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鎌倉駅徒歩8分、空室あり

『鎌倉駅徒歩8分、空室あり』

越智 月子(著),
発行:幻冬舎

鎌倉には、もう20年近く前に1度
観光で行ったきりですが、
潮の香りに、揺れる木々。
リスが幹を駆け上がり、鳥たちが鳴く
その情景がありありと目に浮かぶ小説です。

そして、このシェアハウスに集うのは
けして若くはない、女性たち。
私もアラフォー(というか40ど真ん中)ですが
これまで生きてきたなかで
それなりにいろんなことを経験して
譲れないところも、大人ぶって我慢してしまうことも
あるのはすごくよくわかります。
そんな彼女たちが優しさもエゴも含めて
心をさらけ出して暮らす様子に癒されます。

この小説のなかに出てくる
キーワードとなる食べ物。
「コーヒー」と「カレー」。
もちろん、ひとつのコーヒー豆
ひとつのスパイスでも
美味しいかもしれません。
でも、その時の気分や体調、気候に合わせて
いろんな豆を、スパイスをブレンドすることで
美味しさは無限大な飲み物、食べ物です。
癖のある香辛料や豆、それだけでは
眉をひそめるようなものも
ブレンドすれば不思議なくらいに
香ばしくなったり、コクが出たりします。

人間関係も、こんな具合に
いろんな人たちの経験や価値観をもちよって
それが一緒になることで、
新たな価値観、居心地の良さが生まれる
ような気がします。

ドラマティックな大事件は起こりません。
でも、彼女たちの暮らしぶりを見守りながら
潔癖さんも、ルーズな人も
せっかちさんも、のんびりさんも
いい意味で、私は私、でも違う価値観の人も
いるんだなと認められたなら
肩の力が抜けて生きやすくなるんだろうなと
気づかせてくれました。

しみじみと、地に足のついた
暮らしぶりにほっこりとする小説です。

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