【鎌倉殿の13人・第32回】北条政子という女

第32回で北条政子は北条(江間)義時と決裂をしました。直接的なきっかけは政子の孫の一幡を殺さないように義時に命じて、義時もそれを受け入れたにも関わらず、義時は裏で幡を殺すように手を回していたことでした。
この件を受けて政子は義時を信用できないと言いましたが義時の面従腹背は義時から政子への信頼関係が失われていることの証でもあります。
この記事では政子のこれまでの行動から義時の信頼がどのように失われたのかを考察し、作中での政子の実像に迫りたいと思います。

京への使者を止めなかった政子

頼家が病から回復をし、これからどうするのかを北条家内で話し合っているときに千幡を次代将軍にするための使者を止めませんでした。政子が頼家に付くのであれば頼家を還俗させて現体制を維持するか一幡を継がせる必要があり、いずれにせよ使者を止める必要があったにも関わらずです。
結局この場は義時が使者を止めないことを決断しました。時系列的には義時の面従腹背の後の話ですが、政子が千幡(+北条)と一幡のどちらかを選ぶことができない人物であるということは義時が政子の命を無視して争いの火種を消そうとした理由になりえると思います。

義高から始まる政子の悪手

義時の政子への判断能力を疑うようなできごとは木曾義高の討伐から始まります。政子の娘・大姫の婚約者である木曾義高を頼朝は殺そうとしますが、政子は生かして欲しいと義時に依頼をしました。
義時は義高を生かそうと手を回すものの、義高が義時の策を無視ししてしまい結局死亡、その後、政子が義高を討った御家人を許さないと発言をしたことにより義高を討ちとった御家人は斬首刑となってしまいます。さらに頼朝はこれに乗じて政敵であった武田信義の息子を「義高の逃亡を手助けした」として誅殺します。さらに、政子が頼朝の説得に大姫を使ったことで、義高の死後に大姫は精神を病んでしまいます。もし大姫が事情を知らなければ「義高は遠くに旅に出た」などの”優しい”嘘で大姫が出来事を受け入れられるだけの時間を稼げたかもしれませんでした。
この時の政子の判断は義時目線で見れば、主を裏切るリスクを背負わされたにも関わらず、余計な命を失い、悲しむ人を増やしただけのものでした。悪手以外の何物でもないと思います。
その後も政子は頼家の側妻であったせつに頼家と率直に話すことを進め頼朝の遺志であった善哉の後継者の目を潰したり、義時は合議制の外から頼家を支える道もあったにも関わらず義時を13人の合議制にねじ込むことで義時と頼家の関係悪化の原因を作ったりしています。
政子の判断は人情に溢れ、人として理解ものではあるものの事態を悪い方向に動かしがちであったと言えます。これは、人情を理解しながらもそれを押し殺して勝率の高い決断をしていく頼朝や義時とは対照的です。

誰が頼家に比企滅亡を伝えるのか論争

また、政子と義時では優先順位にも差があります。第32回で政子と義時はどちらが伝えられるのかでひと悶着ありました。
結局政子が伝えることとなり、政子は頼家に「比企は頼家の後を追って自ら死を選んだ」と話します。しかし、これは言い訳にしても苦しいです。比企はこれ以前の話から一族の繁栄のことを第一に考えており、せつ以外は頼家のことはそのための道具くらいにしか考えていません(このことは比企が謀反をたきつけた範頼、全成をあっさりと見捨てたことからも分かります)。
頼家も「自分が危篤になったら自分を見捨てて一幡の擁立に動くはず」と考えたでしょう。そして、それは真実を的確に捉えています。頼家が政子の見え透いた嘘に激怒し、政子も含めた北条を許さないと言ってしまうことは仕方のないように思います。
もし義時が伝えるのであればそのあたりを踏まえて吾妻鏡に書かれていたように「比企が謀反を画策していることを察知したために族滅させた」という筋書きで話したでしょう。頼家が納得をし北条を許すかは別ですが、正当防衛に対して北条家全体の取り潰しまではしない可能性が高いと思われます。つまり、政子はここでも無理な判断で自分の心証を無駄に悪化させてしまっています。ただ作中の政子もそんなことにも気づかないほど愚鈍ではありません。悪手と分かっていてもそうせざるを得なかったのは偏に頼家に北条を恨んで欲しくなかったからだと考えています。このときの政子は義時が一幡に続いて頼家を殺そうとしていると思っています。頼家が北条に恨みを持っていればそれだけで義時に命を狙われる理由になる、だからこそ頼家が北条を恨まないで済むような物語を考えたのでしょう。
つまりここで政子と義時の判断を分けたのは判断力の差ではなく、守るべきものが自分の息子か北条・鎌倉かという価値観の差ということになります。

義時と政子の決裂と政子の行方

義時目線で見た政子は情に流されて判断ミスをする上に優先順位が違う人です。政子の指示を無視して一幡を殺すように動くだけのは仕方のないことだったと言えるでしょう。
そして、気になるのが政子のこれからです。歴史の教科書を見れば分かる通り源氏は三代・実朝の代で断絶します。一番大切にしていた子どもと孫を失った政子がどのように変わっていくのか、本作品のラスボスと思われる後鳥羽上皇が引き起こす承久の乱にどのように対峙していくのか気になって仕方がありません。

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