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公園の前で



帰るべきところがある。

帰る方向が違う人と、向かい合ってる時間ほど
無駄なことはない。

あちらはあちらの行く先がある。
いや、ないのかもしれない。
どちらにしても、私にはどうでもよいこと。

私には私の帰るところがある。
私にとってとても重要なこと。

なのになぜ、また目の前に現れるあちらの人に
いちいち対応しようとするのか。

何かまだ分かってないことがある。

そう思っていたら、
遠くの家から電話がかかってきた。


「嫌われなさい。」



電話の向こうの誰かが、こう続けた。

「嫌いな奴に嫌われるほど、ラッキーなことはない。
金輪際会わなくて済む。
あなたからは絶対に近づかない。
向こうから来られても、対応できないでしょう?」



そして、こう続けた。
「あの人がこう言ったんだってね?
『あなたの邪魔はしたくないわ』

でもこれはただ、"自分は何も悪いことしてない"
って言いたかっただけね。そう言って逃げただけ。
だってあの人、何も謝らなかったでしょう?

でもいいのよ。それを使いなさい。
あの人がやる"使う"と、あなたのそれとは、
質が全く違うんだから。
それを分かった上で、自分の都合でとりなさい。

『ラッキー!じゃぁ二度と邪魔なんてしないでね。
邪魔しないって言ったよね?』って。

そしたら!ほら!やっぱり!!
やっぱりあの人、邪魔してきたでしょ?
大嘘つきじゃない。

でもほら、邪魔者扱いされたくないから、
「邪魔してますよね?」って言い出しそうな
あなたを見て、また逃げた。

悪いことして謝れないやつを
いちいち対応しようとするなんて大バカよ。
そんな時間はないんだから。

さっさと帰ってきなさい。
いらないものは持って帰ってきたらだめよ。

いらないものを置いて
返すもの返して
さっさと帰ってきなさい。

道草食わず、帰ってきなさい。」



電話を切って、ホッとした。

「それで良かったんだ。」
そう思った。


後ろの方から、
「それじゃ駄目だよ。」
と聞こえる。


あの人の言ってる駄目は、何が駄目かって?

道草食わないこと。
あの人みたいなお邪魔虫の相手をしないこと。

ずっと、公園で遊ぼうって声かけてくる。


私は知ってる。
あなたはそうやって、
いつも誰かを公園に呼び止め、
日が落ちたら、暗くなった公園に
その人だけを残してどこかへ行くこと。

一体、その暗闇で何が行われているんでしょうね。


だから私は行かない。
あなたの「それじゃ駄目だよ」は薄汚くて大嫌い。

それに、私、帰らないといけないから。
帰るところが、あるから。

あなたには、帰るところがないの?


そう言って電話をポケットにしまって
自分の行くべき道を歩き始めた。

そうだよな、時間はない。
あの人の為の時間なんて持ってない。
私の為の時間だけがあるんだ。



「あぁ、それで良かったんだ。」




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