【兆し2/3-1】 陽香漂う倭國 ~娘たちの思い~
陽香漂う倭國
兆し
1 不思議な童女
2 アサリ貝と土探し
3 雨乞い
私とセキ
同じ郷里。
貝を美味しく頂いた
あの日
セキが自慢していた。
知っていますか?
故郷の鬼國は
鬼道ゆかりの地。
この地の者に霊力が備わっている。
セキも力を持ってる、て。 内緒。
でも私は ……サマ。 う うん…これも内緒。
それより
何故かあの鳥さん、私の傍に
親しげに 飛び込んでくるんだもの
驚いちゃった。
父ちゃん 烏の白さに驚いていたけど
足が三本あったのは
不思議じゃなかったのかな?
三足の白烏。
アサリ貝と土探し 1
呼國に窯を構える陶工の師匠キムは良い土を求めて國を越えよく旅に出る。
キムには二人の弟子がいて日女が大陸を出航する時に弟子の二人を乗船させた。
当時、倭國から大陸へ渡ってきた奴隷船には権力者への高価な貢物も積んでいた。
船の乗組員が家族の為に安価な土産物を持ち込んだり、商いを目的に船長にお金を渡し、倭国の珍しい商品を買い込む乗組員に扮する仲買人もいた。
このように闇の手によって大陸に持ち込まれて来た珍品は様々な国からの物で溢れていたが中でも倭国の物は珍品中の珍品と持て囃されていた。
キムは倭の器の魅力に取り付かれていたようだ。
また、弟子のハンとコウは日女の父上が幼くして奴隷の身として渡ってきた頃からの親交があった。
この地に来てもう何年経ったろう。
ある時、弟子のハンとコウは久しぶりにうまい貝をたらふく食べたいな!と盛り上がっていた。
二人は、利國にいる漁師と仲良くなり最近はアサリという貝が干潟でよく取れると噂に聞き、大陸にいる時に食べた貝の味を思い出していた。
満月の翌日辺りを狙うと大量だとかゴホウラやイモガイの干し身も珍味とか美味しい話は尽きることなくお腹の虫も喉も唾液が溢れ出し、一番の食いしん坊、コウは話の中でその気になってしまい五歳年上のハンに向かって師匠を説得してきてくれと囃子たてていた。
その顔は半泣き状態でいい年をした大人が鼻水とヨダレで袖がベチャベチャで情けない有様だった。
ハンは渋々その勢いに押され師匠のキムに相談を持ちかけに行った。
その日の師匠は非常に機嫌が悪く一方的に「★●◆!%#~♥*?@!!」と大声で捲し立てられた。
ハンが何をおっしゃっているのですか?と伺ってもより一層大声になり更にわからなくなった。
ハンの提案を聞くどころか耳さえ貸さなかった。
しかたなくハンは肩を落とし、師匠の耳に入れるまでもない情報があるのを思い出し去り際に小さくつぶやいてみた。
「そういえば、…漁師の友達から利國の山に良い土があると聞いていたんだった。 ふぅ、…しかし土を見る目のない漁師の話なので単なる噂でしかないとは思いますけど~ぅ。 では、失礼しました」
と頭を下げながら扉を閉めた。
二三歩、部屋から離れるや奥からまた、師匠の声がして、扉を開けるや何故かニコニコ顔の師匠が現れてハンを呼び止めた。
「ちょうど今夜は満月だ。明日朝早く旅に出るからお前たち、ワシを案内せい!」
先ほど師匠の部屋から尋常ではない大きな声がしたのでコウも急いで駆けつけた。
二人の話すハンの背中越しに師匠と目があってしまった。
コウはその瞬間
「今夜、私、ココデ死ンダネ」
と悟った。
しかし、満面の笑顔の師匠の猫なで声を耳にすると命拾いをした。
ハンと共にほっと胸をなでおろした二人。
実はキムはさっきから二人の話し声が部屋の奥まで聞こえていた。
仕事の話ではなく食い物の話題で盛り上がる呆れた弟子だと機嫌を悪くしていた。
でも、帰り際にハンが呟いた土の話を聞き逃さず、ニコニコ顔で食いついて来たという訳だった。
キムはどんな些細な話もこの目で直に見ないと気が済まないという性格で翌朝、日の出前に出発して二人に道案内をさせた。
利國は馬國の東に位置し筑後川の対岸にそびえる耳納連山を擁し、四つのムラからなり馬國に次ぐ大きな國。
また筑後川の河口は今でこそ佐賀平野を成しているが当時は地盤が下がっていた為に平野は没していて、河口はかなり上流の方まであったそうだ。
師匠達のいる呼國は南方に鬼國があり。その南東には筑後川の河口がありその流れに沿って干潟が広がっている。
三人はまず、鬼クニの南端をめざしそこでアサリ貝を食し、翌日四、五人乗りの底が平らな渡し船で利國をめざした。
広大な干潟で所々船を引いて足がぬかるみ泥んこになりながらの道中だった。
その船頭の話によると希にウミガメの死骸が浮き甲羅の一部が漂う時があると。
その甲羅を利國の巫女に持ってゆくとその年のコメの成育程度やいつが豊作か様々な吉兆を示してくれると聞いた。
師匠のキムは船頭に巫女の居場所を詳しく教えてくれと必死に懇願をしていた。
今日の天気はあいにく曇り。
太陽が真上にさしかかる頃ようやく対岸に着いた。
上陸すると、さっそくハンとコウの案内で土のある山を目指し歩きだした。
利國はコメと同様に林業も盛んな國で、二人が案内する山は隈長が治めるムラにあるのだと。ここの岸から進むと二つ目のムラで、かなり距離があった。
キムはなんだ二つ目かと距離も時間も、愛する土の為なら何のそのと十から十五歳も弟子たちより高齢なのに足だけは速かった。
キムの良質な土を求めるひたむきな情熱に二人は敬服しつつも、質の悪い土だったりしたらその根源の源は真逆の怒りとなりこちらに飛び火してこないか?
二人はふと不安がよぎった。
しばらく師匠の背中から伝わる楽しそうに足を運ぶ揺れを二人して眺めていると冷や汗が混じるのを感じた。
所々キムは二人を振り向きながらこっちで良いかと進む方向へ指差しながらそのつど、軽く手を叩きながら調子をとり進んでいた。
かなり山の奥に入ってきていた。
目印の倒木を見つけるやハンがあのあたりだったはずだと言うと、キムはさっさと掘ってみろとコウをたきつけた。
クワが土をかくたびにその土地が持つ独特の時代の空気が漂い始める。土の匂いというのか色なのか、キムは掘り起こされる土を手にしながら目の輝きに曇が刺してきた。
全体的に土の姿が見えたころ確信的に言った。
「やはり駄目だ。質的には中の上かというところ」
ハンとコウは小さな声でそれなら合格じゃん。
と思ったみたいだがキムはさっさと片付けをさせて二人を急かせた。