祖母は遠出をすると鞄を下ろすのも焦れったいようにスケッチをはじめる、一枚書いたかと思うとすこし座る位置を変えては正面をみつめてまた鉛筆を走らせだす。
目の前にある何かを、自らを通して咀嚼する必要性や切実さを考える時に、いつも頭に浮かんでしまうのはすスケッチブックに臨むあの丸い背中だ。
あたりまえにみていたあの姿も、きっと何か意味を成して、私をつないでいるのだろうと思う。