見出し画像

【諜報1/2-3】         陽香漂う倭國 ~娘たちの思い~

陽香ロマンただよ倭國わこく

諜報ちょうほう

1 交流
2 妹 カリン


交流 3

太陽はまだ高く屋外訓練場の周囲には不弥ふみの兵で取り囲み物々しい雰囲気で会場を包み込んでいた。

二人にとっては完全な血祭り状態。

会場の雰囲気に呑まれる事なく見物人のひとりひとりの特徴を食い入る様に見るガンはさすがに頼もしく感じられた。

ひな壇の上に立つ兵長のあいさつと一通りのルールの説明が終わるや会場はいよいよとの空気が高まり、あんなにうるさく感じたセミの声は、やじうまの歓声と怒号の入り混じったどよめきに押されて場内はさらに加熱してきた。

一試合目は素手か木刀か各々選んでの試合。

不弥側の選手で出で立ちも顔つきもとんがった若い教官らしい男が木刀を脇に挟み、手を合わせ場の中央に出てきた。
迎えるガンは武器も持たず素手だけで相手をするようだ。

互の礼が終わるや、はじめ!の激が聞こえすぐさま試合が始まった。
双方構えの姿勢からしばらく静観している。

普段から鍛えてある双方、構えからして付け入る隙がないようで見物人も意外な静けさを保ってしばらくは二人の動静に見入っている。
はやし立てる声がちらほらとではじめると、それを合図にしたかのように勝負は一瞬で決まった。

ガンが何かの動きに反応して首を動かし視線をそらせたその隙に相手は一度上段に動くと見せかけ横一線に左腕を頭上に身構えたガンの脇腹に木刀をドスッと振り当てた。
勝負あり。

場内は自軍の勝利に確信し盛り上がる。
ひな壇に兵長が上がり勝者側に体を向けて一試合目の勝者は我が軍だ!と言わんばかりに自軍をあおる威嚇の踊りを舞った。

ガンの不可解な仕草にて勝敗がついたことにセンも気づいてはいたが次に自分が戦わねばならない事へ気持ちを集中させ戦闘の矢筒を背負った。

事前に二試合目は先方から是非に弓矢対決をと促されてはいたが、先の勝敗を見て何か考えを変えた模様。

不弥側はセンが弓術の達人と知っての申し出。
実力を知って潰すには絶好の機会と狙っていたのかも知れない。
センは中央に進みながら即座に近くの石を見つけ握りこぶし程の石を自分の足元に無造作に投げおいた。
皆の視線が向けられたその石にセンは何の造作もなくその上に両足を揃え飛び乗った。
ぐらつくことなく直立をし、その姿勢のまま肩から弓をはずし背なの矢筒から一本の矢を抜くと構えた弓の張られたつるはビンッと鳴り、あらかじめ用意されていた的の中心を一閃で射止めた。矢は的を突き抜け羽の根元まで深く刺さっていた。
どれぐらいの距離で打ち抜いたのだろう、一瞬の出来事に会場も静まり返るしかなかった。

物静かにセンが一言。
「……今回私は木刀で戦いとう願います」と。

センにしては珍しく熱のこもった声だった。

勝ち抜き戦ではないのに、「だったらまた俺だ!」と言わんばかりに先のとんがった若い男が中央に出てきた。

センはうつむいたままその申し出を受け入れた。

試合の流れはガンの時と同じ展開となった。
静まり返った場内は誰かのため息が一つ、また一つと野次馬たちの辛抱の限界が切れた頃ヤジの声が大きくうなりだした。
訓練場は闘技場と化したように柵を取り囲む兵達は二人を野獣に見立て威嚇せんとする熱狂ぶり。

すると何かがセンに向かって飛んできた。
センは構えた木刀を少しずらすだけで弾き返しそのままとんがりの間合いに入り込み、みぞおちに木刀を突き立てた。
とんがりは悶絶。
のたうち回り声も出せないで倒れ込んでいる。

ガンはとっさに飛んできた方向に走り出していた。群衆の中に紛れて逃げられる可能性が高い。
雑踏をかき分けていく中に突如怒号とは違う、歓声? いや、野太い遠吠えに似た声がガンのすぐ目の前に上がった。
誰かが犯人を取り押さえたのだろうか?

しばらくして、ひな壇から事の顛末を見届けていた隊長が何やら側にいる兵長に耳打ちをしたあと、場内に向けて声を発した。
「今回、親善友好の試合に泥を塗られた形となった。ゆえに二試合とも無効試合とする。ひとまず会場の皆は持ち場に戻って良し!」と。
隊長がその場を仕切り、場の解散を促し当事者達だけ別の部屋に移らせた。

センとガンは別の部屋に二人だけにされた。
犯人の素性や目的を吐かせようと手間取っているようだ。
どれだけ待たせただろう。
ガンは部屋を何周も歩き回り、咳払いとも取れないような威嚇するような唸り声を時おり上げた。
目をつむり台座に腰掛け沈黙を貫いていたセンも矢筒の手入れをしながら気を紛らしていた。

センガン二人の気持ちは犯人の事以上に不弥から仕掛けてきた試合をお流れにした不弥の軍の裁きそのものが鼻についた。
センの圧倒的活躍によりガンの試合どころか取り巻きたちとの騒ぎ自体をこのドサクサに紛れてなかった事にされたのだ。
それは不彌の自軍の面目を潰さないためになのか。
最終的には怪我もなく自國に帰れればそれでいいのか。と二人は自分に言い聞かせようとした。

それから程なく使いの兵が現れ、二人が通された別室には数人の兵がいた。
もちろん兵長もいた。
中央にいた隊長がアゴで何かを指示すると、兵長が口元をヒクつかせながら説明をはじめた。

「捕らえられた者は自軍の兵の犯行。よってこちらで処罰を行う」と、続けて

「捕らえた者は自軍の兵ではなかった。素性の判らぬ男であった」と。

犯行の詳細を伝える兵長に対し、隊長自らが一様に驚く振りを見せた。

外側の壁に窓枠のような開口部があり樹皮を何枚か羽板のように間隔を空けて取り付けると明かりとりと換気ができた。
その隙間から陽が傾き西陽が刺すように入ってきた。
外ではセミがはやし立てるようにうるさくところどころ言葉が聞き取れなくて集中できなかった。

兵長の口ぶりは語尾の調子も強く上がり、センとガン両名は捕らえた者とグルではないのかとの疑いが持ち上がっているようだった。 
部屋の雰囲気は西陽が入りとても明るくはなったが更に息苦しい空気となった。

二人は不弥側の保身に走る論調や一方的に決めつけてくる軍の体質に憤りをあらわにするべくこちらも強気に身構えた。
ぼやぼやしていられない! 向こうの調子に合わせてられない! ガンは鼻息も荒く鋭い目つき。
すぐさま決着をつける意味でもセンは隊長に是非その者(捉えた者)にひと目合わせてくれないかと申し出た。

この隊長は見た目に反して優柔不断で、それを悟らせないようになのか、まず首を横に振った。
ガンは堪らず咳払いをすると、隊長の首は不自然な動きをした。そして直ぐさま口を開き、意図も簡単にすんなりこちらの具申を通してくれた。
単に押しに弱かった。

身構えていたガンは肩すかしをくらった。
(咳払いもしてみるもんだなとセンとガンは目を合わせた)


細い通路の先を進むと牢屋がありうなだれた男を見て二人はすぐに気づいた。
「こいつは門番で右側に居た奴ではないか!」 と声を揃えて言った。

隊長は傍に居た兵長を睨みつけると兵長は確認すべく足早に軍に戻って行く。

通路に吹き通る風はやさしく、うっそうと茂る樹々の葉影に目を休めていると、すぐさま整合性が取れたのだろう兵長が駆け戻って来た。
隊長と二人を前に「自軍の門番であった」と二人の発言を認めた。
それを聞いた隊長は「門番はうちの者だった。二人には済まなかった。嫌疑も晴れて良かった」と取り繕い、では、これで無事お引取りをと言い、外へ促そうとした。
隊長は牢にいる男と私達を引き離し事を収めようとしたが、センは笑みを浮かべそれを制して隊長の顔を静かに見つめた。

そして優しく切り出した。

「隊長。 何故あの者が私たち二人を助けたのか。それを自国で取り調べたいのですが宜しいでしょうか?」と主張すると

さっきから後手にまわり長としての面子が潰れていた隊長は、返答できる気力もなく無言のままセンの強気の目に己の目は泳ぎ、それでもしばらく凝視できたのはせめてもの抵抗だった。

その後、隊長は一つ咳払いをして兵長に釈放の手はずを出すしかなかった。

いいなと思ったら応援しよう!